難しい仕事ほど・・・断れないしがらみがあるもんですよね? 60
第一章 五六話
皇帝フリードリヒ・フォン・グローブリーズは、宰相リップシュタット公爵から受けた報告を聞いて僅かに眉を顰めた。
突然トライセン王国が、今回の軍事侵攻に対して“最低限の保障”しか要求しないと通告して来たのだ。
「それで・・・・条件は? 同盟の話もしたのであろう?」
「はっ、それが・・・・現交渉特使たる者の父でビットナー伯爵と申す者が、ブルームハルト二世の親書を携え、既にこちらに向かっておるとの事でございます。」
「ふむ・・・・どうも解せんな。アルバ地方にギルムガンが攻め込んでから、同盟の申し入れをしたのがつい先日の事だ。当然向こうも何かしらの思惑があろうが・・・・ちと動きが早すぎるのではないか?」
「確かに、この動きから考えて・・・・トライセンは、既に何らかの情報を握っている可能性が多いにございます。」
「こちらの諜報はどうなっておる?」
「は、聖都よりのバードメールによれば・・・彼の国は既に領境に向けて先遣隊を向かわせおります。なれど・・・アルバ地方を真剣に取り返そうとしているかは甚だ疑問でございますな。」
「ほう? 何故だ?」
「彼の国が自国を侵され、あまつさえ一地方を占拠せれている事を考えれば・・・奴等の動きは遅すぎます。アルバ地方を治めていた領主や領軍もほぼ無抵抗のままあっさりと逃げ出しております。まるで奪い取って欲しいかの様です。」
「・・・・彼の地は確かに奴等にとっては旨い所ではなかろうが・・・それも奴等らしくない、か。引き続き諜報には当たらせているのであろうな?」
「は、そちらは抜かりなく。」
「ならば良い。今はトライセンの出方を見るとしよう。さがって良い。」
「御意にございます。」
・・・・どうも良くない傾向だ。手筋を進めようにも盤上に霞が掛かったような・・・
「見えておらぬ事がどうも多すぎる。ならば時を待つのも一手か・・・・」
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ベルギリウスに戻って数日、予定通りなら今日にもビットナー伯爵が到着する筈だ。僕が迎えにいけばそれこそ一瞬なのだが、それでは帝国に入国した記録が残らない。無用な疑念を与えぬ為にも形式はおろそかにすべきではないだろう。それにこちらでも根回しに必要な時間がとれたと考えれば丁度いい。
{ミネルヴァ、伯爵の到着はあとどれくらいだろうか?}
{街道に配置したドローンオウルからは既に帝都間近に迫っておられるとの事。早ければ30分以内というところかと。}
{分かった。そろそろヒルデガルド様の所へ行くよ。}
{かしこまりました。}
ふわりと舞い上がったミネルヴァが右肩につく。そのままあてがわれた部屋を抜けヒルデガルドの居室に向かう。ノックして声をかけるとシドーニエが対応してくれた。
「コーサカ様? 如何なさいました?」
「もうすぐビットナー伯爵が帝都に到着される筈です。」
「何故それを・・・・いえコーサカ様ならばご存知でも不思議は有りませんね・・・・」
変な納得のされ方をしてしまった。まあいい・・・
「では伯爵が到着されたらお取り次ぎをお願い致します。」
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それから暫くは自室で待機(実際はテンプオーダーで)しながら、これからの提案の準備をしていた。
ほどなくノックと共にビットナー伯爵の声がドアの向こうから聞こえて来る。
「コーサカ殿は御在室か?」
素早く自室に戻りドアを開けて伯爵を招き入れる。
「お待たせしました。無事に到着されて何よりです。」
「恐縮ですな。娘より話は聞き及んでおります。コーサカ殿こそ大変でありましたな。」
「いえ、ご心配痛みいります。それに・・・トライセン王国にとっては余計な事をしでかしました。平にご容赦願います。」
「なんの! 今度の事はトライセン王国にとっても悪い話ではない。まあ、それもこの後の謁見での成否次第でありましょう。」
「・・・・そう言って頂ければ助かります。それでは謁見はこの後すぐに?」
「ええ、今回は陛下よりの“親書”を携えております。恐らく最優先で皇帝への目通りとなるでしょうな。できればコーサカ殿の事は秘匿しておきたかったのですが・・・・事ここに至っては仕方ありますまい。」
「お気遣いを無碍にしてしまい、重ねて申し訳ありません。」
「なに、これからしていただく働きを考えれば、なんの事もありませんな。さあ、時間も差し迫っております。」
「ええ、ご同行させて頂きます。」
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帝宮の謁見の間はかなりの大きさで恐らく平均的な体育館の半分ほどはある。これなら話しやすい。そうこうしている内に皇帝と思しき人物がやってきた。
「はるばるの来訪、大儀である。」
「は、陛下におかれましては急な謁見を賜り恐悦で御座います。早速では御座いますがこちらが我が国王よりの親書で御座います。」
ビットナー伯爵が取り出した親書を、皇帝の側近が盆に載せて恭しく運んでいく。
「拙速ではあるがこの場で目を通そう。今は時が肝要であるからな。」
そう言って蝋封を開けて親書を広げる。暫し目が書面を流れる。程なく内容を把握した皇帝は明らかに顔色を変えた。が、内心の驚愕はおくびにも出さず・・・
「ふむ。恐るべき内容であるな。して・・・まず問おうか? この親書の内容が事実であるならばそれはどう証明する? ブルームハルト殿の蝋封とサインがあるが、それだけでは些か信じ難い内容だ。」
「なる程、仰ることは理解出来ます。確かにこの度の提案は俄かには信じ難い事でありましょうな。当然我らとしてもそれを証する事の重要性は理解しております。」
「ほう? そう言うからには何か用意があるということかな? ビットナー卿?」
「は、ご説明にあたり、まず紹介しなければならないでしょう。コーサカ殿こちらへ」
ビットナー伯爵より声がかかり、使節団の一番後ろから立ち上がって前方へと進みでる。伯爵が静かに頷いたの確認した後、多少普段より力を込めて話し始める。
「お初にお目にかかります陛下。僕はカナタ・コウサカと申します。この度は少々ご縁がありまして伯爵の使節団の末席に加えて頂きました。」
「ほう? その口振りからするに伯爵の部下という訳ではなさそうだな? ならば伯爵は正式な謁見の場に部外者を連れ込んだということか?」
途端に皇帝の側近達が気色ばみ、近衛は帯剣の束に手をあて警戒を強める。
「いえ、陛下。確かに僕はトライセン王国の人間ではありませんが・・・部外者とも申せません。」
「ほう? 何故だ?」
「それは・・・そうですね、先程の親書の内容を証明する為にもお見せしたほうが早いでしょう。ビットナー伯爵、皆さん、少しその場から下がって頂けますか?」
声を掛けると皆心得ているとばかりに謁見の間の一番後ろまで下がって行く。皇帝をはじめ側近達は何が始まるのかと困惑顔だ。
{ミネルヴァ、座標は問題ないな?}
{問題ありません。既に必要な魔法式の構築も済んでおります。}
{ありがとう。}
そこで皇帝の側近であろう白髪の人物から声がかかる。
「その方コーサカと申したな? 証拠を見せると言っておきながら一体何のつもりだ?」
「お待たせして申し訳ありません。何分必要以上に大きいもので・・・“エクスチェンジ!”」
これ以上問答になっても面倒なのでさっさとスキルを行使する。目の前に広げられた空間が瞬間白く輝き、それが収まった時、そこにあった物を見て思わず皇帝が立ち上がる。
「・・・これは? まさか?」
「これが証拠の三首の神獣の首です。」
謁見の間には・・・・巨大な竜の頭蓋骨が三つ並んで鎮座していた。
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