カスミよかったな
迷宮デスパレス5階層のテラスに開かれたゲートをくぐると、そこは冒険者ギルド前だった。陽は、やや落ちかけている。右側の通常入り口から入り、奥のカウンターで任務の報告を行う。
カスミは晴れてブロンズプレートに昇格し、見習いを卒業した。
「バンドーさん! 今までありがとうございました! 」
カスミは嬉しそうにブロンズプレートを掲げているが、何のことは無い、まだまだ下っ端である。けれど彼女にとっては、感激がひとしおであったらしい。まあ、そうかもしれない。結局、”希望の光”は解散せざるを得なかったし、その他にもいろいろあった。いろいろあったのである。
「カスミちゃん、おめでと! 」
一番にユメが祝福している。まあ、彼女は前のパーティからの仲間だからな。
「お前、魔法のセンスはあるんだから、これからも頑張れよ? 」
バンドーもカスミの頭を撫でてやった。
後は酒場でパーティだった。そう言えば、家にいるみんなで酒場に繰り出した事なんか無かったな。
冒険者と言えば酒場である。とは言え、一応バンドーは身体が16歳であるしカスミやユメは未成年。フィーネに至っては12歳と、ろくに飲める面子がいない事も起因していたのだろう。
だが、この世界イルミタニアには生憎、法律上の飲酒制限など無いし、止める人間もいない。ついでにティア達を呼んで酒場を貸し切れば、変な奴らにからまれる心配も無い。
何より、この前のサムニウム族襲来の報奨金が出て懐も温かいし、ついでに戦勝の祝いも兼ねてカトル達も来るとなれば、これは騒ぐしかないではないか。
乾杯!
と言う訳で、カトルがフィーネを可愛がったり、ティアがいきなり脱ぎだしたり、アメリアさんが竪琴を演奏しだしたり、ミリアマリアが机の上で踊りだしたりした挙句、夜は更けていく。
バンドーは、そんな喧騒を抜けて夜風にあたりに外に出る。
「いい夜だな。」
少し前までは、こんな夜が来るとは思ってもいなかった。
「バンドーさん・・。」
いつの間にか、傍らにカスミがいる。
「私ね、この世界に来て、今が一番幸せです。」
「よかったな、カスミ。」
何気無い一言。だが、カスミはうつむきながら、言葉を続ける。
「私ね、ここに来る前は、ほんといらない子呼ばわりされて。」
何やら重い話なのだが、程よく酔っているおかげで聞く事ができる。こういう時は、酒っていいな。
「お義父さんから、いつも、そう言われてたんです。」
そう言えば、カスミは自殺したんだったか。何か出会った時に、そんな事を聞いた気がする。
「カスミ、この世界の上にはまだ世界があるんだ。シャンドラだっけ? 昔、師匠が言ってたな。」
「えっ? 」
「なんだっけ、6つの階層があって、俺達がいた前世世界が下から2番目で、上に行くほど精神世界になるんだっけ? んー、あんま憶えてねぇ。」
カスミが判っているのか、へーとか言ってる。
「まあつまりだ、ここでは望む思いが強いほど力が手に入るらしいぞ? 上に行けば行く程な? 」
だから、折れるな。思えば力になる。もちろん、努力もいるが。
バンドーは、そんな事を言いながらカスミの肩に触れる。
「でも、お母さんには悪いことしたな・・。」
カスミは泣き上戸なのだろうか。それとも、喧騒から離れればテンションが落ちていくタイプか。いずれにせよ、バンドーは深く聞かない事にする。
「カスミ、後悔には2種類あってな。」
「えっ? 」
「取り返しのつく後悔と、取り返しがつかない後悔だ。取り返しのつく後悔は頑張ればいいが、取り返しがつかない後悔は、どうしようもないから忘れちまえ。」
カスミは何事かを思い出すように、考え込んでいる。
「それよりか、自分に今できる事をやるんだ。」
カスミが、いつの間にかバンドーの顔を見ている。そして、ぎゅっとバンドーに抱きついた。
「はい・・。」
「それが、いい子の秘訣だ。」
バンドーはカスミの背中をぽんぽんと叩いた。
「バンドーさん、ずるいです。」
意味が判らない。
「かっこよすぎて、ずるいです。」
かっこいいか? 俺は本当は弱いし失敗は多いし、くだらない人間だぜ?
だが、ここは、思ってもそんな事は言わない方がいいのだろうな・・。
「中に戻ろうぜ? 」
バンドーはカスミをうながすと酒場に戻る。中は相変わらず喧騒の真っ最中。
「カスミちゃん、何処に行ってたの?! カスミちゃんの卒業を祝ってかんぱーい!! 」
ティア、一体何回、同じ理由で乾杯するつもりなんだ? そもそも卒業って。
「ケイン兄様は、相変わらず、手が早いのですね。」
いけない、カササギの目が座っている。実はゼノ式の『月下桃華の峰』を出てデスパレスに来て以来、バンドーとカササギの間には、とある事情で隙間風が吹いている。カササギと話をするのも近くで食事をするのも久しぶりだったり。
「しばらくひとりでやっていると思えば、いつのまにか女をはべらせたり・・。」
誰だ、こいつにはちみつ酒を飲ませたのは。
「カササギは、呆れてものも言えません。」
いけない、これ以上カササギを放置してはいけない。バンドーはちらりとティアを見る。
「カササギちゃん、お姉さんと最近の魔法事情の話でもしましょ? 」
さすがだ、ティア! いつもながらナイスフォロー。
「ティア姉様もティア姉様です。一体、いつまで兄様を放置しているつもりなのですか? 」
ティアが更に、カササギの杯にはちみつ酒を注ぐ。
「それがね、カササギちゃん。この前サムニウムの時の事なんだけどー、・・・・。」
ティアがカササギと何やら小声で話をしている。
「ええええっ?! ケイン兄様が、そんな事を?! 」
一体、どんな事なんですかねぇ?
「そうなの、『俺のティアに触るなぁ! 』って・・・・。」
「カスミー! お前も飲め!! 」
こうして、夜は更けていくのであった。
本当は、こんな話書くつもりなかったんです。でも、少しお酒を飲んだら、こんな話に。
後悔はしてませんけど・・。




