朝は喧騒
明けましておめでとうございます。
年末は煮詰まってお雑煮状態でした。
餅のように粘れればいいのですが、
長い黒髪、金色と赤褐色のヘテロクロミア。年の頃は24~5といったところだろうか。彼女は横たわっていた長椅子から半身を起こすとつぶやいた。
「・・インフラムが、消えた・・? 」
以前、迷宮デスパレス5階層のテラスでバンドー達にアルシャンドラ・カルガリーと名乗った女性。
彼女は指先を唇に当て、そして爪を噛む。
彼女がいる場所は窓の無い部屋であった。あるのは大きな鏡と、彼女が横たわっていた長椅子、それに他に豪奢なベッドも。明かりは魔法か何かだろうか? 光源の類はみられないが室内で読書ができるくらいの照度はあるようだ。
「妙な・・、確かに浴びるほどの魔力を吸っていた筈なのに・・。そんな簡単に、消し去れるものかしら? 」
そうつぶやく彼女の傍らに、同じく黒髪の少女が跪く。
「香油を持って参りました。お続けになりますか・・?」
「今夜は、もういいわ。確かに魔力は吸ったのだから印は付いているはず。後で試してみましょう。」
「かしこまりました。」
彼女は、そう言うと立ち上がり、背中から長い髪の毛に手を通すと首を振るう。腕に付けている3重の金の輪が軽やかな音を立てる。
「ヘルミット、少し眠るわ。一人にして頂戴。」
「おやすみなさいませ、アルシャンドラ様。」
黒髪の少女、ヘルミットは静かに礼をすると部屋から退室する。
「それにしても・・、良質の魔力だった事・・。どんな子か、実物を見てみたいわ・・。」
ベッドに横になりながら、アルシャンドラは片腕を振るうと、室内がゆっくりと暗闇に包まれた。
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どんな夜にも朝はくる、と言ったのは誰だったか。寝込み中に襲われてフィーネの部屋でキャンプ状態になったバンドー家にも当然、朝はくる。
フィーネを襲った靄のような現象は結局、それ以後進展をみず、彼女は何事も無かったかのように目を覚ますと奇声をあげた。
「ひゃっ?! ここはどこですの?! 」
無理もない、彼女が眠っていたベッドの下には毛布がばらまかれ、綿布を纏うように丸まりながら眠るイルミダとカスミが目に入る。
他にも、窓を塞ぐように神盾アラカンが立てかけられてあったり、扉の前には何故かテーブルが置かれていて、開けても人一人くらいしか出入りできないようになっている。
私が眠っている間に、一体何があったのかしら?と思っても不思議ではなかった。そして、何故か身体がだるい。この気だるさは、魔力枯渇を思い起こさせるが、右手の平の上に魔力を発現させ、それを体内に戻すようにして探ってみると、2~3割は残っているような気がする。
「よう! 姫さん、起きたようだな? 身体の調子はどうだ? 変わりないか? 」
バンドーが狭い入り口を抜けて入ってくると、逡巡しているフィーネをみつけて声を掛けた。
「バンドー様? フィーネは大丈夫ですよ? 」
「おう、そうか。じゃあ、悪いけどカスミとイルミダを起こしたら食堂に降りてきてくれ。一緒に飯を食おうぜ? 」
そう言い放つと、バンドーは又部屋を出て行った。
何やら納得がいかないが、さりとて否やは無い。フィーネは又しばらく、確かめるように右手を開いたり閉じたりしながら魔力を身体に循環させて、体内の魔力を測る。
(何か、大切な事を忘れているような気がするのですが・・? )
そう思いはしたものの、眠っている間に見た夢を思い出せないような感覚はよくある事だ。やがて彼女は気にしない事にし、バンドーに言われた事のほうを思い出すとベッドの側に降り立って、両手の平に緑色の魔力を纏わせて、眠っているカスミとイルミダの上に手をかざして、振り下ろした。
「おはようございます、朝ですよ?! 」
途端に気の抜けたような音を立てて、眠っている二人が身に纏っていた綿布に風が送り込まれて跳ね上がる。
「ひゃあああ?! 」
「敵襲?! 」
それがカスミの声なのかイルミダの悲鳴なのか判断は付かないが、二人は無理矢理起こされたのだった。




