仕事の準備を怠らないのは・・・大人として当然ですよね? 75
第一章 七一話
ライモンドが説教台に登る。集音機には見覚えがない様だが拡声器になっているのは伝えてある。
「みんな、聞いてくれ。俺は自由業組合、組合長のライモンド・ブレナンだ」
大聖堂にいた領民達が一斉に彼に注目する。後ろの方にいた者達は多少声が届いて居ることを訝しんでいるが....殆どの者達が彼に注視している。
「このアルブレヒト大公領がアルバ地方と名を変えて随分経つ....その間、ここにいる皆があらゆる苦難を耐え忍んで来た事は....わざわざ俺に言われなくとも分かっているよな....」
そう言って彼は....一瞬目をつむり、目前の領民達にもう一度視線を向けた。
「....今更言っても詮無い事だが....大公殿下の次にここに来たジェロームのヤツは....ロクに領地を治めもせず、ギルムガンが攻めてきたらあっさり逃げ出しやがった!」
静かに話を聞いていた領民達はにわかにざわつく。どうも領主が逃げ出した事すら知らなかった領民もいた様子だ。確かに....情報伝達については、殆どが“口コミ”のこの世界ではムリもない。
「今回ギルムガンが来たのは....向こうに逃げ出せたアルバの民がギルムガンに働きかけてくれたからだ! 勿論ギルムガンにだって思惑はあるだろう! だからと言って俺たちの同朋を保護してくれた事には変わりないし、曲がりなりにもグラムを追い払ってくれた!」
そこで領民たちからヤジがとんだ。
「じゃあなんでギルムガンのヤツら国に帰っちまったんだ? 最後まで責任持ってくれよう!」
ライモンドがジロリとそちらに視線を向けたあと....更に大きな声をあげる!
「....いいのか? みんな! 本当にそれでいいのか? グラムのヤツらは庇護者を名乗るに値しない事を自ら証明した! ギルムガンは一時的に助けてはくれたがよその国の事に介入し続ける事は出来ない!! そして....俺達の敬愛していたアルブレヒト大公は俺達と俺達の子供達を守ろうとして命まで投げだされた!!!!! 」
ライモンドの叫びが大聖堂にこだまする。いつの間にか、ヤジを投げていた男達も息を飲んでライモンドの言葉に聞き入っていた。
「俺達は何をした? 俺達の....一人一人が非力な事は認めよう。だが! 俺達は俺達に出来る事を全てやったか? 違う筈だ!! 俺達には....まだやれる事が残ってるはずだ!」
ここまで殆ど何も口を挟まないで聞いていたが....ライモンドさんにはどうも“先導者”としての資質があるみたいだ。本人曰わく「トラブル処理係」などと宣っていたが、ギルドマスターを務めるだけはある。その証拠に....聞き入っていた領民達の中から少なからず賛同の声が上がり始めている。
「いいか! 俺は....何も無謀な戦いをしようってんじゃないんだ! 今が俺達に訪れた最初で最後の好機なんだ!! ギルムガンは何も全員が帰っちまった訳じゃない、俺達に賛同してギドルガモンを討伐した凄腕が残ってくれた!!」
ギドルガモン討伐の話が出た瞬間....驚きが領民達に広がって....アローナとグラブフットが講壇に上がると更にどよめく。まずアローナがマイクに進み出て....
「....私の母はグラム神聖国を追われて、ギルムガンに流れついたわ。それだけが理由じゃないけど落ち着ける故郷が脅かされる気持ちは....よーく知ってる!」
間髪入れずにグラブフットが、
「みんな後ろを見てくれ」
そう言ったのを合図に、大聖堂の入り口付近にギドルガモンの頭蓋骨を出現させる。後ろを振り向いた領民達は....もう、単純に驚愕する以外の事が出来なくなっている。
「見てくれれば分かると思うが....ギドルガモンは俺達が狩った。だが....これは俺達だけの力じゃぁない! ギドルガモンを打ち倒した力を出すにはここにいる皆の力を合わせなければならん! だが! ここにいる皆の魔力を合わせれば伝説の神獣を打ち倒す程の力を出すことが出来るという事だ! その証拠は....既に領都を囲む城壁を見れば分かるだろう!!」
ここで....グラブフットの頭上にスキルの応用で作った巨大スクリーンを展開して....瞬間的に城壁が出現する“動画”を流した。
正直....畳みかける『情報の洪水』に領民達はパンク寸前だろう....だが....素面の人間を“戦に駆り立てる”のは不可能だ....手段としては誉められた代物ではないが....可能な限り“士気”を高めて“その気”にさせなければならない....
動画が終わったタイミングで、再びライモンドがマイクの前に立ち....
「....俺が“今しかない!”と言った理由を分かって貰えたろうか? 俺は....このままゆっくりと死んでいく故郷をただ見ているのは我慢出来ないだけなんだ! 皆に無理を言っているのは分かってる。突然戦が始まって訳も分からず力を貸せと言われて戸惑っているだろう!! だが!! これは子供達に平穏な故郷を残す最後の機会なんだ!!」
そこで....最後に領民達の中から進み出た女性が、静かに向き直って領民達に素顔を晒した....
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