おしおき
ヴァンパイア・サキュバス種。バンドーやティアにしても、この種は迷宮デスパレス55階層でのミリアマリア(大人バージョン)との邂逅があったきりである。
魔力を糧とし、食らいすする種族。迷宮都市デスパレス・ギルドマスターであるレイ・クリサリス・バーサクによると、胸の奥深くに存在する黒の魔石に書かれた魔法術式によりコントロールされる魔物の一種だという。だが、目の前に認める限りはひとりの美しい女性にしか見えない。
身長は170センチを少し越える程度。年の頃は24~5と言ったところだろうか。白いケープにターバンを羽織り、印象的な金色の右目と赤褐色の左目。いや、今は魔力放出の為か赤褐色の瞳は深紅に染まっている。その胸元の形の良いふくらみは一際、目を引く。男ならば。
「お、前かぁ・・・・。」
アルシャンドラにしては想定外。予想の斜め上をいく存在が目の前にいる。
「アル、久しぶりね。」
ミリアマリアは腕を組み、ふふんと鼻を鳴らす。普段は7~8歳にしか見えぬ、その身体は、16~7歳くらいにまで成長している。どういう訳か身体にフィットする、赤と黒の特徴的な衣装が目を引くが、それ以上に、切れ長の瞳と形の良い口元が印象的だ。背から伸びる深紅の羽根が動悸する。
「・・・・どういう事だ? あのお方の意志に背くなど、我が種族には有り得ぬ。」
ヴァンパイア・サキュバスとして生を受け、その能力を用いて魔力を集め成長し、主人に愛でて頂く。
それがアルシャンドラの生きる全てだった。
「どおりで我が僕が! 」
アルシャンドラが怒りを露わにした瞬間、灰褐色の見事な翼と、まるで悪魔を思わせる2本の角が現出する。
魔力を得る為に、魅了で飼い殺しにした筈の冒険者達は既に呪縛から解き放たれている。
全て、ミリアの仕業。
「双頭蛇アンカー! 」
バンドーの右腕に装備された漆黒の籠手からワイヤーが伸びる。それは違わずアルシャンドラの左腕に巻き付くと同時に彼はスキル『魔力分解』を発動させた。
「なっ?! あああああああああ?! 」
完全体、間近のアルシャンドラの身体から、大量の魔力が抜け落ちると同時に、突き抜ける快感。これは? 知っている、感じる、受けた事がある。
「これは?! 馬鹿な、あのお方の? 」
思わず意識が飛びそうになりながら、すんでのところで、アルシャンドラは絶対魔法障壁を切った。
「知ってるぜ、成体は魔法障壁を切れるんだよな? 」
ちなみに、普段のミリアマリアは無意識に魔法障壁を纏う。幼生体はパッシブで魔法障壁を身に纏うが故に、アルシャンドラのように自由に能力を切れる訳ではない。それ故に、
「バンドー、嫌い! あっち行って! 」
となるのであった。
「火! 」
後方で待機していた、ジーン以下の魔法使い達から、第5位階の攻撃魔法、爆炎がアルシャンドラに殺到する。
「ぎゃあああああぁ?! 」
絶対魔法障壁が切れた身体では、その攻撃を受けきれず、アルシャンドラは膝を付く。
「・・・・おのれ、この人間風情がぁ! 」
その言葉と共に、黒い靄が、アルシャンドラの角から大量に放出されると周囲の冒険者達に殺到する。
だがこれも織り込み済み。
「アン! ゼノ式が効く。」
言いながら、バンドーも黒い靄目がけて、気の込もった一撃を放った。
ヴァンパイア・サキュバスの種族魔法、闇精霊。遠隔で魔力吸収も可能なはずのその能力も、アンとその配下のゼノ式の破邪の光で塵と消える。
「何だか、可哀想になってきたわ。」
とはティアの談である。
「また、フィーネの寝込みを襲われたら、しゃれになんねーからな。」
アルシャンドラは肩で息をしている。
「信じられぬ・・。ああ?! 」
双頭蛇のアンカーが放たれ、再びアルシャンドラを捕える。ワイヤーの先に付いた鏃、気を纏ったそれは、障壁の無いアルシャンドラの生身を容易く貫いた。
それと同時に体内に放たれた『魔力分解』はたちまち威力を発揮する。170センチを超えた身長はわずかずつ縮み、柔らかな曲線を帯びた腰のラインも、少女のそれへと形を変えていく。
「あっ、あっ?! 」
体内に貯め込んだ魔力を分解され、成長の過程を逆に辿っているのだ。可哀想な気もするが、放置する事は出来ない。初期化して、ミリアマリアのように意志を封じる。
全てが終わる、誰もがそう思った時の事だった。
ダダン!!
神殿の扉が勢いよく放たれ、嵐と稲妻の本流が青白い光と共に神殿内を突き抜ける。奥の壁にぶち当たって突き抜けると、消えた。




