知らない人達
話は半日ほど遡る。
(思ったより、遅くなっちゃった・・。)
ティアはコモロの家を辞した。神殿に帰る途中、ふと鳥の鳴き声を聞いて空を見る。待っていたかのように、彼女の肩に一羽のフクロウが舞い降りた。
「ビューロー! 帰ってきたのね。」
ビューローと呼ばれたフクロウは灰色に白の羽根をやや伸ばしてから、大きな目玉をぎょろつかせた。
「あら、伝書ね? 」
ビューローの足に結わえ付けられた手紙を広げると、赤い花押が目を引く。ヒナゲシを象った花押は、お爺様からのものだった。
「ふーん、最近物騒だから気を付けろだって。近々寄るかもしれないとも書かれてあるわ・・。」
フクロウのビューローに知らせるかのように、ティアはそうつぶやく。
「ありがとう、ビューロー。」
ティアが手紙を読み終えたのを確認したかのように、ビューローはティアの肩から飛び立つ。上空を2周3周して、森の方に飛び去って行った。
ジューダス神殿に戻ると、何やら騒がしい。いつもは見ない顔が出入りしている。
「王国騎士かしら? 」
それにしては、装備が貧弱な気がする。ティアはゼフィリヌスを探し、神殿奥の拝段で彼をみつけると、帰還の挨拶をする。
「ゼフィリヌス様! ティア、ただいま戻りました! あっ。」
見るとゼフィリヌスは誰かと話し中、相手は身長170センチくらいの流麗な顔立ちをした男で、薄紫のブラウスに白くて横にふくらんだパンツをはいている。どうやら、貴族のようだ。
「それでは、私はこれにて・・。」
ゼフィリヌスと話していた男は、踵を返すと拝段前から立ち去る。
「ゼフィリヌス様! ティア、ただいま戻りました! 」
「帰ったか、ティアよ。そうだ、コモロのとこの坊主の様子はどうだ? 」
「はい、もうすっかり良いようです。」
「・・そうか、それではコモロの家は外さねばならんな・・。」
「はい? 」
「・・何、こちらの事だ。」
「ゼフィリヌス様、先程の方はどなた様ですか? 」
「ん? ああ、彼は王国の特務官でな。まあ、気にしなくてよいぞ。」
ゼフィリヌス様に、そう言われては、ティアもそれ以上聞く事は出来ない。彼女は、与えられている部屋に戻ろうと、拝段に一礼する。
「おっ、ティアお嬢じゃねーか。元気にしてるかい? 」
部屋に行く途中、不意に声を掛けられた。見ると、ゼノ式の門弟だった男がハーフプレートに身を包んで立っていた。
「あら、お久しぶりですね。リノさんでしたっけ? 」
ゼノ式格闘術の総本山である『月下桃華の峰』で修行していた事もある、その男の名前を思い出し、ティアはついでに聞いてみる。
「こんな辺境の地にまで、任務ですか? 今はどうされているのですか? 」
「おうよ、今は内務省の治安部隊で働いてるんだけどよ。俺も、こんな所まで派遣されるとは、思ってもみなかったぜ! 」
「・・内務省の・・。」
とは言いながらも、ティアはよく判っていない。
「何か、争い事でもあるのですか? 」
「俺も、よくは知らねーな。ただ、護送車持ってきてるからよ。囚人でも移送するんじゃねーの? 」
「そうですか。」
最近、何か犯罪でも起こっただろうか? ティアは知らない。
「しばらくいるみたいだから、またな! 」
リノは忙し気に去って行く。
(むー。)
何か胸の中がもやもやする。ティアは部屋に戻ると窓を開け放ち、バックパックから小笛を取り出すと吹き鳴らした。しばらくすると、ビューローが現れて、窓の側に降り立った。
「ビューロー、お爺様にお返事です。」
手紙の中身は、割と取り留めもない。リノにあった事、看病していたケインが元気になった事、王国の治安部隊が来ている事などだ。考えても判らない事を吐き出したかっただけである。
クルックーッ!
一声叫ぶと、ビューローは大空に飛び立っていく。
そろそろ、食事の準備を手伝わなければいけない。神殿とはいえ、ここは辺境の地。ゼフィリヌスとティア以外は、実は誰もいない。ジューダスの農民が2~3人、毎日手伝いに来てくれている。
「今日は疲れました。」
ケインとの格闘を思い出し、ティアはそっとつぶやいていた。意外なほどに、彼は力が強かった。もしもティアがゼノ式に長じていなければ、あっさり組み伏せられていたかもしれない。
「今夜は早く寝ましょう。」
そして朝早く起きて、午前中には修行を終わらせてコモロの家に行けるようにしようと、彼女は思うのだった。




