夜の来訪者
C'est la vie
Commandant Teste の小ネタ がいい。気に入りました。どこかで使えないかなー?
「セ・ラヴィ? 」 いいよね。
コモロの家を含む集落に住む家族は、およそ500戸余り。辺境にしては多いかもしれない。コモロ家は丘の上にあるので、比較的集落を見通す事ができる。
「火事だよな・・? 」
集落の家は木造がほとんどで、石造りは神殿くらい。火事となると火の回りも早いだろう。
バンドーは反射的に剣を探していた。ケインの記憶と知識の中に、たまに盗賊や隣国からの嫌がらせを目的とした派兵がある事を確認したからだ。
「確か、書庫の壁にあったよな? 」
生前、ガウガメラとケインは、よく剣の稽古をしていたらしい。書庫の壁には、今は亡きガウガメラの剣と、ケインの子供用の練習剣が交差するように、掛けられてあった。
バンドーは迷わず、ガウガメラの剣を取る。どうやら体力は成人並みにある事を確認していたし、練習用のケインの剣は刃引きがしてあり、武器としては役に立たなそうだと判断したからだ。
ガウガメラの両手剣を手に持ち、少し構えてみるが、さすがに大きい。というか、6歳のバンドーの身体にアンバランスな事、この上ない。だが、今のバンドーの体力をもってすれば、どうやら扱えない事もない。
炎を確認する事ができる窓際に戻ると、今一度、遠くに見える炎の様子を確認する。どうやら、敵の襲撃とかではなく、本当に火事のようだ。
カーン カーン カーン と、今更ながらに火事を知らせる半鐘が鳴っている。
まあ、バンドー自身、半鐘の鐘の音を聞いた事が無いので、それが半鐘かどうかまでは、判断が付かないのだが。
だが、バンドーがいる家からはかなり離れているので、こちらにまで炎がくるようには見えない。
「驚いたけど、大丈夫そうだな・・? 」
バンドーはベッドに両手剣を立てかけると、そのままごろりと横になった。
「まあ、・・・寝るか・・? 」
ダン ダン ダン ダン!
不意に扉を叩く音が響いた。
「あっ?! 」
飛び起きて、剣に手をかける。
ダン ダン ダン ダン!
聞き間違いではない。誰かが、コモロの家の玄関の扉を叩いている。バンドーは剣を掴むと部屋を飛び出し、玄関に向かう。
ダン ダン ダン ダン!
「ガウガメラ殿は、ご在宅だろうか?! 」
今度は声もした。どうやら女性の声。
「夜分に済まない。私はトレイシー、ここを開けてはもらえぬだろうか?! 」
素早く、ケインの記憶を探ってみるが、トレイシーという名前に心当たりはないようだ。
「ケイン君? どうしたのかしら・・? 」
どうやら、母上も起きてきたようだ。ちなみに母上は恐ろしく、寝覚めが悪い。朝も、なかなか起きてこない。
「こんな夜中に、誰かしら・・? 」
「母上、トレイシーという方は、ご存知ですか? 」
「トレイシー・・。」
ダン ダン ダン ダン!
又、扉が叩かれた。
「ガウガメラ殿! トレイシー・アルメイラです。ここを開けていただけないでしょうか?! 」
ぼーっとしていた母上の瞳に、何やら光が戻る。
「あらあら、まあ。ケイン、お通しして・・? 」
開け放たれた扉の向こうには、ハーフプレートに身を包んだ長身のエルフの女性が立っていた。背中には女の子を一人、背負っている。
「かたじけない! 」
挨拶もそこそこに、トレイシーを客間に案内し、燭台に火を点けた。
「ケイン、この方はね。私がこの世界に来た時にお世話になったの。保護していただいたのよ? 」
王国の騎士団「闇夜の黒兎」の一員で、当時はガウガメラも同じ騎士団にいたらしい。たまたまジューダスに哨戒に出ていた時に、召喚されてきた母上をみつけ、保護したのだとか。
「・・しかし、まさかガウガメラ殿が身まかっていたとは。病気とは聞いていましたが・・。」
母上は何も答えない。まだ気持ちを整理できていないのかもしれない。
「・・その、マユミ殿に、このような事をお願いするのは心苦しいのだが、この娘をしばらく預かってはもらえないだろうか。」
トレイシーの傍らで眠っている女の子。多分、今のバンドーよりも1歳か2歳下だろうか?
「名前をカササギと言う。召喚されし者なのだが・・」
「まあ・・。」
マユミは小さく声をあげると、眠っている女の子に手を伸ばし、抱き寄せた。
「この子は、いったいどうしてここに来たのかしら・・? 」
「・・マユミ殿、『召喚者狩り』の噂はご存じだろうか? 」
なんだ、それは? 母上も目を見開いて、驚いている。
「実は最近、王宮内で政策の違いから勢力争いがあってな。私の所属する武断派は今までのように冒険者として召喚者を受け入れようと考えているのだが・・・・」
トレイシーは、どうやって説明しようか、あるいは言葉を選んでいるのか、少し間を置いた。
「内務省などの治世派は、冒険者を奴隷として扱おうとしている。召喚者を、無限に湧く労働力に過ぎないと考え、見つけ次第捕えて、奴隷に落とそうと言うのだ。」
「そんな事って・・? 」
バンドーも思わず絶句する。
「まあ、まだ公式に決まった訳ではないのだが、治世派の派閥の一部は、既に動き出しているようだ。」
それで、この娘を保護してやってほしいとトレイシーは言う。
「冒険者ギルドに駆けこんで、いち早く登録できれば彼らも手は出せぬかもしれぬのだが、生憎ジューダスには冒険者ギルドはない。私が王都辺りまで連れていければよいのだが、生憎任務中でな。これから、公国国境まで出かけねばならないのだ。」
国境までの通りすがりに、ジューダスで偶然カササギを保護したらしい。それで、ここに連れてきたと。
「・・娘が欲しかったの。ちょうど、いいわ? 」
「かたじけない! 」
トレイシーは夜明けを待たずに、コモロの家を出ると言う。夜のうちに、宿に戻っておきたいらしい。
「ケイン君か? これはガウガメラ殿の剣だな。」
「あっ。」
そう言えば、父上の剣を持ったままだった。
「マユミ殿を守ってやってくれ。頼んだぞ? 」
そう言って、彼女は去って行ったのだった。
記憶のいい人が、いるようですね。そうです君です!




