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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第四章 ティアとバンドーの出会い
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ひとときの憩い

朝早くにティアは目覚めた。朝の日課である魔法書の習読と神殿前の掃除を終わらせ、ゼフィリヌスの様子を見に行く。


「ティアか。今日明日と私は忙しいのでな。コモロの家でも行って来るがよいぞ。」


「はい。・・はい? 」


思わず反芻してしまった。


「どうした? 」


「い、いえ、なんでもありません。」


ティアは、そそくさとゼフィリヌスの所を辞する。


(ゼフィリヌス様から、コモロ家に行けなどと言われたのは、初めてです。)


正直、ケインの看病をしていた頃は、つまらない用事をいろいろ言いつけられて、今考えれば邪魔されていたような気がする。


「きっと、ケイン君が元気になったので、認めてくださったのですね?! 」


ティアは、そう前向きに理解する事にした。


ジューダスの集落は500人ばかりで成り立っていて、そのすぐ側には森や荒野が広がっている。わずかばかりの畑よりもむしろ、山裾に広がっている森からの恩恵の方が大きいくらいだ。森では様々な薬草や皮革、そして巣食う魔物たちからは魔石が得られる。そして何よりレニオール大公国との国境が近いせいで、公国からの旅人の宿泊で得られるゴールドも馬鹿にはできない。中には、公国側の冒険者ギルドから遠征して来る者もいる。


長年、ジューダスにも冒険者ギルドを建ててほしいと王国に願い出てはいるのだが、許可は一向に下りなかった。


さて神殿でやる事を終えたティアは、公国への街道を行き、途中でコモロの家に向かって曲がる。

何故か、周囲の様子が違うように感じられるのは気のせいだろうか。いつもより、集落がざわめいているような気がする。


もしもティアが、長年ここに住む人間であったのならあるいは気付いたかもしれない。だが、彼女が父の命を受けて回復魔法の修行をする為に、ここに来たのは半年ばかり前で、神殿に来る手伝いの農民を数人知っている他には、話をする人間もほとんどいなかった。


「マユミ様、ティアです! 」


「あらあら、まあ。」


そして事情は、バンドーの方も似たり寄ったりであった。彼もまた、ここに転生して来てから日が浅い。ケインの記憶によると遊び仲間の友人が数名いる筈なのだが、中身が24歳のバンドーには子供と遊ぶ気など元から無い。


「可愛いだろ? 」


バンドーはカササギと戯れていた。昨日の夜はトレイシーさんの傍らで眠っていた訳で、コモロの家に来た事も覚えてはいない。朝、目を覚まして大泣きされたもので、ここまであやすのに一苦労だったのだ。


「どうしたのですか? 」


「昨日の夜、父上の昔の知り合いが連れて来たんだ。名前はカササギ、だよな? 」


「カササギはー、鳥の名前です! 」


どうやら、それが自慢らしい。名付け親が鳥好きだったのだろうか。年齢は5歳らしい。


「お前も死んでこっちに来たんだよなー。お父さんとか、いなかったのか? 」


「・・知らない! 」


あ、機嫌が悪くなった。これは聞かない方がよかったやつか。


「カササギ、俺な。お前の歌知ってるぜ?! 」


「歌? 」


「ああ、言うぞ? 『かささぎの 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける』・・」


「カササギ、それ知ってる! 」


思いもしなかった返しだ。自分で言っておいてなんだが。


「それカルタにあるやつ! カササギ得意。」


どうやら本当に知っているようだな。カササギが言う通り、この歌は百人一首に出てくる中納言家持の歌だ。バンドーが子供の頃は百人一首で遊ぶ事もあったのだが、最近の子は知らないものだと思っていた。


「呪文みたいですね、それ・・。」


ティアも笑っている。


「ティア姉さん、今日はちょっと頼みごとがあるんだ。」


「何ですか? 」


「ティア姉さんは、魔法が使えるんだよな? 俺に教えてくれないかな? 親父の書庫の本をいろいろ見たんだけど、どうしてもうまくいかないんだ。」


ティアは腕を組んで少し考え込む。ティア自身は、位階魔法は今のところ第1位階だけ覚えている。後は回復魔法のヒールが使える。


「これを持ってみてください。」


ティアがバンドーに投げてよこしたのは、ビー玉より少し大きいくらいの透明な水晶の球だった。


「それを持って、体内の魔力を流し込むような感じで・・・えっ? 」


バンドーがそれを握り、何やら念じる風にしてから手を広げると、透明だった水晶が真っ黒な球になっている。


「ええええええっ?! 」


「これでいいのか? 」


逆にティアに投げて返された、その球をティアは慌てて受け取り、光にかざして見る。


「嘘・・? 魔力が全部抜けてる・・。壊れているのかしら? 」


試みに、ティアが握りしめ、魔力を加えてみる。すると真っ黒だった球はやがて透明になり、そして今度はきらきらと輝き始める。


「壊れて・・ない。」


ティアが持っている、その球は、体内の魔力を大まかに測るアイテム。魔法使いの素養があるかどうかを適当に測る事ができるものだ。正確な数値は出ないので、子供のおもちゃと言っていいレベルなのだが。


「カササギもやるー。」


「そう? ちょっと待ってね。」


ティアは球をリセットするために両手のひらでゴシゴシとこする。こうしていると、リセット状態である透明な色に球がもどる。空にかざし、透明になった事を確かめてから、カササギに渡してやる。


「はい。」


カササギは、うれしそうに球を掴むと、


「うー、えい! えい! 」


と掛け声をかけながら片手に持って、球を振っている。散々時間をかけて片手を振り回した後、はいと言って手を広げた。


球はまぶしいばかりにキラキラに輝いていた。


「すっごーい! カササギちゃんは、魔法の才能がたくさんありますね! 」


「やったー! 」


「お、俺は?! 」


「ケイン君は、呪われているから全くありません! 」


「はあ?! 」


「ケイン君は、やっぱり呪われています! 魔法の球が真っ黒になるだなんて、私そんな人、見た事がありません! 」


ひどい言われようである。バンドーは口を引きつらせて反論しようとするが、反論のしようが無い。


魔法の球が真っ黒な石になるという事は、元から持ってる魔法の球の魔力まで無くなったという事になる。魔力ゼロどころか、バンドーに吸い取られたのだ。ティアにはそこまでは判らなかったが、感覚的に判る。


「ケイン君に、魔法の才能は無いです。見た事も無いくらい才能が無いって事ですね! 」


そう言いきられてしまう。バンドーは地面に手を付いて落ち込んでいる。


「そんな・・。」


「まあでも、それでは可哀想ですから私が組み手の相手なら、してあげますよ? 」


くっ、10歳の女の子に情けをかけられるとは。俺は、俺はぁ!


「・・俺、剣術の稽古してくるー! 」


バンドーは逃げた。


「くそっ、くっそー。」


父、ガウガメラと昔やった稽古を記憶から思い出しながら、父の両手剣を振り続ける。


「あらあら、まあ・・。」


それをマユミは嬉しそうに見ているのだった。


































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