なるように
少々、忙しくなってきた。パーティ登録にするか連隊登録にするかもそうだが、自分の訓練もある。カスミを放ったらかしにしているのも気になるが、ヘルミットに香を習っているようなので、今はよしとしよう。フィーネとアメリアさんは騎士団時代の名残なのか、朝夕二人で稽古をする習慣があるようで、これもしばらくは口を出さなくてもいいだろう。
「で、何の用じゃい。」
「お爺、ちょっと作って欲しいものがあるんだ。イルミダ? 」
バンドーが家に呼んだのはデスパレスでは滅多に見ないドワーフ種の男達だった。街で唯一の建設ギルドに所属していて、以前フィーネに壁を壊された時にお世話になった事がある。
身長150センチ余り。筋骨隆々で髭もじゃなのはお約束の、このドワーフ達は、デスパレスの建設需要を一手に引き受けている。
「これです。」
イルミダが差し出した図面を、ドワーフ達はいぶかしげに覗き込む。
「これは、・・作業場かの? ふむ。」
前々から、イルミダが欲しがっていたのは、小さい鍛冶場と工作室。何をしたいのかはお察しだが、一応バンドーはレイ教授の許可を取り、庭の一角に建てるのを許す事にした。
「銃でも作るのか? 」
「駄目? 」
「いや、構わねーが。」
バンドーの言葉には複数の意味がある。バンドー自身は、イルミダがどのような物を作りたいのか、あるいは作れるのか、個人的興味はある。ただ思う事は、銃は果たして必要か? という単純な疑問だった。
「許可されるとは、思わなかったわ! 」
あっ、嬉しそう。
最近イルミダも変わってきた。いや多分、こっちが素の性格なのかもしれない。バンドー邸に来た当初は、緊張しまくりの奴隷というか、言葉遣いも堅かったし、バンドーに異常に気を使ってもいた。
まあ、戦に負けて捕まったうえ、サムニウム族が忌み嫌う魔法を無理矢理、覚えさせられたのだから無理も無い。
「なあイルミダ。俺もお前らとの戦いで銃を受けたけどよ。あれ、多分使えないぜ? 」
イルミダはバンドーを振り返り、何か言いたそうな顔をしたが、止めた。くるりと踵を返すと、図面を持ってあれこれ指図しているドワーフ達に混ざりに行く。
「へえ・・。」
何やら程なく、ドワーフ達に指図し始め、いつのまにか作業の主導権を握っているようだ。
「まあ、一族を率いていたんだから、不思議でもないか。」
そう言うと、作業場を後にする。
ところで銃なのだが、バンドーが銃は使えないと言った理由、それは単純に魔法やスキルの方が発動や威力において勝っていて、わざわざ手間暇かけてつくるほどの事も無いと、そう思っているからだった。
事実、サムニウム族との戦闘で銃によって死んだ者はいない。不意を突かれれば負傷くらいはするかもしれないが、あらかじめ戦士系スキルの『硬化』や位階魔法にある第1位階の『リアクティブアーマー』、第2位階の『マジックシールド』で防げる程度の威力だった。
ここネクストステージ・イルミタニアでは意志の力が魔法やスキルに加わる。まれにゼノ式のように気の力や術式をつかう技もあるものの、恐らくある程度の能力を持つ冒険者や騎士には効かないだろう、と思われる。
実際には、銃の威力が落ちている原因は、もう一つあったのだが、バンドーには、そこまで考えは至ってなかった。それは何かと言うと、ぶっちゃけ、使うものが内部構造や理論を把握していないと威力が下がるのである。イルミタニアでは意志の力が優先される。銃の引き金を引く時も、例外ではない。
イルミタニア世界に、引き金を引く、という意思は感じ取られても、その結果銃弾が発射されるまでに意志の力が及ばない、及びにくいと言うべきか。
前世の現代世界では、例えば車の構造を知らなくても運転方法さえ知っていれば車は誰にでも動かせた。イルミタニアでも、一定程度の物理法則は働くのだが、それよりも意志の力が魔力の助けを借りて発動されることが優先される、と言った方がよいか。
それ故、この世界では機械文明が発達しにくいのだ。
バンドーは、そこまでは理解していなかったものの、サムニウム族との戦いで銃での攻撃を肌で受けてみた結果、使えないと判断した訳だ。
「まっ、レイ教授が、やらせとけって言ってるし、」
何を作るか、何ができるのか、前世を知っている身としては少しは興味がある。
夜、自分の部屋として使っている客間のダブルベッドでバンドーが寝転がっていると、カスミが入ってきた。半身を起こして迎えると、カスミはベッドに腰かける。
「・・バンドーさん、私は役に立ってますか? 」
何故かカスミの顔が赤い。酔ってるのか?
「俺の皮装備の整備もできるようになったし、風呂も洗濯も家の事は、カスミに頼りっきりだろ? 」
「ヘルミットさんのほうが、うまいです。」
「アイアンも卒業したし、位階魔法も第4位階まで唱えられるようになったじゃねーか。」
今では『エナジーボルト』も撃てる。
「そうじゃなくてー。」
カスミが体重を預けてきた。
「私は、バンドーさんのお役に立ちたいんです。」
一体、どうしたんだこいつは。そう言えば最近、あまり相手をしていなかったのだが。
「私ね、違うんです。」
カスミのうなじが近い。こいつの首筋からは独特の香りがする。最近、近くにいるヘルミットの香のにおいも混ざって甘酸っぱい。14歳にしても小柄な身体には似合わないものも持っている。
バンドーの身体の上に、覆いかぶさるようにするカスミ。
だが、あえて言おう。
「お前、酔ってんのか? 」
カスミは首を振る。 少し茶色がかった黒髪が揺れている。
バンドーは、あえて強引に体を入れ替え、カスミを下にする。
「お前・・・・」
「私ね、初めてじゃないんです。」
言葉が被った。そして夜は更けていく。




