タウリシュ
魅了を受けていたらしい行方不明のはずの冒険者達は排除されつつある。『星屑の光』メンバーである魔女ジーン・ケニスティと配下の小隊3人が取り押さえたところを、ミリアが解呪している。
頃合いも良しとバンドーが、前線に出ようとした、その瞬間であった。
「誰だ?! アリか?! 」
バンドーが持つスキル『戦略眼』は、5秒という時間制限はあるものの、戦場に設定したMAPを上から俯瞰的に見る事ができる。
「ヒミカ! 」
アリが崩れ落ちる瞬間を捉えた時には、スキル『飛足』を発動していた。ヒミカに右手中指で付いてくるようにサインを送ると、宙に浮くように高速移動。一瞬の後には現場にいた。
「させねぇ! 」
今まさに、アリの身体を切り刻もうとしていたヘルミットの両刃を、左腕に装備した双頭の蛇で受ける。
(なんだ? )
一瞬、感じる違和感。だがそれも束の間、バンドーは姿勢を低くして気を纏った右足を低空から蹴り上げ、少しだけ身を引くと同時に掌底を繰り出す。
「 『飛足月華』! 破邪! 」
「 氷結 」
追いついてきたヒミカが背後で神聖魔法を発動している。その場で治療が難しい場合、患部を凍結保存する魔法だ。
「遅れてすまねぇ。」
声を掛けた先にいるアン・ラスティは答えない。両腕を前に出して構えたまま、その瞳は真っすぐヘルミットに向けられている。『黒猫のアン』と呼ばれる彼女は、ゼノ式を中伝まで修め、さらに暗殺スキルも極めつつある。両手には、いつのまにか円刃と呼ばれる握りがついた円形の刃物。
「殺す。 」
ヘルミットが横に薙いだ刃を跳躍で躱し、そのまま右足で蹴りを入れる。踵から刃が飛び出し、着地と同時に更に半回転、下掃脚を左、右。
蛇足だが、かつてユメにブートキャンプでゼノ式を教えた時、俺の知っている盗賊は靴にもナイフを仕込んで蹴っている、と例えに出したのは彼女の事。まあ、今はランクアップして暗殺者だが。
ややバランスを崩し、後方に下がるヘルミット。
「下がって! 」
更に後方から援護の魔法攻撃が着弾する。
いや、着弾するはずだったのだが、ことごとく目標を逸れた。
「前衛、いったん下がれ。アン? 」
バンドーは周囲に距離を取るように命じる。
アンが一瞬、バンドーの顔を見て唇を噛むが、指示通りに下がった。
「逃げるのですか? 」
両端に両刃を持つ槍、通称名”ブリオナ”を下げ、ヘルミットが薄笑いを浮かべた。もちろん、バンドーに、そのつもりはない。『戦略眼』で状況を把握。ジーンの隊とミリアに与えた役割が終わりつつある事を確認する。それと、前衛を下げた理由はもう一つあった。
「お前、『タウリッシュ』だろ? 」
王国に認められた数ある武闘流派のうち、いくつかは既に継承者がおらず、名称だけが残って絶えているものもある。その中でも、部族門外不出の暗殺術『タウリ』、そしてその暗殺術を継承する者を『タウリッシュ』と呼ぶ。タウリ族のみに受け継がれていた暗殺術は、王国の武闘流派に認められてはいたものの、その特殊性から、部族滅亡と共に絶えたと聞いていた。
バンドーの言葉を聞いた瞬間、ヘルミットの形の良い眉が反応する。
「籠手で受けた時にもしやと思ったんだ。それに、この香。」
ヘルミットが放った伽羅に似た香りが痛覚神経を麻痺させる事は説明した。だが、本当の効果は実は別にある。香を吸った相手の距離感を狂わせるのだ。有体に言えば、こちらの攻撃が微妙に当たらなくなる。
ゼノ式免許皆伝の中には、王国武闘流派の知識も含まれる。まあ、ほとんどがエナの受け売りなのだが。
「・・それで? どうするのです? 」
「こうする。ヒミカ、火炎力場、他は魔法矢で継続的に攻撃。悪いな。 」
「なっ?! 」
「石壁立て、逃すな。」
既にジーンの隊もいる。手数では圧倒的にこちらが上。魔法矢は第1位階攻撃魔法で威力は弱いのだが誘導弾。放てば必ず目標に当たる。火炎力場で足場を崩され、身体に魔法矢を集中的に受けるも、逃げる方向に石壁、石壁。
ヘルミットはあっという間に壁際に追い詰められる。そこへ『飛足』で距離を詰めたバンドーが腹に一撃。
意識を狩られた。
「容赦ないわね・・。」
いつの間にか背後にミリアが立っている。
「来たか。・・・・ミリア、こいつも魅了にかかっていると思うか? 」
「そうね。解呪する? 」
「頼む。」
さあ、残るはひとり。お仕置きの時間だ。




