現場の事情は・・・偉い人には分からん物なんですよね? 51
第一章 四七話
暴風の翼竜王は、黒水晶から削り出した様な竜鱗を激しく軋らせ、身じろぎをしながらギドルガモンに向き直った。
『ガガガガギガガギャギガギャッッ!!!』
如何にも硬質な物同士が、個擦れ合う音を撒き散らす。そしてその視線は・・・一回り大きなギドルガモンに対しても、まるで臆した様子を見せない。
一方、ギドルガモンはというと・・・突然現れたテンペストワイバーンを、多少警戒はしている様だが・・・その姿は、三つの首を静かに揺らして佇んでいるだけで、テンペストワイバーンとは対照的だ。勝手な想像だが “血気盛んな若造” を眺める “老練な熟達者” を想像させた。双方の様子を確かめつつ、次の一手を考えている処へミネルヴァから、
{主殿、能力解放の際に彼の擬似人格をバージョンアップしました。双方向インターフェースも増設しましたのである程度の意志疎通が可能です。}
{それはすごいな。話してみるよ。}
意識をテンペストワイバーンに向けて話しかけてみる。
〈テンペストワイバーン? 聞こえるかい?〉
〈音声認識良好、現在魔力ヲ集積シナガラ警戒態勢デ待機中。〉
〈テンペストワイバーン・・・呼びにくいな! これからは“リンドルム”と呼ぶからそのつもりでいてくれ! 小手調べだ。ヤツにお前の竜巻を食らわせてやれ!〉
時間がないので北欧説話の“竜王”からそのまま名前を貰ってしまった。
〈命令受託!即時牽制攻撃ニ移リマス。〉
{ミネルヴァ、即時に防御結界を構築! 同時に魔 力の集積率を最大まで上げてくれ!}
{了 解!}
リンドルムのまとう無数の竜巻が一回り大きく成長し、唸りを上げてギドルガモンに飛んで行く。
ギドルガモンは攻撃の気配を察知すると即座に翼を広げた。広がりきった翼全体がまるで陽炎の如く揺らめき、左の顎から連続で竜巻と同数の“液状の球体”を吐き出した。
{結界構築完了!衝撃に備えて下さい。}
ギドルガモンが放った球体とリンドルムの竜巻が激突し、激しく液体を巻き込んでいく。次の瞬間、竜巻は白い煙りを吹き上げて全て消失し、キラキラとした粉末が衝撃波と共に辺りに広がっていく。結界で衝撃派と白い粉末を防ぎつつ観察すると・・・
{ミネルヴァ、ヤツが吐いた物が何か分かるか?僕には外に押し寄せて来てるのが粉雪に見えるんだが?}
{急激な温度低下と大気成分の変化を確認しました!恐らく翼全体を放熱機関として、空気中の窒素を急速に冷却、液体化して吐き出した物と推測されます。}
{・・・ヤツめ、熱線のブレスといい・・・何でもありだな。}
{先程のブレスも大気中の二酸化炭素と窒素を利用した炭酸ガスレーザーだと推測されます。}
{あの馬鹿げた出力でか?とんでもないな・・・瞬間的に扱う出力が桁違い過ぎる。全くどうしたもんか・・・}
〈対象ガ移動ヲ開始シマシタ。上空二飛ブト予測サレマス。〉
リンドルムからの警告通り、ギドルガモンは翼をはためかせていた。久し振りに羽ばたいたからか、はたまた巨体の為かは分からないが、まだ浮き上がってはいない。だが羽ばたきの力強さがどんどん増している所を見るに、飛び立つのは時間の問題だろう。
「グラブフットさんでしたね。観察ばかりしてないで少しは手を出して下さい。」
「おっと・・・すまねえ、ちょっと驚いたもんでな。あんたの出した使い魔・・・俺の見立てが正しければ“貪り尽くす暴風”が使役する“四黒獣”の一頭じゃねえのか?」
「・・・少しお借りしていまして・・・それよりも奴が動きます。上を取られたら色々厄介です。いい足止め方法はありませんか?」
「ああ、任せな。これから奴にとっておきをかましてやる! 」
そう言い放つと、グラブフットは即座に詠唱に入った。詠唱その物は小声なのでこちらにはあまり聞こえないが、かなりの魔力を使用するのか、周辺の魔力が影響を受けてグラブフットの姿が歪んで見える。
その間もギドルガモンは大きく羽ばたきを繰り返し、とうとうふわりと浮き上がった。それと同時にグラブフットの詠唱も終わりにさしかかった様だ。その証拠に周辺の結界が解除され魔法を解放する準備が整う。
「・・・轟く地神の契り、瀑布を従え、影を縛るが如く、彼の力ここに束ねん! “黒柱重轟陣”」
詠唱が終わると同時に、ギドルガモンの下に巨大かつ複雑な魔法陣が現れ、更にその魔法陣が黒い円柱状に変化してギドルガモンを包み込む。
発動が一瞬であった為か、足元の死角からの攻撃だった為か、ギドルガモンは成す術なく上空に向かって伸びる黒い円柱に飲み込まれ、その巨体が全て飲み込まれたと同時に円柱の上昇も止まった。
見たところ問題無く効いた様だが・・・魔法の種類が判別出来ないままでは追撃し辛い。即座にグラブフットに問いただす。
「率直に伺いますが・・・“コレ” どんな魔法なんです?」
「クククッ、普通そういうのは魔法使い同士だと聞き辛いもんだがな・・・まあいいさ。コレは、魔法陣の範囲にある対象の重さを増加させる魔法だ。奴があんたに気を取られたおかげで、俺への警戒が下がった。助かったよ、正直この魔法は実戦で使うには詠唱が長すぎる。まだ完成してねえから最大限には重くなってねえが・・・今の時点で元の50倍位にはなってる筈だ。後はジワジワと完成していくのを待つだけだよ。」
そう説明しながら黒い円柱を観察していると、完成直後より徐々にその高さが下がって来ていた。そして、その高さが地面に達した時、ギドルガモンは、金色だった全身を黒く染め上げ、不自然な態勢で地面に張り付いていた。
「・・・流石に神獣と言われるだけはあるな。普通ならぺしゃんこなんだが・・・」
ギドルガモンは、全身を軋ませながらも起き上がろうとする・・・が、その度に失敗して地面にめり込んでいる。その姿を見て・・・正直、僕は困惑していた。
{ミネルヴァ? あれは・・・もしかして重力を操ってるのか? だとしたら一体どうやって? }
{此処から確認出来るかぎりでは、構築された魔法構造式に、明らかに理解不可能な部分が多数確認出来ます。推測の域を超えませんが、ガンディロス氏の持つ固有魔法と同系統の能力かと思われます。}
あ! そうか・・・あの時はファンタジー世界の事だと思って簡単に流してしまったが、ガンディロスさんの固有魔法も考えて見れば相当に不合理な物だった。まあ、その点については“お前が言うな”と言われそうだが・・・
{ミネルヴァ、コレで決まると思うか? }
{相当なダメージを与えたと思われますが、目撃証言から推測された奴の三つめの首の能力が本当ならば難しいと思われます。}
{そうか・・・エネルギー集積率は?}
{現在、集積効率を最大まで引き上げて稼働中です。彼の召喚で失った分は既に補填完了。彼自身の集積量も含めれば、ほぼ最大集積量です。}
{それでも、奴を転移させるには足らない・・・か? }
{そう推測されます。}
{分かった。奴がグラブフットの魔法で足止めされてるうちに例の魔法構造式を準備しておいてくれ。}
{了解!}
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