銀翼の華
昨日夕方に、庭の一角で工事を続けていたイルミダの作業場と小さな鍛冶場が完成したようだ。それから夜遅くまで、イルミダはそこに籠っていた。いや、ひょっとすれば、そこで夜を明かしたのかもしれない。
翌朝早くに、バンドーは食堂に皆を集め、パーティ発足の届け出をギルドにしたい旨伝えた。
皆とは、フィーネ・アメリアさん・カスミ・ユメ・イルミダにヘルミットの6人。一応、個人別に話は通してあるので、問題は無かった。ただし、ヘルミットだけは辞退した。
「そんな気分ではありません。」
そう言いながら、頭を下げた彼女だったが、バンドー的には、そんなに気にしていない。
そもそも、パーティの最大人数は6名なので、ヘルミットが入るとあふれてしまう。
ひとつだけ問題が有るとすれば、冒険者ギルドに届け出るパーティ名をどうするか? である。
パーティ名は大事だ。所属するメンバーの通り名にもなる。例えばティアは、神聖魔法と位階魔法を使いこなす事から聖魔女などと呼ばれる事もあるが、『星屑(の光)』のティアなどと呼ばれる事の方が多いし、カトルだって『紅蓮』のカトルという名で通っている。
「 『銀翼の華』でいく。」
なんだ、この静けさは。沈黙は。
「お前ら、何か言えよ! 」
気まずい雰囲気を薄めるべく、メンバーを見渡しながら、思わずバンドーが吠えた。
「い、いや。実にいい名だとは思うのだが、その。」 とアメリアさん。
「凄く、いいです! 」 とフィーネ。
「何やバンドーさんが考えたと、思われへんから、ついうち、黙り込んでしもうたわ。」
けらけら笑うユメ。 ユメさん、その言、直接的過ぎやしませんかね。
カスミは、ぼーっとしている。何か考えているのか、想像しているのか。
「銀翼ってのは、王国では、”これから育つ才能”とか”成長途上”を意味する。華はその、お前らの事だ。お前らには個々に凄い才能があるとは思うが、まだまだ経験不足だ。何せ『ゲート』を開ける奴すら、ひとりもいねーんだからな。けど、頑張ればいけるだろ? 」
バンドーは面倒くさくなり、言いたい事を一気に吐き出した。
・・・・何だ、この間は。
だが、その後一気に歓声と笑い声。フィーネがはしゃぎながら笑っていた。カスミは何故だか笑いながら泣いている。イルミダは? 感動してくれているのか?
とにかく、誰からも反対意見は出なかった。こうして、バンドーが初めて自分で設立したパーティ名は決まった。
「ご苦労様です、ご主人様。」
皆が解散した後、ヘルミットが持ってきたお茶をすすりながら、バンドーはひとり食堂のイスに腰かけている。まだ昼前だというのに、何だか疲れた感じだ。
「悪かったな。」
「いえ。」
バンドーの問いにヘルミットは短く応えると、珍しく食堂のイスに腰かけ、自分にもお茶を入れ始めた。
「そう言えば、お前には聞いてなかったな。ヘルミット、お前はなんで、ここにいるんだ? 」
お茶を入れた容器をテーブルに置きながら、ヘルミットはわずかに首を傾げた。
「バンドー様は、ゼノ式の免許皆伝をお持ちなのですってね? 」
バンドーは、沈黙をもって、それを肯定する。
「ですから、てっきり、ご存知の上で私を置いてくれているのかと、思っておりましたが・・。」
視線で、言葉の先をうながす。
「タウリ暗殺術は、暗殺術です。最上は、気付かれずに殺す事。普段はあのように集団相手に戦ったりはしません。そもそも、・・ 」
そこでヘルミットはお茶の入った容器に口を付ける。
「依頼者無き殺人はご法度です。依頼も、一族が承認せねば、受ける事はありません。なのに私は少なくとも数人を殺めています。けれど、それを裁く一族は、もはやいません。タウリの掟では、暗殺に失敗した者は死を選びます。ですが私の場合、暗殺ですらない。」
アルシャンドラの魅了にかかり、彼女の命令で戦闘をしたに過ぎない。
「けれども一族の掟を破った罪は罪。これは一生掛けて償わなければなりません。」
あの戦闘で指揮を取っていたのはバンドーだった。だからバンドーに無条件に仕えるのは自然だというのがヘルミットの答えだった。
「俺にはお前を裁く権利は無え。」
「ご主人様が、そうおっしゃり、私を王国なりギルドに引き渡すというのであれば、従いましょう。」
またこの二択か。以前にも似たような状況があった気がするのは気のせいか。
やがてヘルミットは立ち上がり、テーブルの上の片づけを始める。まとめた食器を持ち上げると、外していた視線をまっすぐにバンドーに向けて、何故かにこやかに言葉を紡いだ。
「本音を言えば、今しばらくご主人様の側に居たいと考えております。」
バンドーの右肩がピクリと反応する。紛うことなく、ヘルミットから殺気が感じられたからだ。
「なんでだ? 」
短く息を吸い込み、いつでも立ち上がれるようにしながら聞き返す。素手が基本のゼノ式には、こういう日常時の技の入りもある。
(いや、違う。)
バンドーは軽く肩の力を抜いた。
「ご主人様のお側に居れば、あの女と再会できる可能性も高いのでは? と 」
そう、ヘルミットの殺気は、今は見ぬアルシャンドラに向けてのものだった。バンドーは会話から、それと察し、言い放つ。
「好きにしろ。」
昼過ぎ、イルミダがバンドーを呼びに来た。向かう先は新たに建てられた作業場兼鍛冶場。面倒くさいので呼び名はイルミダ工房でいいだろう。
「それで、何を作ったんだ? 」
「銃よ。」
イルミダが取り出してきたのは、後装式の銃が二つ。形式は、サムニウム族との戦いで見た銃よりは発展しているように見えるが、威力はどうだろうか。見た目は『コルトアナコンダ』にそっくりだが。
「これ、弾はあるのか? 」
「いらないの。」
試しに、庭の木に向けて使わせてみたところ、木が根元から破裂してしまった。
「なっ、なんだこりゃ?! 」
威力が予想外に大きい。
「ちなみに、これは私にしか使えないわ。一族のものに試させたことがあるけどね。」
元々、イルミダ専用の銃として同じものがあったらしいのだが、彼女自身の意志で封印したのだとか。理由は、この銃の使用には魔力を消費するから。サムニウム族らしいと言えば、そうなのだが。
(それにしても、あの時とパワーが段違いだ。)
「おかしいわね。威力が上がってるかも・・。」
涼しい顔をして、そう言われても。
理由は、彼女自身にある。元々の『前世知識』で銃の構造をイルミダは完全に把握しているので前世世界の物理法則がそのまま適用される。その上、この銃はイルミタニアでの使用にも最適化されており、弾丸は魔力を消費する事で内部で作られる。おまけに今では、彼女のスキル『大魔導士の末裔』で大幅に威力が強化されているのであった。
試しに、貸してもらいバンドーが操作してみたのだが、撃つ事すらできなかった。今のバンドーには魔力が無い。なので弾も出ない。
「びっくりしましたー? 」
カスミが屋敷から飛び出してきて、側に寄ってくる。
「カスミ、これ撃ってみろ。」
魔力の無いバンドーでは判断が付かないので、カスミに撃たせてみる。
あれこれ試行錯誤の結果、イルミダから弾の作り方というかイメージを教えられ、カスミもわずかの間で撃つことに成功した。
威力は、ファイアーボールより弱い感じだ。だが、連射可能で魔力が尽きるまで撃てるかもしれない。
「これ、リボルバーの意味あるのか? 」
多分ない。回転弾倉である必要性など無い。そもそも弾込めの必要性も無い。
(・・これは、いいのか? )
まずいかもしれない。見てはいけないものを見てしまった気がする。
バンドーは口を半開きにしながら、この武器の処遇をどうするのか、必死で考えるのであった。




