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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第六章  元の鞘
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何処?

朝のまどろみ、まだ夢うつつ。

窓から差し込む光に目を覚ますとカスミはいなかった。


「ん~っ。」


背伸びをして頭を掻きながら食堂に出る。カスミはいない。

気にしないようにしながら、ヘルミットが持ってくる朝食を食い、庭に出ると既に工事が始まっていた。


ドワーフの白髭爺と四人衆。そしてイルミダもいる。庭の一角に石造りの基礎が出来上がっていた。


「よお、もうやってんのか? 」


「バンドー様、工程は順調に進んでるわ。明後日には完成してるんじゃないかしら。」


「イルミダ、バンドーでいい。」


「えっ? 」


イルミダは変な顔をしている。だが、前々から決めていた。イルミダは奴隷でも捕虜でもないし、これからは恐らくパーティメンバーになる。


「今後、俺の事を呼ぶ時はバンドーと呼んでくれ。いいな? 」


「それはしかし、いや、でも・・・・。」


何を言ってるんだ、こいつは。


「・・バンドー・・。」


イルミダは何か言いたそうだ。というか彼女の中ではバンドーは神格化されていて、魔法使いに落とされた自分を教え導いてくれる神の使いとも思える存在なのだが、


「いいな? 」


「はい・・。判りました! 」


よし。


「ところで、カスミを見なかったか? 」


「えっ? ええと、朝早くに出かけられましたよ? 」


そうなのか。何処へ行ったんだろう。取りあえず現場を後にして庭先で井戸水を汲み、うがいをした後、納屋の装備置き場に顔を出す。


「バンドー、おはよう。」


そこにはアメリアさんが、自分の弓の手入れをしていた。今まで、アメリアさんの弓をまじまじと見た事が無かったが、手入れが行き届いていて、思わず目を奪われる。


「染弓『クーゲル』だ。いい弓だろう? 」


ネームド武器なのか。漆黒に染められた長弓を、アメリアさんは丹念に拭いていた。


「油を塗っているのか? 剣と似てるんだな。」


「そうだな。放っておくと乾燥して、しなりが変わるのだ。かといって、塗りすぎてもいけない。」


参考になる。純血エルフのアメリアさんなら、弓の手入れも一流なのだろう。もう少し見ていたい気もするが、


「ところで、カスミを知らないか? 」


「彼女は出て行ったぞ? 」


あっさり言われてバンドーは口を半開きにしかけるが、アメリアさんは構わず続ける。


「しばらく帰って来ないと言っていたな。」


「そ、そうか。邪魔したな。」


何だ、この空虚さは。あいつは一体、何を考えている?


邸内に戻り、ヘルミットにお茶を入れてもらいながら、つらつらと考える。


(そう言えば、昨日のあいつはおかしかった。あんなに積極的だったのも意外だが、何か思い詰めたような顔をしていたっけか。)


「バンドー様!? 」


フィーネだ。そう言えば、こいつを忘れていた。


「どうしたんだ? 」


「はい! フィーネはちょっと出かけて来ます! 」


こいつもか。


「魔法ギルドで魔法を覚えに行くのですが、バンドー様も、ご一緒にどうですか? 」


詳しく聞けば、次の位階魔法は第4位階らしい。早いな、カスミに追いついたのか。

第4位階魔法は位階魔法の中でもっとも使う。ここを極めて初めて一人前の魔法使いと言える、のだが王族魔法を使えるフィーネにとっては、通過点に過ぎないかもしれない。


「おう。『アラカン』で行くのか? 」


「はい! 」


神盾『ゴッドブレス アラカン』はいまだにバンドー邸に置いてある。王国の秘宝の筈なのだが、誰も何も言ってこない。フィーネによると、王族魔法を使えないと、ただの盾。自分にしか使えないし、この子も私の事を気に入ってるのだから、問題無い! との事なのだが。


(まあ、いいか。・・いいのか? )


などと思いつつも、数瞬後には、すでに二人は『アラカン』の上の人となっていた。


風がきつい。以前乗った時よりもきつく感じる。それを言うと、


「風を感じたいので、風防護ウィンドプロテクトを切ってます! 」


などと、のたまう。


「心を平らにして、風に乗るのですよ? そうすれば、気持ちいい筈です! 」


何だか説教されてるみたいだ。フィーネの銀髪が、のどに当たってくすぐったい。フィーネの小さな肩に両手を当てながら、バンドーは眼下に広がる迷宮都市デスパレスを見やる。


そして視線を上に。視界の先にはデッドウィン山脈が綺麗に見える。今日は空気が澄んでいるようだ。


「そうだな! 気持ちいいな! 」


「急降下です! 」


っておい! 


見る間にフィーネは高度を下げ、目当ての魔法ギルド前に降下する。


「では、バンドー様。行ってきます! 」


膝くらいまでの高度で浮いている、『アラカン』を引きながらフィーネ姫は魔法ギルド内に消えた。


(さてと・・。)


フィーネの姿が見えなくなるまで見送ると、バンドーは脚に気を纏わせて『飛足』を発動させる。


迷宮デスパレスから放射線状に伸びている3本の大通り、東大通り・中央大通り・西大通り。

中央大通りには魔法ギルドや冒険者ギルド、建設ギルドや盗賊ギルドが並び、冒険者でにぎわっている。

バンドーは東大通りまで抜けると小道に入り、スラムとは逆方向の住宅街に入ると足を止めた。


(最初から、ここに来ればよかったな。)


バンドーが目の前にしている3階建ての、この建物は連隊レジメント『星屑の光』のギルドハウス。

彼は躊躇なく押しバネ式のドアを押すと呼び鈴が鳴った。


「あら、珍しい。どうしたの? 」


1階はラウンジになっていて、会議や宴会にも使われている。その奥には炊事場と水桶。裏口から出ると井戸がある事も知っている。


「ティア、カスミ来てねーかな? 」


「カスミちゃん? 朝早くからアン達とデスパレスに潜りに行ったわよ? 」


どうしたの? とティアは遅れて付け加えた。


「い、いや、そうなのか? ならいいんだ、邪魔したな。」


「多分、帰りは明後日くらいになるんじゃないかしら。どうしたの? 」


いや、何でも無いと言いかけて、ティアと目が合う。笑ってない。


「明後日の、昼頃に上がってくるわ。多分ね。」


今回は直接『ゲート』帰還はないらしい。


「判った、ありがとう。」


バンドーが出て行く。扉が呼び鈴を鳴らしながら閉まる。


「どうしたの? 」


「別に、ああいうケイン君を見るとイライラするの。昔から。」

 

「誰、それ? 」


そこでティアは初めて傍らにミリアがいる事に気付いた。


「何でもないわ! だいたい、あなたも成長し過ぎなのよ! 」


「ひゃっ! 」


いきなりティアにお尻を掴まれ、ミリアが奇声をあげた。





バンドーは、両手を頭の後ろにやりながらつぶやく。


「何やってるんだ俺? 」


もう既に、『飛足』を使って魔法ギルド前まで戻ってきている。


(かっこ悪いな・・。これ以上、止めとくか? )


フィーネはまだ、戻って来ない。


「・・あっ。」


不意に昔の事を思い出す。それはまだ彼が高校生だった頃、マユミと付き合っていて、初めて関係を持った後、彼女が別れ話を切り出し、こう言ったのだった。


「私の事なんて、どうでもいいんでしょ? 」


東京の大学に行って新しい生活を始めると、全て最初からやり直すと。そう言って、彼女は去っていった。

バンドーは、止めなかった。その時も、いやそもそも彼女が東京の大学を受けると言い出した時も。


格好悪いという、ただそれだけの理由だった。


(そうじゃねえ。)


自分はマユミ程、成績もよくなかったし、自分にも自信が無かった。言っても聞いてもらえると思えなかったし、固執するのも嫌だった。


後から死ぬほど後悔したが。


「・・そうじゃねぇ。」


欲しいものは欲しい。したい事はする。それに今の自分には、多少なりとも自負がある。今まで、このイルミタニアで過ごしてきた事は、彼の血となり肉となっている。


「そうじゃねえだろ? 」


そう結論付けると心が楽になる。


「バンドー様?! 」


「フィーネ、帰るぞ?! 」


「はい! お待たせです! 」


ヴン! 


手綱を持つフィーネの左手から『アラカン』に魔力が通された音がする。

二人を乗せた『アラカン』はたちまち、千切れ雲なびく大空に舞い上がる。



二日後、昼下がりのデスパレス。受付の前で待つバンドーの元に、『星屑の光』パーティが姿を現した。

もちろん、カスミもいる。


「あれっ? バンドーさん?! 」


手を振るバンドーを見つけ、カスミが駆け寄ってきた。


「どおしたんですか?! あっ、ひょっとしてこれから降りるのですか?! 」


バンドーは首を振る。


カスミの魔法服は擦り切れて、片足の太ももがわずかに見える。頬には魔法の跡だろうか、いくつかのすすが付いていた。


バンドーはそれを払いのけると、カスミの頬を思いっきりつねる。


「?! いひゃいです、ふぁんどーさん?! 」


手を放すと、今度は頭をなでる。


「カスミ、お帰り。話があるんだ。」


「はい?! 」


まずはパーティの話をしよう。それから、それからどうしようか。

































誤字修正 後→跡 

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