布石は布石 誰?
今回も短いです。もしか見てくれてる人、ごめんなさい。
迷宮都市デスパレスの冒険者ギルドは地上4階地下2階。中世とも思えるこの世界では豪奢なつくりだ。
入り口は3つあって、左は初心者の受け入れ、右は通常冒険者。そして真ん中は、カスミやユメのように召喚された者の受付口だ。
まっすぐ冒険者ギルドに向かうバンドーは、躊躇わずに右の入り口から入る。
「バンドーさん、バンドーさん? 」
珍しく、いや実は珍しい事象ではないのだが、カウンター受付のエルフのお姉さんに呼び止められる。
「ギルドマスターから言伝です。『今日は来るな!』以上です。」
なんだ、それは?なんなんですかね?
(なんだ? )
思わず考えてしまう。何か悪い事をしたのか、怒られるような事を最近したとか?
(イルミダの銃がばれたとか、冒険者行方不明の報告をちゃんとしてないとか、今月の検査をさぼったとか)
あああ、思い返せば切りが無い、のだが。
(無視だ、無視! )
手を伸ばす受付のエルフ嬢を尻目に奥の階段を昇る。最上階のギルドマスターの執務室が目標。
出たとこ勝負の、詰まるところ、何も考えずに一気に4階まで駆け上がり、レイ教授の執務室に飛び込んだ。
「レイ教授、入るぜ? 」
ギルドマスター・レイはバンドーを見るなり、ぎょろりとその視線を向けたが、拒否する訳でもない。
「相変わらず、阿呆よの。」
顎から伸びる髭をさすり、あきれ顔ではある。
「何だよ、あれ。ちゃんと居るじゃねーか。何かあったのか? 」
「この阿保! まあ、ええわい。どうしたのじゃ? 」
一体何が、問題なのだろう。とにかく、しゃべる事は山ほどある。まずはイルミダが造った銃の事、そして彼女を監視するサムニウム族の事。
「・・バンドーよ、やっぱりお主は阿呆じゃの。」
「はあ? 」
何が何だか、さっぱり判らない。しかもレイ教授は、それを説明しようともしない。
「阿呆は阿呆よ。そもそも・・。まあええわい。」
まずは、その銃の製造方法などが記された文書なり、レポートがあれば提出せよと、王国に報告するかは、それを見てわしが決めると、そう言ったきり、レイ教授は片手を振りかざして、退出を命じる。
「はよう、去ね。王国からの客人が来るでの。」
胸の中にもやもやが沸き上がる。レイ教授は信頼に足る。けれども。
文句の一つも言おうとしたバンドーに対して、これではいけないと思ったのか、初めてレイ教授は説明らしき言葉を放った。
「今日来る王国からの客人はお主に不信感を持っとる。見つからん内に帰れ。」
説明になってませんでした!
けれども、レイ教授には助けられた事、数多い。いろいろと言いたい事はまだあるのだが、気持ちを切り替える。
「教授、また来るよ。」
大人だな、バンドー。
階下に降りる時に、客人とすれ違った。実は危なかったのかもしれない。階段ですれ違った二人。一人は知っている。見た事がある。
ヒストニア王国、第2王女 カタリナ・マリア・バルヴィオーネ。
バンドーは息を飲む。まあ、知っているとは言っても、以前デスパレスで開かれた園遊会で遠目に見ただけだが。ちなみにセカンドネームのマリアは、エレイラの前のお妃の名前で、フィーネとは腹違いの姉に当たる。そして今一人は、騎士の風袋をした美人さんだった。名前は知らない、見た事が無い。
レイ教授が、帰れというからには何かあるのだろう。少なくとも、今までレイ教授に助けられっぱなしである事は、少々(少々ですか? )自覚しているし、考えた末、自宅に戻る事にする。
「ふん、二目の頭は見ず跳ねよ、とはよく言うたものよの。布石が生きぬ典型よ。」
ギルドマスター執務室で、レイはつぶやいていた。彼がバンドーに阿呆と言ったひとつは、バンドーが報告した銃の事にある。
(普通、冒険者が威力のある武器を手に入れたら、それを生かす事を考えるものよ。それをあやつは、イルミタニアにとって危険だ? 魔法の常識が覆る? 戦争に利用される? )
確かに正しい事を言っているのだが、レイにとっては想定の範囲外であった。
(じじくさいわ。)
以前も似たような事をバンドーには言い放ったのだが、今回は特にそう思う。既存の魔法攻撃を越える武器を手に入れて、それを使おうともせず報告する、その様に、レイは憤りを覚えていた。
(あやつめ、もう少し私利私欲に目覚めれば、よい駒となるものを・・)
他意はない。駒と言いながら、愛着はある。この思考自体、遊びのようなものだがとにかく。
そこまで考えたところで、執務室の扉がノックされ、次の来客が姿を現す。
「失礼、王国特務監察官、カタリナ・マリア・バルヴィオーネです。デスパレス冒険者ギルドのギルドマスター、レイ・クリサリス・バーサク殿はおいでか? 」
思考を打ち切り、レイは立ち上がる。
今一人、入室してきた女騎士に目をやりながら、記憶の糸をたどる。
(これは、予想以上に面倒になりそうじゃわい・・。)
レイはカタリナ王女と共に入室してきた女騎士を見やり、バンドーを追い払った、その判断に間違いはなかったと、思うのであった。




