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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第七章 サムニウムの後始末
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彼我

かつてイルミダが産まれた家があるサカエの里、山岳部族であるサムニウム族の拠点らしく、そこは峰と峰が交わる根元にある。有体に言えばV字に切り立った崖が、ほぼ水平に立ち、そこから放射線状に広がる台地に里は設けられていた。岩地が多く、数少ない土の地面をさがして基礎を穿ち、いくつかの木造建築が立ち並ぶ。崖の近くでは洞窟を利用した氷室や、岩を階段状に並べたり削ったりして足場がつくられており、その上に木で見張り場が組まれている。そしてあとのの多くは布張りの幕舎であった。布の端は丸い輪っかのセントール麻でできていて、そこに鉄製の杭が打ち込まれ、固定されている。


一番奥の崖の中途から清水が湧いていて小さな滝を形成していて、その流れは台地の端を縫うように伝い、水場となっていて、そこから枝分かれして台地から望む森へと注ぎ込み、さらなる滝をつくっている。


何匹かの山羊が、そこで水に口をつけていた。


今この里を支配しているのは、カンタナ高原での敗戦後に勢力を増した集団である『前世回帰パーシィルメイ』で、その統率者の名をコンコードという。かつて、イルミダの元で百人隊をいくつか束ねていた30台の男であった。その男の側に、従者とおぼしき若い男がひざまずいていた。


「なに? マノクの集落に派遣した徴税官が帰ってこないだと? それでどうしたのだ! 」


「はっ、確認の為に20名派遣しました」


普通、徴税官が定刻通り戻らない程度では1個小隊4名程度の派遣が妥当だろう。だが、若い男は彼なりに判断して、その5倍である1個中隊の数を出していた。


「ふんっ、そうか。まあ妥当だな。報告が入り次第、知らせよ! 」


コンコードは鼻を鳴らし、こうべを垂れる若者をねぎらう。


「はっ! 」


そう言っておいて、若者が下がるのも確認もせずに、奥の陣幕をはねのけて叫ぶ。


「ラケシスはいるか? 」


「はい! ここにおりますよ、コンコード様! 」


人なつこい微笑みを浮かべながら、若いエルフが現れる。まあ、エルフの事ゆえ、実際に若いのかは判断に苦しむが。人目を引くのは青磁せいじ色の長い髪の毛と同じ色の瞳。イルミタニアのエルフはその血が濃いほど耳が尖るそうなのだが、彼女の耳は髪の毛に隠れてよく見えない。背はそんなに高くは無く、コンコードの胸までしかなかった。それなのに子供と思えないのは、程よく波打つ胸のふくらみのせいかもしれない。腰も小振りで胴体に比べて細身で長い脚が身体全体のバランスを整えていた。


「マノクの集落に派遣した徴税官が帰ってこないそうだ。たった今、セノが知らせてきた。捜索隊を出したそうなのだが、待てん。判るな……? 」


「おまかせください、コンコード様! 」


言うなり、彼女は目を閉じて両手を胸のところで組む。


「生きとし木とし賢き精霊の息を継ぐ我の意志これ、……判る? 行っちゃって! 」


途端、ラケシスの髪の毛が持ち上がると無数の微小な妖精を吐き出す。妖精たちは白銀色に光りながらしばらくラケシスの周囲を回っていたが、やがて色を無くしながら陣幕の外に飛び立っていった。


「もう、少々お待ちください、コンコード様?! 」


コンコードは、笑みを浮かべながらラケシスを抱き寄せた。


「お前は何故、そんなに可愛いのだ?! 」


「ふふ、お任せください、……コンコード様? 」


最後はコンコードの耳元で囁く。青磁色の瞳は笑っていなかった。


_____________________________________


バンドーが拠点に定めたアインの家は、お世辞にも立派な造りとは言えない。集落のはずれの、半ば朽ちかけた、しかし丸木小屋や幕舎が多いサムニウム族の村の中では珍しく石造りの小さな家である。


その薄暗い室内にゲート魔法の青白い円環が立つ。


腰には短刀が2本。細かい目の鎖帷子で編んだ鎧に赤い帯。帯にはいくつかの袋が革紐を通してぶら下げられている。髪を後ろで、これも赤い布で無造作に縛り、腰の後ろには何だろう、小さな丸い樽のようなものが付いていた。下半身はワークパンツと言おうか、下に行くにつれ絞り込まれたズボンはやがて足首に巻かれた布の中に消えている。


言うなれば、ユメの完全武装、……なのか?


「バンドーさん、来たで~? 」


デスパレス側から開かれたゲートから姿を現したユメはしかし、ノリは軽い。どころか、鼻歌さえ口ずさんでいた。


「悪いな、ユメ」


ユメはバンドーをみつけるなり、顔を寄せ、じっとバンドーの瞳を覗き込む。そして顔を離すと


「バンドーさんの本気マジ顔、久しぶり~」


そう言うなり、周囲の様子を確認していく。まだ何も聞いていないが、自らの職業クラスの守備範囲は心得ている。


(……きつそう……やね? )


とはユメの心の声である。


次に現れたヘルミットは逆に無言で一礼する。いつもと、少々衣装が違っていた。黒と白の袴姿で、袖は黒い編み紐で上に吊り上げられている。膝小僧が出る位に、これも編み紐で捲り上げられていた。肘にはいくつもの銀色の腕輪が嵌められているのがちらりと見える。得物である両端に両刃を持つ槍、通称名”ブリオナ”は、両端がしまい込まれて背中に装着されていた。


「ヘルミット、よく来てくれたな」


「……ご主人様、これは依頼と考えてよろしいですか? 」


ヘルミットはしばし無言でバンドーを見つめる。瞳を閉じて開き、バンドーの返答を待っている。


(依頼? )


何の事かと問いかけるべきではないだろう。ふと思い出したのは、以前ヘルミットと交わした会話の数々だった。


タウリにとって、依頼者無き殺人はご法度、依頼されて初めてタウリはタウリシュとなる。


「そうだな、今回は俺の為に戦う事を依頼する。報酬はいるか? 」


「いえ、言葉だけで充分です。私の……気持ちだけの問題ですから」


そう言って普段見せない微笑みを見せると、懐からいくつかの香り袋を取りだす。


「これを……お預けします」


「これは? 」


「この香り袋を身に付けている限り、私の術にはかかりません。他の方にも、お渡しください」


受け取った瞬間、鼻から額にくる香りは霊猫香れいびょうこうだろうか、その方面に疎いバンドーには判断が付かなかったが、とにかく礼を言う。


「判った、使わせてもらう」


さて、意識合わせをするかとバンドーがオンゴロを探して周囲をうかがった時の事だった。


「バンドー、来たよ 」


予期せぬ、今一人。右の親指で鼻をこすり、舌をぺろりと出す少女。艶のある黒髪はユメと同じように後ろで束ねられている。ダークパープルのスカーフを首に巻き、黒で統一された手甲と上衣に脚絆。腰には円刃エメラテと呼ばれる円形の刃物を下げ、背中に短刀を指している。年齢は17歳とバンドーの一つ上ではあるものの、かつてはお山でバンドーの配下であった事もある。


「駄目? 」


アン・ラスティ、通称『黒猫のアン』と呼ばれる彼女は今では連隊レジメント『星屑の光』の切り込み隊長でもある。


バンドーは口を半開きにして、持ち上げた片手を振る。


「ティアか? 」


「ぶっぶー、はずれ! 」


聞けば、最近ずっと盗賊ギルドでユメとトレーニングしていたらしい。ユメが呼ばれたのでついて来たとの事。


「いや、助かる。助かるが……」


これで確実にティアにばれる。ティアには内緒で出てきたのだが、彼女のオリジナル魔法、魔法探知マナマークは『星屑の光』メンバーを完全網羅している。ちなみに魔法探知マナマークはバンドーには効かない。


「おおっと、これは華やいでますな」


いつの間に入ってきたのか、オンゴロが鼻を鳴らし、ニヤニヤしている。


「始めるぞ! 集まれ! 」


手を叩き、両手をあげてみんなを呼ぶ。


アインも近くに来て、バンドーの側にしゃがみ込んだ。




















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