空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか? 2
プロローグ 2
僕の名前は香坂 奏多。
出身は山裾に広がる小さな地方都市で、どこにでもある理系大学を順当に卒業し、現在は社会人2年目の会社員。
係累は叔母が一人のみ、独身で...ついでに恋人もそうなる予定の人もなし。
何故いきなり自己紹介をしているかというと....僕に降りかかった“有り得ない事態”の原因が、“特別な血筋”や“特殊な能力”に起因するものではないと強調しておきたかったからだ。
「.....うぅー」
薄い覚醒状態の中で、自らの呻き声を聞きながら徐々に目を開いていく。
仰向けに横たわっていたカウチから、身体を起こすと、そこは見覚えのない洋風の庭園だった。
特に、“何処の国”の“何時の時代”の様式かは判然としない(そもそもそんな知識はないが.....)明るい庭園。
キョロキョロと周囲を確認すると、どうも噴水脇に設置されたカウチの一つに横たわっていた様だ。
「お目覚めの様ですね」
(おうっ!!!)猛烈に驚いた。が、かろうじて悲鳴はかみ殺す事に成功した。
覚醒に合わせて声を掛けてきたのは...少し古臭い型のスーツを着こなす初老の紳士だった。一体どこに居たのか...
だんだんとさっき迄の出来事を思い出す。(思い出しただけで、全く理解できていないが...)
「驚かせて申し訳ありません」
「...」
咄嗟に声が出ない。
「体調は如何ですか?緊急事態でしたので、無理やりスキルを発動させました...不調が出ていなければよいのですが...」
「...不躾で申し訳ありませんが、此処は何処なのでしょう?」
取り敢えず訊ねてみる。正直なところ今の自分の状況が全く解らない。突然ではあるが...其処にニュースソースらしき人が現れたのだ。当面、身の危険もなさそうだし、積極的に情報収集してみるべきだろう。
「その答えは幾分観念的なお答えになりますが...此処は、あなたの知識から構成した【快適さを感じる疑似空間】で、私は貴方から見たら【神】と呼ばれている存在が一番近いでしょう。実際には高次元に存在する管理者の一人に過ぎませんが...」
サッパリ分からない...
「...質問しても構いませんか?」
「ご遠慮なく」
「貴方が仮に神様、もしくはそれに類する方と仮定するとして...僕は死んだのでしょうか? 正直なところ、そういった認識は無いんですが...」
「いえ、危険ではありましたが、今の所はご存命ですよ。問題はこれから始まるのです」
正直なところ、老紳士の言葉には嫌な予感しがしないが...
「...ご説明頂いても良いでしょうか?」
「...まず貴方に起こった事から、順にお話しましょう。貴方は“次元連結”と呼ばれる自然現象で、平行次元の地球に迷い込みました。【神隠し】と言えば分かり易いかと思います」
それだと貴方が隠した事になるのでは? と思いながらも、頷きつつ続きを促す。
「“次元連結”自体は、それこそ無数の平行次元の間で夥しい回数が起こっています。ただ...規模や持続時間、発生箇所や双方の環境など、生物が行き来してしまうことは非常に稀です。以前、地球で起こった生物の転移は、156年前に起こった事例が最後です。しかも転移先は宇宙空間で...即座に死亡した事例が観測されています」
つまり、世間一般の“神隠しと呼ばれている事例”に、似てはいるが、実際は違うという事か...ややこしいなぁ...
「人間に関しては、特に細心の注意を払って、連結箇所に近づけないように管理しています。実は...貴方にもあの路地に踏み込まないように、入念な心理誘導と認識阻害を施していたのです。しかしながら...何故か全く効果がありませんでした」
自称神様が、疲れ気味に愚痴ったのを聞いて、思わずクスリとしてしまう。
「申し訳ありません」
一応謝罪しておいた。必要性は置いておいて...
「いえ、謝罪いただく様な事ではありません。起こってしまった事は仕方ありませんし【神】を宣う私たちにしても、実際は全知でも全能でもありません。“事象の不可逆性に干渉する事”や“時間を巻き戻す事”など不可能ですから。我々は、ただ、できる限り“ありのままに変化が進む”ように、少し管理しているに過ぎません」
あれかな?三次元の存在が、二次元に干渉するようなもんかな?
「お話を続けましょう。今の貴方は一時的に時間を圧縮し、疑似空間に保護されている状態です」
さすが神様を名乗るだけあってサラッと、とんでもない事を言い出す。
「....空間とか異次元とかって、そんなに簡単なんですか?」
「まぁ、簡単ではないのですが...その証拠に...私達には、貴方を元の次元に戻してさしあげる事はできません」
!!!そりゃないよ神様...