やりすぎです
金属的な甲高い音を立てて、盾が並べられる。
ガシャガシャガシャガシャ!
「な、何だこいつは?! 」
だがアンは気にする風もなく突撃し、手前で片手を付いて側宙を打ち、並べられた盾の上辺につま先立ちした。兵士達の表情が引きつる。そして更に上空に後方宙返りを打ち、頭上から暗殺スキルを解放した。
「 『疾走七輪』! 」
本来は地上で火線を何本も扇状に放つ技である。それを事もあろうに滞空中に放つと、火線は兵士達の盾と身体の間に吸い込まれる。盾兵達は混乱した。
アンはその後方に着地すると混乱している盾兵士達の脚を後方から下掃脚で払い、バランスを崩し倒れた何人かの兵士の首元に手刀を入れて意識を狩る。それを見て、後ろで待機していた槍兵の槍が何本か繰り出された。1本を掴んで避け、1本を蹴り上げ、上げた足で地面に斜めに突き刺さった槍を踏みつけると身体を地面と平行に回転させ、兵士の顎に両脚蹴りを見舞う。反動で地面に手を付き、そのまま脚を開くと
「『月下』! 」
バンドーがたまに使うゼノ式、『飛足月下』の基本技。倒立して開脚から気と魔力を乗せて周囲を薙ぎ払った。
「ぬるいわ、武器も使わせてくれないつもり? あなた達、もっと頑張りなさい? 」
ひどい言われようだが、サムニウム兵の、おおよそ半分がこの時点で戦意を喪失もしくは戦闘不能に陥っていた。
「おま、お前は一体何者だ? 」
あくまでテンプレ的質問をする兵士に、アンは小さく息を吐くと答える。
「だから、私はあなた達が言う金掘りの男の……、何だったかしら? ……奴隷? 」
アンはあれ? という風に兵士達から視線を外すと後頭部に手を当てた。
「ふ~、ふっざけるなー?! 」
アンの視線が兵士の方を見る。後頭部に手を当てていたアンの右手が、そのまま背にさしていた小刀を抜き放つと差し出される槍を斜め上から叩き切り、下半身を低くすると空いている左の肘が兵士の脇腹に叩きこまれ、そのまま時計方向に半回転して背後に回って首を極めると同時に切り裂いた。
「あっ、殺しちゃ駄目なんだっけ? もう遅いけど」
兵士は血を吹き出しながら、その場に崩れ落ちた。アンは小刀を横に払い、血を飛ばすと戦闘可能な残りの兵士の数を確認する。
(何人逃せばいいんだっけ? )
二人、三人と逃げ始めた兵士がいる。それを目で追いながら、アンは小刀を後方に引き、猫科の動物が飛び掛かるような低い姿勢を取る。
「『飛足陣風爪破』! 」
叫ぶなり、飛足で加速しながら思い切り右足を踏み出すと、気と魔力の塊を小刀に乗せて撃ち出した。
薄緑色の衝撃波が生じ、最後にこの場に残っていた戦闘可能な3名ほどの兵士の戦意を砕く。吹き飛ばされ、もう立てない。
「ふー…… 」
今のはゼノ式と暗殺者スキルを組み合わせた、アンのオリジナル技である。こうして、初戦はバンドーの側の圧倒的勝利で終わった。
「あいつ、やり過ぎだ……」
実はぎりぎりで勝つ事をバンドーは求めていたのだが。
無理でした。
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逃げ戻った兵士達がサカエの里に辿り着き、コンコードの元に連れてこられたのはアンが理不尽に暴れまわってから2時間ほど後の事だった。
派遣した20名の兵士達の内、戻ったのはわずか3人。しかもその報告は要領を得ない。
(くっ、こいつらを切り刻みたい)
だが仮にもコンコードはイルミダの下で百人隊を何隊か束ねていた男である。用兵にも通じているつもりであるし、情報の大切さも知っている。
「それで? 一体何があったのかな……? 」
気を落ち着かせ、委縮している兵士達になるべく声を抑えて問いかける。
「はっ、マノク殿には反抗の意志は無く、徴税官は恐らく余所者が捕えているだろうとの事です」
「恐らくとは何だ……? それすらも判らんのか?! 」
「ひっ 」
いかん、また激高してしまった。だが激高せずにはおれん。
「ようするにお前達は、行方不明の徴税官の姿を確認する事も出来ず、余所者に返り討ちにあって逃げ帰ってきたと、そういう訳なのだな?! 」
連れてこられた3人の兵士達は平伏している。
「それで! 何人にやられた? 敵の様子は? 包み隠さず話せ! 」
「はっ、は。そ、それがその…… 」
ここからがどうも要領を得ない。コンコードは常識的な男で、その用兵も正攻法と言える。兵士達を散々に問いただして尚、次の一手に迷いが生じていた。
マノクの集落の郊外に居ついた金掘りの男だと? しかもその従者だか奴隷だかしれない女一人に返り討ちにあった? 本来であれば笑い飛ばす事案ではあるが、派遣したのは1個中隊20名。
「どういう訳だ、その女はそんなに強いのか」
結局、口を突いて出たのは何度も頭の中で反芻した問いかけだった。サムニウムの兵士20名が女一人に負けるだと? 恥ずかしいので強さに誇張があるかもしれない。そもそもその女はなんだ?
(戦闘奴隷か? )
辺境を歩く商人が護衛用に連れ歩くと聞いた事がある。考えてみれば、サムニウムの領域であるデッドウィン山脈の麓にまで金を掘りに来るくらいだ、その程度の強さの護衛はついているかもしれない。
「とにかくだ、」
何もこれは、戦争ではない。相手は商人か掘り師であろう。言うなれば個人。近頃のサムニウム族大敗の報を聞いて、勢力伸長でも図りに来たのかもしれない。
「であれば、交渉も可能ではないか? 」
しかし相手は20人からを相手にすることができる護衛を連れている。ただ交渉人を出しても、応じないかもしれない。そもそも相手の狙いは何なのか? 強さを誇示したいのだろうか。だが、こちらにはサムニウムが分裂したとはいえ500人からの兵士がいるのだ。
「そうか、そういうことか! 」
ようするに、最後まで突っ張る気はないと。まずは強さを見せつけておき、次の交渉を有利に持ち込もうという事ではないのだろうか。
「まあ、そんなところだろうな。よし、セノはいるか? 」
「はは、ここに待機しております」
若い、顔立ちの整った少年が声を上げる。コンコードは、交渉ごとにおいてはこの男を信用していた。
「セノよ、明日お前は2個中隊を率いてマノクの集落にいるという金掘りと交渉をしてくるのだ」
「承知いたしました」
「まずは意識合わせをしよう、参れ」
コンコードは陣幕の奥にセノを呼び込むと閉じた。
アンの性格だと、こうなる。いけない、作戦に支障が出るレベルです。困ったけど仕方が無いね。




