難しい仕事ほど・・・断れないしがらみがあるもんですよね? 62
第一章 五八話
カナタが小さく頷くのを見て・・・伯爵が皇帝フリードリヒに答える。
「畏まりました陛下。寛大なご判断を賜り、恐縮で御座います。」
「ふんっ、話を持って来る前から、全ての逃げ道を潰しておいてよく言う! そもそも・・・そなたらが何より欲したのは、帝国の後ろ盾等ではなく、我の“アルバに何が起きても関知しない”という言質であろうよ?」
へえ・・・やっぱり大国のトップは侮れない洞察力を持っている。この僅かなやり取りで、そこまで読むか・・・そこでそれまで、殆ど発言しなかった宰相リップシュタット公爵が声を挙げた。
「恐れながら陛下。熟慮の末とは存じ上げますが・・・今一度、お考え下さいますよう上奏致します。」
「ほう? 何故だ、ドミトリよ?」
「は、恐れながら・・・そこなカナタと申す輩が先程行使した魔法・・・おそらく“転移魔法”と推察致します。」
チラリとこちらに視線を送り、またすぐに皇帝に視線を戻す。
「ふむ・・・・なる程確かに。先の所業は“御伽噺”に聞くかの様な魔法であったな。してそれが何を意味する?」
「はっ、幾つか聞き及んでいる事と転移魔法を考え合わせれば・・・そやつは先の戦役にてメッテルニヒ子爵の足を止めた輩に相違ありますまい。その様な輩なれば“帝国”に対してどの様な想いを持っているやら計りかねます。まして、この様に重要な案件を“他国の王”を介して持ち込むなど・・・腹にどんな計略を抱えているやら想像も出来ません。」
・・・なる程鋭い考察だし、仰る事はご尤もだ。流石に帝国は良い人材を抱えているな。流石に“武器盗難事件”は別として、僕が怪しい事くらいは皇帝だって先刻承知だろうが・・・
「カナタと申したな、余の信頼する宰相が懸念を抱いておるが?」
若干の含みを漂わせながら皇帝から話を振られる。どうもここが提案の勘所らしい。極短い間に考えを纏め、神獣の首が印象に残っているうちに、強気で押す事を決定する。
「宰相様。御懸念は尤もかと思われますが・・・その心配はご無用かと存じます。」
「ほう? 何をもってそう言い切るのか? 得心のいく答えがあるなら聞かせて貰おう。」
胡散臭さそうに言い放つ宰相、まあ気持ちは良くわかるが・・・あんまり舐められるのも交渉事には良くない。
「そうですね・・・まず前提として、確かに僕はトライセン王国に恩義がございます。しかしそれは帝国に敵意がある事とイコールではございません。その事は、国王ブルームハルト陛下をはじめ、関係者の方全員が良く御存知です。」
即座にビットナー伯爵へ視線が集まる。伯爵は・・・何も言わず、ただ静かに頷いた。
「また、アルバ地方への干渉は、半ば成り行きと申しましょうか・・・・不遜ではありますが、僕自身は帝国にもグラム神聖国にもなんら興味はないのです。そして・・・アルバの地をもって争乱を鎮める考えは、僕自身に利益があるからであり、けしてどこかの勢力に加担しているからではございません。」
「・・・その言葉を信じる根拠は?」
「遠慮無く申しましょうか・・・もし僕が帝国に害意を持つ者ならば・・・既に帝宮は瓦礫の山と化しているでしょう。無論、その様な事は望んではおりませんが・・・お望みなら、三首の神獣にとどめをさした魔法でもお見せしましょうか?」
そう言い放った瞬間、宰相をはじめその場にいた全ての者の顔に緊張が走った。近衛騎士などは、即座に抜剣し宰相と皇帝の前に踊り出る。そこでビットナー伯爵が、
「コーサカ殿、戯れが過ぎますな! 皆の者静まるがいい! このコーサカ殿は無闇に力を振るう御仁ではない! トライセン王国貴族ブランデル・フォン・ビットナー伯爵の名にかけて誓おう。」
まずい・・・・やり過ぎたか? 慣れないハッタリは加減が難しいんだよ。
「・・・・失言でした。ご無礼は謝罪致しますので剣をお納め下さい。僕が望むのは、ひとえに“平穏のみ”と、ご理解頂きたいだけなのです。」
そこで皇帝陛下が改めて問い掛けてきた。
「何故平穏を望む。三首の神獣の首を難なく狩れる程の者ならば・・・栄達どころか国すら盗れよう? 」
「陛下、それは買い被りに御座います。僕は、救国の英雄でも神話の傑物でもありません。」
今でさえ落ち着いて“次元連結”を探すことすらできず、まして余計な厄介事まで抱えているのだ。さっさと騒ぎにけりをつけて考察しなければならない事が多すぎる。
「改めて申します陛下、僕が望むのは・・・故郷への帰還のみです。その場所は余りに遠く、またどちらへ足を向ければ良いかも知れない場所です。国がざわつけばおちおちと“その地を探す事”もままなりません。何卒、先のお言葉、そのまま受け取る事をお許し下さい。」
皇帝は、宰相の苦虫を纏めて100匹位噛み潰した様な顔を見て・・・何故か愉快そうに、
「安心するがいい、先程の言は覆してはおらん。やれるだけの事をするがいい。勘違いするなよ? 全てはグラム神聖国の出方次第だ。」
「・・・感謝致します、陛下。」
こうして・・・とりあえず皇帝から“言質”を取った僕らは、一旦帝宮を去り迎賓館に戻って来た。無論三首の神獣の頭蓋骨は回収してある。因みに・・・皇帝陛下から、とても強く“譲って欲しい”と打診されたが、まだ必要なので丁重にお断りした。
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「猫が喋った! うそ? ドラ○もん?」
いや、目の前にいるのは、あんな2等身の青いタヌキでは無くどう見ても普通の、いや少し小ぶりな猫だ。
「ドラ○もんとは何だい? いやそれは後にしよう。初めまして、俺はこの“最後の砦”にて保存されていた保全用サブシステムだ。本来は君に直接書き込みされる筈だった情報をバックアップとして保持している。その擬似魔力体を構成する際に、システムエラーでインストール不可能だった為、俺が同時に解凍され、君の補佐をする事になった。」
・・・・なにを言ってるんだコイツ? 猫の癖にやたら“小難しい事”を並べ立ててくれるじゃない。どうにも納得がいかないが、今は疑問が山盛りだ、会話が通じそうなのでとりあえず聞いてみよう。
「えーっと・・・・初めまして? 知っているなら教えて欲しいんだけど、ココ何処なの? 私なんでここにいるのかな?」
「・・・・そうか、初期仕様説明もインストールされていないんだね・・・では改めて説明しよう。さっき君は自分を“久坂一生”と認識していた様だが、それは正しくもあり、誤りでもある。今の君は・・・多次元情報集積記録からコピーされた地球人“久坂一生”の複製体なんだ。」
「・・・・・・・・・・・・は?」
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