夢の果て
バンドー君はデリカシーがないんです。そういう人、いますよね?
意外なことにユメは同意した。
いや、意外とか言ったら失礼か。改めてユメの冒険者プレートを確認したら、シルバー。中堅と言ってもいい。
「あれやん? テラスに抜けて援助を求めるって事やんね? 」
こいつは判っている。恐らくカスミの百倍理解している。
「そうだな。4階層から5階層に抜ける間には、洞窟が口を開けていて、通称テラスと呼ばれる広場がある。」
ジト目のカスミに説明するために、あえて付け加える。
デスパレス、4階層から5階層の間にかけて、ダンジョンの通路から別れるように洞窟が形成されており、その先には地下水が流れる川がある。飲み水確保が容易なことも手伝って、そこに広がる空間は、デスパレスのさらに奥に潜るための、いわばベースキャンプ的、存在となっている。
「いつもだと、この時間なら2パーティはキャンプしてる。運が良ければ、ゲート屋もいるかもしれねぇ。」
ゲート屋というのは、第6位階の移動魔法であるゲートを使って、希望があれば地上に送り届けてゴールドを得る、そんな商売だ。ゲートを覚えたばかりの冒険者がゲートの魔法習熟度を上げるための修行も兼ねて、やっている事が多い。
「それでだ。前衛は俺が務める。ユメは真ん中で、盗賊スキルを使って敵を探知したらすぐに知らせてくれ。カスミは、万が一、側面や背後から攻撃を受けた時に、シャドゥウィップで時間を稼いでくれればいい。」
問題は4階層のボス的存在。4階層から5階層に降りる階段の手前の広間には、この階層限定のボスが陣取っている。
双子リッチと、その取り巻き。バンドーひとりなら問題ないのだが、「魔法検知」スキルをもつ魔術師がパーティにいないので例えばスケルトンメイジが、その骸骨の身体を崩して待ち伏せしていても、見逃してしまう可能性がある。
一気に突破してしまうか?
バンドーがそんな事を考えていると、ユメが口を開いた。
「うちな~、カズヒロ君やマコト君にお別れしてないねん。」
ええやろ? ちょっとだけや。
盾戦士はマコト君と言うのか。そう言えば、こいつは気絶していたんだった。気持ちは判る。それに、今なら少し余裕があるから新たな発見があるかもしれない。回収できる装備は回収すべきだしな。
たんたんと進んでいるようだが、実はユメが目覚めてから2回ほど近くにリッチがスパンし、
「この、クソ爺ぃ!! 」とかいいながらバンドーが魔石を回収している。
取りあえず放置されている二人の死体まで案内し、回収できるものは回収する。
本来なら、死体はアンデット化する可能性があるので焼き払うのがセオリーなのだが、カスミに
「お前、ファイアーボールでこいつら焼けるか?」と聞いたところ、
「なんで、そんな事言うんですか?! 」と言うなり泣き出したので保留している。
駄目だ、こいつは何も判ってない。
「カズヒロ君、堪忍やで? 」
ユメがカズヒロのバックパックから回復ポーションをゲットした。これで火傷が治る。生存率があがる。ユメが短剣を使えるようになる。
「しかしお前ら、回復ポーションもろくに持たずに、よく4階層まできたな。」
バンドー、お前は余計な事を言い過ぎだ。ほらカスミがまた落ち込んでるじゃないか。ユメも回収の手が止まっている。
「すごい調子よかったんや・・。初リッチも狩って、これで帰ろう、そんな感じやった・・。」
さすがに地雷を踏んだことに気付いたバンドーは黙る。
「まあ、人生うまいこといけへんな~。そう思うわ。」