難しい仕事ほど・・・断れないしがらみがあるもんですよね? 64
第一章 六十話
正直なところ・・・・猫が喋るだけでも自分の理性を若干疑う所なのに・・・・その猫はここが地球ではなく別の世界だと言う・・・・いや厳密には地球なのは間違いないのか・・・・ややこしいなぁ、もお!
「・・・・・とりあえずここが何処か? というのは・・・・納得はしづらいけど、理解はできたわ。でも・・・・さっきの話に出て来た・・・・えっと“エボリューションクラスのモンスター”ってのと“それを討伐した存在”てのはなんなの? それに“私が複製体”っていうのは・・・・? 」
「・・・・もう少し詳しく話すよ。さっきの説明で出て来た、本能進化VRシステム“本能進化促進プログラム”はその名の通り“冒険”を体験する為の物なんだけど、その中でもストーリーに沿って“冒険”を続けると現れる“一定難易度以上の討伐困難対象”の事をエボリューションクラスと言うんだ。分かり易く言うと“ボスキャラ”って感じかな。」
なんとまぁ、“魔法”に“神様”に“ボスキャラ”と来た・・・・まんまRPGじゃん。
「それが実体化したの? なんともはた迷惑な話ね。」
「全くだね。だけど、エボリューションクラスのモンスターは、それぞれ特殊な能力や、通常の能力でも隔絶した出力を誇る、正に“ボスキャラ”として設定されているんだが、それはあくまでも冒険を続けると現れる”キャラクター”なんだ。極端な話、自分から干渉しないと殆ど害はないんだよ。」
それにしたって危険な猛獣程度の騒ぎではないだろう。いや、私の住んでた世界だって、世界規模で見渡せばライオンやトラやクマなんか当たり前にいるか・・・
「まぁキャラクターの設定で“近隣の集落を襲う”なんて設定をされているイレギュラーなヤツらもいるけど・・・・人類もバカじゃなければ“天災”の近所に集落を築いたりしないだろう?」
「そりゃあ、そうよね。」
「そうさ、【神】も流石に“完全に野放し”では無く、高次元に移住する前に“本当にヤバいヤツ”は、彼等の力をもって討伐したらしい。だが彼等とてこの世界に無数に散らばったモンスターを完全に駆除するなど不可能だ。」
特定外来種が繁殖した様なもんなのかな?【神】を名乗る位ならそれくらいはして欲しいとこだけど・・・
「そこで彼等は・・・・エボリューションクラスの存在を逆に捉える事にした。過剰な進歩を抑制して汎人類の“種”としての暴走を抑える“一定のリミッター”として考える事にしたんだ。結局それが“種”としての延命につながると判断したんだね。」
うーん・・・・そうなるのか? 良く分かんないけど。
「だが、これ幸いとそのまま放置するのもはばかられる事情があった。エボリューションクラスのモンスターは言わば“高難易度のキャラクター”として設定されているせいで、倒した存在に対して“討伐ボーナス”が設定されていたんだ。」
これまたゲームにありがちな設定ね。
「ヤツらを倒す様な存在が現れるだけでも、生態系や進化系にとっては相当に歪な存在なのに、さらに“そんなもの”なんかが付与されたら“あるがままの進歩”にどんな影響を及ぼすか・・・・分かったもんじゃないだろ? だが【神】は次元震や次元連結なんかの“本物の天災”以外では、干渉を避ける為、あくまでこの世界で起こった事象には不干渉なんだ。そこで“イレギュラー”が現れた場合、【神】が干渉する事なく、あくまでこの次元で事を収める為の“最終安全装置”が俺達なんだよ。」
「ちょっと!さっきから俺達俺達って・・・・もしかして、その俺達には私も入ってるって言いたいの? 言っとくけど私、なんの取り柄もないフッッツウの三流大学生だかんね! それに一向に説明してくれないけど私が複製体ってのはどういう事なのよ!」
この猫の説明が一向に確信に入らないので少しイラついてしまった。それに、ここまで来れば猫が何となく“私の話”を先延ばしにしてるのも薄々感じられる。
「ふぅっ。そうだね、何時までも先延ばしにしても仕方無い・・・・それを話す前に一つだけ教えて欲しい。君の地球での記憶は何時まである?」
「そんなの昨日アパートで眠ったとこまでよ! だからこんな奇天烈な状況が分かんなくて困惑してるんじゃない!」
「分かった・・・・まずは落ち着いて聞いて欲しい。君の記憶にある最後の就寝後、現地時間にして約3時間35分後、君はアパートの火災に巻き込まれて死んだんだ。」
「・・・・・・・・・・・へ?」
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皇帝フリードリヒから言質を貰い、グローブリーズ帝国の迎賓館に戻って来た僕達は、サロンでこれからの事を簡単に打ち合わせていた。
「ふう、それにしても先程は肝が冷えましたぞ。まぁ、なんとか三国までは承認されたと考えれば、結果としては悪くないが・・・・多少は自重して頂きたい所ですな、コーサカ殿」
うーん、やっぱりそうか・・・・伯爵にはいらぬ心労を掛けてしまったな・・・・
「重ねてお詫び致します、ビットナー伯爵。」
「いえ、責めているのではないのです・・・・ただ、コーサカ殿は隔絶した力を持っておられる。そしてそれは・・・・望む望まざるに関わらず、その存在だけで周囲に大きな影響を与える物なのです。コーサカ殿の目的の為にも、その事を十分に理解しておく事が、ご自身にとっても良い結果をもたらすでしょう。」
ああ、本当にその通りだ。多少の力を持って少し浮かれてしまっていたかもしれないな・・・・
「ご忠告痛み入ります。これからは更に注意してことにあたりますので・・・今後ともご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い致します。」
「いやなに、しょせんは老いぼれの老婆心ですわい。コーサカ殿が、話せば分かって頂ける御仁と理解しているからこそです。」
思うが・・・・分別のつく大人が身近に居るというのは、何事にも代え難い幸運だな。っと、そこで会話を聞いていたヒルデガルドが、
「してコーサカ殿? 今後の予定は? 」
「まず、アルバの領都であるグランヴィアに戻って、グラブフットやアローナと合流します。最後の交渉相手である“グラム神聖国”と話をつけなければなりませんから。」
そう、〈“アルバ地方を独立”させて各国間に“政治的緩衝地帯”を設ける事で、国家間の紛争を避ける。〉というのが、僕とミネルヴァが考え出した策だ。
その為には“グラム神聖国”からアルバ地方を割譲させなければならない。だがグラム神聖国側からすれば、たとえ赤字の続く領地だったとしても、とても許容出来る事ではないだろう。それこそ“国のメンツ”だけの話では無くなる。
ここまでの三国には、“条件付き”ながら、良い返事が貰えたが、本格的に難しくなるのはここからだ。それは皆が分かっているのだが、特にシドーニエが心配そうに切り出した。
「コーサカ様、コーサカ様の事ですから、きっと“良い策”をお考えだと思いますが・・・・どうなさるおつもりなんですか?」
と、恐る恐る訊ねてきた。・・・・やっぱり、あまり信用されてないみたいだ。まぁ、今までの実績を考えればそれも当然か・・・・
「ご心配には及びませんよ。まあ、無理を言ってるのは分かってますから、まずは誠心誠意お願いする事から始めましょう。」
そう言って皆を安心させようとしたのだが・・・・この場にいる全員が、どうにも“信じられない物を見た”様な顔になっている・・・・
「皆さん、そんな顔をしないで下さい・・・」
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