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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第一章 ユメとカスミ編
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死と生は紙一重、偶然は2度続く

カスミちゃんは意図せずに不幸になる体質があるのかもしれません。

4階層のボスとも言える双子リッチは5階層への階段前にある広間に現れる。その広間は扉を開けて中に入ると同時に施錠され、中に入ったパーティは双子リッチとの戦闘を強いられる。

勝たなければ、5階層へ降りるための階段へと続く通路につながる扉が開かない仕様になっている。


ちなみに双子リッチの能力だが、リッチよりやや多めの体力と、双子リッチが召喚するアンデットがスケルトンではなく、スケルトンメイジとなる事だろうか。他には、杖を持つ手が右手と左手に分かれる事で双子それぞれの区別が付くのだが、胸に秘めている魔石の位置以外、特に違いはない。ちなみに連れている取り巻きはレイス2体にスケルトンメイジが4体。


普段なら。


バンドー達3人は4階層を進み、階段前の広間の扉までは順調に進出することができた。僥倖と言っていい。とにかく、ここを抜けて4階層と5階層の間に存在するテラスにさえ至れば、およそ何とかなるのだ。


「いいか、カスミ。中に入ったら隅の方でおとなくしてろ。お前が攻撃する必要は無い!普段通りなら3分もあれば終わる。ユメはカスミを守ってやってくれ、頼んだぞ。」


「OK、うちに任しとき! 」


なんだかんだ言ってユメは割と信用できる。目の前でレイスの狂気一発で恐慌状態に陥ったのを見たが、あれは恐らく仲間が倒れたことで狂気にかかりやすい状態になっていたのだろう。


「頼む。」


3人はバンドーを先頭に双子リッチが待つ広間に突入した。

背後で扉が施錠される音。さあ、戦闘開始だ。だが、様子がおかしい。バンドーは何度となく、この部屋に来ているのだが・・


「な・・んだと? 」


広間には双子リッチとレイス2体以外に、スケルトンメイジが20体近くいた。


「おい、おいおいおい・・。」


理由はすぐに知れた。広間の床に、冒険者の装備がばらまかれている。これは恐らく先に突入したパーティが殲滅された残骸。その際に双子リッチが召喚したスケルトンメイジが丸々残っているという事。


バンドーは瞬速でスキル「威圧」と「身代わり」を発動させる。敵のターゲットを強制的に自分に持ってくるつもりだったのだが、


(やべぇ! 数が多すぎてターゲット全部がこっちに向かねぇ。)


一瞬の判断が命取りになる。


「カスミ! 手を出せ! 」


「えっ? 」


おずおずといった感じで下から出したその腕を握ると、


「違う、こうだ! 」


バンドーはカスミの手と自分の手をかざし合うように握りしめる。

その瞬間、カスミが跳ねた。


”カスミはリアクティブアーマーの呪文を習得しました”


「えええええええ?! なんで? 」


「リアクティブアーマーは第1位階だ。お前でも余裕で使えるはず。早く使え。早く! 」


リアクティブアーマーの呪文の効果は、敵からの攻撃を100%防ぐ。一度防いだ後、最初の一撃で50%の確率で呪文が解除される。解除されなかった場合、2撃目は60%・3撃目は70%と呪文が解除される確率が増えていく。解除される確率は高いものの、最初の一撃は必ず防いでくれるので重厚な防御手段を持たない後衛には重宝されている。スクロールさえあれば誰でも憶えることができる第1位階の呪文であることから、かなりポピュラーな呪文である。ただし、解除されてから次の詠唱まで2分間のインターバルが必要となるのだが。


カスミはリアクティブアーマーを唱えた。


「い・くぞぉ~! 」


それを確認するや否や、バンドーはスケルトンメイジの群れに突っ込む。数を減らさない事には、どうにもならない。鋭い踏み込みから”破邪の掌底”、そして”鳳翼”、下方を掃射するように掃脚、”カエシ”。


一の型”ひよどり”から斜めに蹴り込むように回転してスケルトンメイジ数体を粉砕した。


「そこにいたか爺ぃ~! 」


1体目、右手に杖を持った双子リッチを視界に入れるとスキル「飛足」で一気に距離を詰め、貫き手から双子リッチの片割れの魔法障壁を分解、胸元に手を突っ込んで魔石を引きずり出す。


「一人目ぇ~! 」


そこですかさず、スキル「威圧」と「身代わり」を発動。数が減った敵のターゲットはバンドーに固定される。


(勝ったか?! )


いける、カスミは最初にいたスケルトンメイジから1発ファイアーボールを食らったものの、インターバルを耐え切り、再度リアクティブアーマーを身に纏っている。


実はバンドーには、この階層で嫌な思い出がある。半年前にデスパレスに来て潜り始めた当初、バンドーは同じ初心者冒険者たちとパーティを組んでいた。ゼノ式格闘術免許皆伝・魔力分解スキル持ちのバンドーは当時から別格で、パーティの要の前衛として活躍していた。だが、彼は調子に乗ってスケルトンメイジの群れに突出しすぎ、悲鳴に気が付いて後ろを振り返った時には、パーティメンバーの一人がアンブッシュ(待ち伏せ)にあって崩れ落ちていた。


苦い思い出。以来、バンドーはソロで潜るようになった。


「ちっ! 嫌な事を思い出させやがって。」


残ったスケルトンメイジとレイスを粉砕し、最後に左手に杖を持った双子リッチの胸元に飛び込む。


「わ、わたしだってぇ 」


カスミが何か叫んでいる。


双子リッチがエナジーボルトの呪文を詠唱している。魔法陣が展開する寸前、


「させねぇーー! 」


バンドーは双子リッチの魔石が存在する胸元に向かって腕を突っ込む。途中の魔法障壁をスキル「魔力分解」で無効化。手首まで突っ込んで魔石をむしり取るつもりだったのだが、


「やべぇ、間違えた! 」


やっちまった!

双子リッチの魔石は、人間でいえば右胸の辺りに存在する。だが、左腕で杖をもっている双子リッチだけは、何故か左右逆になっている。つまり左胸に魔石が埋め込まれているのだ。


「フ、ファイアーボール! 」

「なんだと? 」


カスミの声、それと共に小さな火球が最後に残った双子リッチに命中する。


やばい やばい


双子リッチは、今まさにエナジーボルトの詠唱を終えようとしている。ターゲットはバンドー。だが、カスミがファイアーボールを当てた事によって、双子リッチのターゲットはカスミに向く。


今まさに発射されようとしているエナジーボルトの矛先がカスミに向けられる。


(あんの莫迦ぁぁ・・)


「シッシ、シュ~! 」


双子リッチの唸り声がしたかと思うと、その身体が見る間に崩れ落ちた。魔石が転がる。


(な・んだと?! )


戦闘終了。


バンドー、呆然である。


前に突入したパーティは速攻を狙って双子リッチに攻撃を集中させた。恐らく。ところが、双子リッチが召喚するスケルトンメイジの数に押され、敗北した。だから、バンドー達が突入した時に通常より多いスケルトンメイジが存在した。それと同時に、双子リッチの体力は最初から削られていた訳だ。


だが、いくら体力を削られていようと、普段なら双子リッチが身に纏う魔法障壁をもってすれば、初心者で魔法習熟度の低いファイアーボールの1発程度なら、問題なくレジストされてしまうはず。


ところが、バンドーがスキル「魔力分解」で双子リッチの魔法障壁を取り払っていた事から、カスミのファイアーボールのダメージが双子リッチに届いたという訳。


だがそれにしても、カスミのファイアーボールで双子リッチの体力を削り切ることができなければ、間違いなく双子リッチの呪文、エナジーボルトがカスミに着弾していただろう。もしもそうなっていたなら、カスミは内臓をぶちまけていてもおかしくはない。


「やった~! やりましたよ、バンドーさん! 私、双子リッチを倒しました! 」


くっ! こいつは一体、ほめるべきか叱るべきか!


それに、バンドーが今推理したこの戦闘における原因と過程と結果をカスミに話してみたところで、恐らく、カスミの理解は及ばない。


バンドーが口を半開きにしてカスミをみると、ほめて・ほめて~といった感じで片手を挙げている。


(けどそもそも、俺が双子リッチの魔石位置を間違えなければ、全て終わっていた筈なんだよな~・・)



「っ、よくやったな~カスミ~。」


バンドーは軽くカスミの肩を叩くと、小柄なカスミの、ドライヤーを当て過ぎてやや茶色がかった感じのするショートカットの髪をわしゃわしゃとかき乱す。


「痛い! バンドーさん、痛いです!何でぇ?! 」


「褒めてるんだよ! 」


ガコン!


同時に下に降りる通路へとつながる扉が開いた。


「行くぞ! 」


顔を扉の方に振り、バンドー達は4階層を後にした。





2016.11/3 誤字修正 「魔法分解」→「魔力分解」

           



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