道具は・・・手に馴染む物が一番だと思いませんか? 26
第一章 二二話
広範囲電磁波探索魔法はミネルヴァが制御する雷魔法で、電気を作り出し放電方向をコントロールして仮想コイルを形成、高出力の電磁波を作り出し、地中のレーダー探査に利用する魔法だ。
魔法陣ごとに周波数を変更し電磁波の減衰、位相差、反射強度、電磁波の偏向、等々あらゆるレーダー探索技術の概念を応用する。
結果、探査範囲内のあらゆる地中の情報がカナタにもたらされた。この世界ではほとんど解らない貴重な情報だ。そして目的の...
「やっぱり火山帯に的を絞ったのは正解だったな。これでガンディロスさん達も喜ぶだろう」
鉱物資源の分布もほぼ完全な形で調査する事が出来た。
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調査を終えてシドーニエと王都まで戻って来た。
早速ビットナー伯爵と面会して調査報告をする。
「それではシャルテベルク山地周辺の鉱物資源はかなりの産出量が認められると考えていいのかね」
「はい。金、銀等の主要鉱物の他、鉄、銅、軽銀等の実用鉱物、各種の魔法金属もある程度の産出量を期待出来るかと...事が済むまでに必要な鉱物資源を少量、私の方で鍛冶屋街に供給する以外は鉱脈の分布図と産出可能深度を報告書にまとめて提出させて頂きます」
ビットナー伯爵は呆れ顔で尋ねた。
「これらの鉱脈は王族直轄地にあるとはいえコーサカ殿が見つけなければ恐らく誰にも発見出来なかっただろう。もう少し権利を主張してもいいと思うが...」
「...いえ、ご遠慮しておきましょう。今回採掘する鉱物資源で僕の欲しい装備品には事足りますし、暫く生活に困らない程度の蓄えも出来ます。後はアレディング商会を巡るトラブルが片付けば御の字です。内偵は進んでおられるのでしょうか?」
「ああ、報告してもらった例の場所を捜索したらすぐに分かったよ。今は制圧部隊を幾つか編成してる所だ。実際に今回の件に関わっている者の特定は身柄を抑えてからになるだろう」
「実動のタイミングは?」
「そちらで物資が行き渡れば相手も動きだすかもしれんのでな、それに合わせる事になるだろ。全ての後始末には一週間から二週間かかると見ている」
ならば、それまでは必要分を鍛冶屋街に供給しよう。
「それでは一旦お暇致します。早速これから鍛冶屋街に向かおうと思いますので」
「本来なら国がするべき仕事を肩代わりしてもらって誠に申し訳ない。宰相と相談の上、何らかの礼はさせて貰う。申し訳ないが鍛冶屋街をよろしく頼む」
あまり固辞するのも相手に悪い。ここは素直に受け取っておこう。
「ありがとうございます。それではまた後日改めてご報告に参りますので今日の所は失礼致します」
こうして僕は調査報告を終わらせ、ビットナー伯爵邸を後にした。
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18番地区の鍛冶屋街。ガンディロスの工房を訪れる。
あらかじめ幾つかの鉱物をエクスチェンジを応用して採掘しておいた。
サンプル代わりに各5kgずつをガンディロスの工房に持参した。(流石に歩いて持参は出来ないので、手押し車を借りてそれごと転移した。転移魔法はできる限り隠しておくべきと考えている)
「もう驚くのを通り越してしまいますね。これらの出所は聞いても大丈夫なんですか?」
後ろ暗い品物ではないか心配なようだ。
「特別に許可を頂いて王族直轄地から採掘したものです。今回の騒動収束後は王国直営の鉱山として運営されますから心配は無用です。販売価格は相場の8割で構いません。鍛冶屋街の皆さんにもお知らせしてご購入下さい」
またしても目玉がこぼれそうだ。
「まったく...皆さんに出所を明かしてもいいのでしょうか?」
「それは騒動が収束するまで内緒にしておいて下さい。とりあえずは私個人のコネクションで集めた物とした方がアレディング商会側に警戒されにくい筈ですので」
「了解しました。他の鍛冶師たちにも言い含めておきます」
これで鍛冶屋街には暫くの間、資材を供給することが出来る。後はビットナー伯爵が上手く治めてくれるだろう。
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3日後、アレディング商会の商会長フランク・アレディングは困惑しながら部下の報告を聞いていた。
「それで?...鍛冶屋街に格安で資材を供給しているのは一体何者だ」
「現在のところは全く掴めておりません。突然2日前から各種の資材を格安でばらまき始めました」
おかしい。いくらなんでもタイミングが良すぎる。どう考えてもこちらの思惑を察知して対抗しているとしか考えられない。
「大至急その男の身元を洗え。それと稼働中の境界村の工房には作業を急がせろ。最悪、完成分だけで相手と交渉する!!」
「了解しました」
部下が大急ぎで駆け出していく。
「全く...なんて事だ。」
ざっと見積もっても、損害額はこのアレディング商会の屋台骨を揺らしかねない。しかしここで手を打たないと更にマズい事態を招くと自慢の勘が囁いてくる。
「このままでは済まさん。必ず切り抜けて目に物を見せてくれる!」
一人密かに決心して、幾つかの手を打つべく部下を呼び、新たな指示を出し始めた。
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2日後グローブリーズ帝国との国境付近某所、急ぎ王都から早馬を回しフランク・アレディングは取引相手と対峙していた。
この男とはここ数年間、何度となく後ろ暗い取引をして来た。しかし目深に被ったローブの下の素顔を見る事はついぞ適わなかった。
「契約した数に届かないようだが?」
相変わらず気味悪い声だ。若者なのか老人なのかさえ判断出来ない。
「...思わぬ所から妨害が入ってな...申し訳ないが今回はそれだけしか納品出来ない。そもそも鉄鋼技術はそちらの国の方が上ではないか。私に持ちかけなくとも国内で十分賄えるだろうに何故余計な手間をかける?」
ローブの下から少し嘲るような雰囲気が伝わってくる。
「そもそも我が流してやった帝国軍進攻の情報を国に知らせず、軍需物質の買い占めなんぞ行うから追い詰められるのだ」
「そもそも進攻軍の規模はせいぜい国境付近の領地を幾つか奪う程度で、本来の目的は、隠密に人員を配置して王国に気付かせず進攻可能かを試す、いわば威力偵察の類だと言ったのはだれだ。私だとて王都に被害が及ぶ程ならば自ずと別の対応をしておったわ!」
「ククククッ、それで物資の損切りを見誤り大損害を出して我らに泣きついたのは誰かね? 必ず揃えて見せるといっていた筈だが?」
「...」
痛い所を突いてくる。しかしこちらもここで折れる訳にはいかない。交渉のカードを模索していると、
「まあ我らにしても帝国の流通に記録が残らない武器が必要だったのは確かだ。とりあえずは今出来ている物は引き取ろう。当然満額ではないぞ」
そう言ってメモを放ってよこす。其処に記載されている金額を見て愕然とする。
「これはあんまりだ!」
「嫌なら撤収しても我らは構わない」
「グググクッ」
相手の提示額をなんとか交渉で覆すべく思案していると...
「バカめッ!」
唐突にローブを翻して席からとびすさる。それと同時に先程まで座っていたストゥールは網が絡まり倒れていた。
「それを躱すとはな。まぁ躱した所で逃げ場はないがな」
そこにいたのは完全武装の衛兵を従えたビットナー伯爵とクリステンセンだった。
「さあ!始めようか!」




