ティアの好意
ティアとバンドーの関係は、・・・そのうちにね?
5階層手前、冒険者たちのベースキャンプとして頻繁に使用されている、通称「テラス」。そこの隅にカスミ達を座らせ休憩させたバンドーは目当てのパーティを見つけると声をかけた。
「ティア」
向こうも既に気が付いている。
「遅かったね~、バンドー。待ってるって言ったけど、もう行くところだったよ。」
パーティ「星屑の光」リーダー、ティア・アーハイト・ゼノア、19歳。通称「聖魔女」。薄紫色の修道服は膝から首までしかない。額には魔法の光を帯びたティアラ。青い宝石の付いたごつい杖を持ち、身長は160センチくらいか。くだけた物言いからは想像できないが、彼女は第7位階までの魔法を操ることができ、個々の魔法習熟度もMAX。おまけに回復魔法も使いこなす。
「遅かったね、ケイン君? 」
ティアはちらりとカスミ達の方に視線をやり、言い直した。
これは、怒っているのか? ちなみにケインというのはバンドーのこの世界での本名。
ケイン・ジューダス・コモロ。つまりティアは古くからバンドーを知っている。
「4階層で拾った。4人パーティで2人死亡ひとりケガしてたんだ。ゲートをもらえないか? 」
「どうせバンドーも帰るんでしょ?それで3人で遊ぶんだよね? 」
バンドーはそれを聞いて思わず口を三日月状にひらき、抗弁しようとしたが遮られた。
「冗談よ。けどゲートは習熟度別回数制限があるのは知ってるわよね? 」
そう頻繁にゲートを開くことはできない。開く先もルーンで固定しておく必要があり、固定された先にしかつなぐことができない。ゲート魔法習熟度1~10により、発動できる回数も制限され、回数は時間の経過で回復する。
「まあ、言いわ。キミがそう言うんなら。けどこれからさらに迷宮を降りることを考えれば私のゲートは取っておきたいの。ちょっと待ってね。ミリアマリア、来て! 」
「なに? リーダー。」
ミリアマリアと呼ばれた薄赤い肌の少女が飛んでくる。黒と赤の装備で統一されたその娘はバンドーを見るなりむせた。
「ひゃ、バンドー? 何? また私の魔法障壁を分解するつもり? 」
「しねーよ! 」
ミリアマリアは希少と言ってもいいヴァンパイア亜種族で、身長130センチくらい。背中に羽根が生えている。
これでも立派な魔法使いだ。出会った当初は種族の固有魔法しか使えなかったようだが、最近は人が使う位階魔法も覚えているとティアから聞いた事がある。
「えっ?まさかお前、もう第6位階が使えんのか?! 」
ミリアマリアが、当然よ、と片手を腰に当てている。
「ミリアマリア、悪いけれどこのルーンを使ってゲートを開いて、お願い。」
「はーい。ここで? 」
慌ててバンドーはカスミとユメを呼ぶ。何事かとあわてる二人を尻目に、
コォォォォォォ と甲高い音が響いて青白く長細い円環がテラスに立つ。
「ユメ・カスミ!行くぞ?早く来い!」
「ティア悪い、恩にきる。ところでこれ、何処につながってるんだ?」
「キミがよく知ってる場所」
何だか嫌な予感がするが、まあいい。ユメとカスミがゲートを通るのを見て、バンドーも飛び込む。
「とにかく助かった。今度おごる」
バンドーの声が途中で途切れた。3人を飲み込むとゲートは霧散する。
「まったく・・また悩み事が増えちゃったじゃない。」
ティアが、そうつぶやいたのと同じ頃、ゲートで移動した先のバンドーも声をあげていた。
「はぁぁあ?! ここ、俺の家の庭じゃねーか?! あいついつの間にルーンで登録したんだ?!」
「すごいなぁ? 」
「かっこいいおうちですね。」
そこは先月買ったばかりのバンドーの家の庭先。
50階層のハイエンシェントリッチ狩りに月4回通ってようやく建てたばかり。
「・・・まあいいか、・・・・・いいのか? 」