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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第五章 妖しい瞳に ご注意
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混乱

パーティ『音速』のリーダーであるナカジマは思慮深いと書いた。彼がネクストステージ・イルミタニアに来て10年の月日がたっている。冒険者として過ごした、その10年が艱難辛苦かんなんしんくに満ちた年月だった事は、容易に想像できる。


ちなみに、彼のパーティ『音速』の名前の由来は、彼が生前遊んだ事のあるRTS系ゲームで、リアル『音速突撃隊』というレジメントを主宰していたからなのだが、細かい事情は置く。ここに来た当時、彼は17歳だったのだ。


まあ、何はともあれ、冒険者と言う立場でここで10年と言う時を過ごし経験を積んだ彼であるからこそ、仲間の行方が知れないという状況下でも理性的に交渉を続ける事が出来た、と言ってもいい。


「先程から何度も言う通り、ここにはあなたが疑うようなものは、何もないわ。」


この、目の前に存在する美女は果たして本当の事を言っているのだろうか。アルシャンドラ・カルガリー。

イルミタニアの理と成り立ちを説き、上位精霊を崇める教義を持つシヌーク教を奉じる、・・神官? それとも巫女と言うべきなのだろうか。それすらも判然としない。


ナカジマが、ここにきた理由。こことは、迷宮都市デスパレスのスラムの一角に位置するシヌーク教徒の神殿。最近、頻発していた高魔力保持者を狙った誘拐や通り魔に関する捜索を、パーティ『音速』はギルドから請け負っていた。当然、経過報告はパーティのリーダーであるナカジマにもある程度あがっている。


(少なくとも、ミヤウチ達はここに来た事がある筈だ・・。)


というのが、ナカジマの見立てであった。


シヌーク教の神殿周囲には、『音速』メンバー8名ほどが展開を終えている。ナカジマが合図さえすれば、全周囲から踏み込む事も可能。


「そうね・・。正直に言うわ・・。・・もう、いいの。」


ナカジマの目の前にいる、たおやかな風情の女性。身長は170センチを少し越える程度。年の頃は24~5と言ったところだろうか。白いケープにターバンを羽織り、腕には3重の金の輪が嵌められている。向けられる視線をたどると、印象的な金色の右目と赤褐色の左目にいきつく。彼女は、金の指輪が嵌められた左手薬指を口元に当てると、囁くように、そう言うのであった。


(・・この女は、今何を言った? )


ナカジマの正直な感想である。


「地上に出て、有意義な狩りが行えたし、魔力補充用の子猫ちゃん達も手に入れた。完全体になるのは時間の問題だし・・。もうそろそろ、あの方の元に帰る頃合いだと思っていたところなのよ・・。」


話がみえない。


「完全体になった私を、・・あの方に食して頂く・・。ああ・・」


会話の対象は既にしてナカジマではない。どこか遠く、彼女の視線は別の所を向いている。


「だから・・ね? もう、どうでもいいのよ。ここでの事は・・。」


赤褐色の左目が、深紅に煌めく。


危ない! 危険?! ナカジマの冒険者としての経験が、それに基づく勘が、全身に危険信号を発している。


「くっ、支配力場ドミネイトパウ! 双撃ダブルスラッシュ! 」


戦闘態勢を示す戦士スキルを連発しながら、ナカジマは後ろに飛ぶ。飛びながら、


(いきなりはまずかったか? だが、・・だが! )


自分は多分間違ってはいない。相手が一体何を考えているのか、判る瞬間がある。それは殺気だ。自分をなで殺しにしようという気配を、確かに感じたからこその臨戦態勢。


信者が座る為であろう長椅子や机が並ぶ神殿内でのいきなりのスキル行使。木製のそれらは音を立てて吹き飛び、埃くさい粉塵が辺りを舞う。


爆炎エクスプロージョン! 」


構わず次の攻撃を放つ。


抜いた剣を片手に薙ぎ、左手の小指に嵌められた詠唱発動体を兼ねる青い指輪が光る。無詠唱の第5位階攻撃魔法がナカジマの左手から押し出されるように発射される。


これで、この攻撃音で外の仲間にも通じる筈。戦端は開かれたのだと。確認しなくとも、『音速』メンバーなら無言の連携に入る筈。今は目の前の事態を迅速に把握すべき。


「あまりにもつまらない結末は、・・あなたも求めていないでしょうから・・」


舞い上がった炎と粉塵が切れて臨戦前と変わらぬ姿で、そこにいる女を目の前にして、背筋が凍る。


途端、複数の方向からの魔法攻撃。エナジーボルト? 


一発は抵抗レジストし、もう一発は自らの両手剣で反らす。


目の前のアルシャンドラからではない。別の、


「・・アカリ?! 」


数名の、それも見知った冒険者を視界内に認めたのだが、今一体何が起こっているのか? 


「馬鹿な・・何を‥?!」


「私に敵対する者を排除しなさい。例外は認めないわ。」


アルシャンドラの声がする。


(敵対する者だと? 俺を? )


一体、どうなっている? この状況は何だ? 


「アカリさん?! 」


神殿内に突入してきたパーティメンの悲鳴にも似た声。


アカリ以外にも、行方不明になっていたゴールドランクの魔法使いが数名、姿を現してナカジマ達に攻撃を加えてくる。


(馬鹿な! あの女の仕業なのか? )


この状況は? 一体自分たちは何のために、ここに来た? 誰と戦えばよいのか? 

 

「最高よ、あなたの、その顔・・。」


いつの間に近づいたのか、すぐ側からアルシャンドラの声がする。


「いい、土産だわ・・。」


彼女の鋭くとがった爪が、ナカジマの左肩を穿つ。


「ガハッ!! 」


よろめきながら向き合うも、腕に力が入らない。


(麻痺毒? くっ・・)


全ての歯車が狂っている。一体何をどうすればよいのか。視界がゆがむ。


「フィナーレは、どうしようかしら? 」


思わず片膝をついたナカジマの耳に入る、その声は、戦いをまるで意識していないかのように聞こえる。

事実、アルシャンドラは人差し指を口元に当てながら、周囲の状況をデザートの選別程度にしか考えていない。


「て、撤退・・」


ナカジマが、残る気力を振り絞って、そう告げようとした時の事だった。










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