側にいるのは?
台風ですねぇ。ちょっと短いです。
2丁のコルトアナコンダ風拳銃に、イルミダは『ツインズパイソン』と名付けたようだ。バンドーからしたら、コルトアナコンダに似た拳銃にパイソンという呼び名が付くのには違和感があるのだが、ここはイルミタニアである。言っても仕方が無い事は、あえて言わない。
「でも意外だったわ。」
意外と言う理由は、カスミがあっさりと『ツインズパイソン』を使えた事にある。威力はお察しだったのだが、それにしても一族の者は誰も使えなかったのにと。理由は単純で、魔力を使う下地が無いサムニウム族と、魔法使いとして一応の知識と経験を積んでいるカスミとでは、前提が違うということ。魔力を使ってイメージしたものを作り上げた経験がある魔法使いと、魔法を毛嫌いするサムニウム族との違いと言えば判りやすいか。
「バンドー、実はもうひとつ相談があるの。」
楽しそうに銃の試し打ちをしていたイルミダが、急に改まってバンドーの側に寄り添う。
これ以上、悩み事が増えるんですかね?
この銃は、恐らく魔法を単純化する。魔法を判りやすくまとめ、マニュアル化したのが位階魔法だとすれば、これは恐らく、その上をいく。一体どういった原理で魔力弾を生成しているのか、魔法を知識としてしか知らないバンドーには判らないが、ダンジョンや戦場で魔法というものを肌で経験しているバンドーには理解できる。呪文無しは『無詠唱』スキルを陳腐化し、連続発射は魔法発動体を元にしたチャージと発射を、明らかに簡略化している。
そんな事をつらつらと考えているバンドーの気持ちはお構いなしに、イルミダがバンドーの腕を取ると、胸を押し付けるように顔を覗き込んできた。
「どうしたの? 」
「・・なんでもねえ。」
「あのね、バンドー。」
イルミダの相談事とは、アルシャンドラ事件でフィーネの幻影を見た頃から、何者かに監視されている気がする、外出した時に気配を感じると、言う事だった。
「やっぱそうか。」
「知ってたの? 」
定期的に報告してくれるユメによると、確かに監視されているようなのだが、今のところ敵意は無いとの事だった。だから様子を見ていたのだが、パーティメンバーから正式に相談されたとあっては何らかのアクションを取るべきだろう。
「それでイルミダ、心当たりはあるのか? 」
イルミダは頷く。
「多分、『影渡り』だと思う。」
サムニウム族の一部戦士が使うスキルで、影から影に渡り隠れる偵察術らしい。
「気配で判るもの。私はできないけど。」
ただ、誰かまでは判らないと彼女は言う。
「まあ、それはおいおい探るとしてだ。目的は何だと思う? 」
イルミダはしばらく考えた後、自分にも言い聞かせるようにゆっくりと答えた。
「私を連れ戻しにきたか、様子を探りにきたんじゃないかしら。」
まあ、一族を率いていた姫が捕まったのだから、様子ぐらい探りに来てもおかしくはないだろう。
「お前は、帰りたいのか? 」
イルミダは軽く肩を震わす。バンドーは、言ってから少し後悔する。
(いらない事を聞いちまったか? )
「・・私は、帰れないわ。バンドー様の側にいたいし、それに・・。」
また呼び方が元に戻っているが、今気にすべきはそこではない事くらい、バンドーも理解している。
「・・それに、今戻ったら何をされるか判らないでしょうね。」
サムニウム族が忌み嫌う魔法使いスキルを得た今、裏切り者扱いされてもおかしくはない。下手をすれば処刑されるという事も有りうる。まあ、サムニウム族自体、魔法スキルを一族にばらまかれているので、どうなっているか判らないが。ひょっとすれば、分裂四散している可能性すらある。
「判った、くだらない事を聞いちまったな。」
イルミダは、それきり黙り込んで何も言わない。
「イルミダ、お前は今、俺のパーティメンバーだ。『銀翼の華』はパーティメンバーを見捨てない。」
だから心配しなくていい、そう付け加えながら、バンドーはイルミダの肩を叩く。
バンドー邸の中に取りあえず入れると、アメリアさんに、それとなく警固をお願いした。
(やっぱ、一度レイ教授のとこに行くか。)
イルミダが造った銃の事もある。今はユメもいるし、フィーネもいる。すぐに何かが起こるという事も無いだろう。
「出かけてくる。」
そうカスミに言い放つと、バンドーは屋敷を後にした。




