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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第七章 サムニウムの後始末
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作戦は?

アンをもっと出したかったんだよ

ラケシスが偵察妖精を飛ばしたその先は、もちろんバンドーがいるマノクの集落であった。風に乗って、派遣された20名のサムニウム兵を追い越し、集落中を飛び回る。


「コンコード様? マノクの集落は平穏そのものですね」


「なんだと? 私はてっきり、あのマノクが反旗を翻したものと思っていたのだが…… 」


イルミダの下で共に百人隊を束ねる者として仕えた事から、彼の力量は知っている。コンコードが巧みな用兵を好むタイプだとすれば、マノクはどちらかと言えば脳筋で、自らの武勇に頼るタイプであった。


それ故、徴税官が帰らないと聞いた時には短絡的な思考で反抗に及んだのではと思ったのだが。


「杞憂か、判った。ご苦労だったな、ラケシス。さすがは私のラケシスだ、さあその美しい髪に顔を埋めさせておくれ…… 」


コンコードは小柄なラケシスを抱き寄せると青磁色の髪の毛の匂いを嗅ぐように顔を埋める。


(……あら? これはまさか)


人懐こい笑顔でされるがままのラケシスであったが、感覚は偵察妖精に集中している。不意に彼女の口は呪文を唱えた。


「バーラヴィーテセグエンテ、ナケスサリュースドマ……。眠りなさい」


ラケシスに抱きついていたコンコードの身体はその場に力なく沈み込むと、瞬く間にいびきをかき始める。彼女は小さく息を吐きだしてから、青磁色の髪に片手を通した。


「どうしようかしら、これはお父様に報告すべき? それとも…… 」


下あごに手を当てて、しばし考え込む彼女であったが、やがて勢いよく頭を振ると結論に至る。


「ううん、これくらいの事でお父様を頼ってはいけないわ。もう少し、様子をみましょう」


____________________________________________


バンドーがユメとヘルミットを指名して呼んだ理由は二つあった。


ひとつには、盗賊スキルに以心伝心テレメトリメッセージがある事、これはスキルを持っている者同士が距離を離れて意思疎通できるスキルで、盗賊スキルで好んで使われている。盗賊の上位クラスである暗殺者クラスのユメとヘルミットはもちろん、使う事が出来る。


そしてもうひとつは、魔法攻撃を持たない事だった。何故かと問われれば説明しづらいのだが、バンドーの心情的に今回は魔法攻撃を使わずに戦う方がうまくいくのではないかと、漠然とだが思っていた。


(サムニウム族は魔法を忌み嫌う。それが原因で争いもしている。だから、魔法でねじ伏せられても決して従いはしないだろう )


だから、無しでいく。もちろん、その分仲間には負担を強いることになるかもしれない。そういう意味においては、ゼノ式と暗殺スキルを合わせ持つアンの参加は朗報と言える。


「バンドー、お山みたいにケインにいって呼んじゃ駄目? 」


「お前の方が、ひとつ年上だろ? 」


「だってさ、ケインにいは兄弟子だし、中身おっさんでしょ」


意外とダメージは無い。


今、バンドーとアンの二人は集落のはずれにあるアインの家のすぐ外にいる。目の前は荒れ地、その先には森の始まりがあって、下方に傾斜して彼方にはカンタナ高原へと続く街道が見える。右方を見れば緩やかな丘陵があり、その先にサカエの里がある筈だった。二人は肩から薄茶色のマントを羽織って装備を見えないようにしていた。


「お前、なんでお山を降りてきたんだ? 」


「……内緒 」


二人は並んで立っているが、どちらからも視線を交わさない。アンは片手を腰にやり、瞳を細くしてずっと前を向いている。バンドーも同じだった。視線を交わさず、前を向いて二人は会話を続ける。


「お前の後も、何人かお山から入ってきたってティアが言ってたな」


「私は違うけど、最近の子はエナ様にデスパレスで修行して来いって言われたみたいよ? 」


「なんだそりゃ? まあいいか、お前には言っとく。俺は今回、3年前と同じ作戦でいこうと思ってる」


「あー、あれね。気付かせず、その気にさせて、なんちゃら作戦だっけ 」


バンドーが初めて、ちらりとアンを見た。だがすぐに視線を前方に戻す。


「よく覚えてんな。あの時は、何回出たんだ? 」


「覚えてない、無我夢中だったし。でもさ、それならあたしが来てよかったでしょ? 」


今度は初めて、アンが視線をバンドーに向ける。


「そうだな、アンには期待してるよ。お前が来てくれるとは思わなかった。助かる、恩にきるよ」


「ケインにいに期待されるのは、はっ初めてだ! 」


ストレートな物言いだった。本当にそうか? そんなつもりはなかったとバンドーが言いかけてアンをみるが、結局言葉に出す暇はないようだ。


「きた! 」


アンが片手を耳に当てている。以心伝心テレメトリメッセージで、丘陵上に潜伏ハイドしているユメと意思疎通をはかっているのだろう。


「数は20、盾兵10に槍兵10だって、接敵予定は20分後」


「予想より多いな、倍以上だ。アン一人でいけるか? 何なら俺も…… 」


アンが親指を立てていた。上唇を舐め、頬は上気している。


「判った、じゃあ任せる。無理そうならユメを呼ぶか、笛を吹け。手筈通りに頼む」


そう言うと、バンドーは左腕に装着している『双頭蛇ケーリュケイオン』のアンカーを伸ばすと石造りのアインの家の屋根に飛び上がる。戦闘はアン一人に任せるつもりなのだ。ちなみにヘルミットは逆側で潜伏ハイドしている。


程なく兵士達は現れたが、アンがいきなり襲い掛かると言う訳ではない。まずはやり過ごし、サムニウム族の兵士達はマノクの館へと向かうだろう。戻らない徴税官を探しに来たのだ。責任者に事情を聞くのは当然である。そしてマノクには話を通してあった。曰く、


「集落のはずれに金掘りの余所者が居ついて困っている。徴税官を捕らえたのも、恐らくそいつらだろう。できれば成敗してほしい」


本来は脳筋のマノクが言えば冗談に聞こえるところだが、筋は通っている。村人は今回の事に関係がないという事を相手に認識させなければならない。


やがて、事情を確かめる為にサムニウム族の兵士達は集落のはずれに戻ってきた。そこには、アンが一人で立っている。黒で統一された手甲と上衣に脚絆という暗殺者のいでたち。腰には円刃エメラテと呼ばれる円形の刃物を下げ、背中に短刀を指しているのだが、肩から薄茶色のマントを羽織って見えないようにしている。


「女! 最近居ついた金掘りの男は中にいるか? 確認させ……あぐっ?! 」


中隊のリーダーらしき男は、最後までセリフを吐くことができなかった。アンが、自分よりも背丈がある男の左肩口に斜めから角度を変えて蹴りを叩きこみ、戻すや否や前のめりになった男の鳩尾に肩を当てて気と魔力を解放したのだ。男は5メートルほども吹き飛ばされて、昏倒する。


「不用意に近づくから…… 」


驚愕する残り兵士達を尻目に、アンは薄茶色のマントを外すと放り投げる。


「私に勝ったら教えてあげるわ、ご主人様にはここを通すなと言われているの」


半分本気で言っているが、一応、演技である。


(あいつ、性格変わってないか? )


(ケインにいが、ご主人様? ちょっとにやけちゃうよね )


「もう待てない 」


アンは、そう言い放つと獲物を求めて兵達の中に飛び込んでいった。

















円刃のルビが間違ってたので修正

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