後始末
いやー、章間ってなんですかね、一体。
バンドーは自宅のベッドの上で目を覚ました。何故か自分の膝の上でカスミが眠っている。
「ああ? ・・痛っ・・ここは? 俺ん家か? 」
多分1階の客間だ。何故か身体中が痛い。
「おい、カスミ。カスミ? 」
カスミの身体を揺さぶり起こす。
「んん・・? 」
カスミは半身を起こすと目をこすり、
「あっ、バンドーさん。おはよーございます。あっ・・。」
バンドーは上半身裸だった。その鍛えられた肉体を見て、カスミは頬を染める。
「わ、私、みんなに知らせてきますね? 」
パタパタと足音を立てて、カスミは部屋から出ていく。
バンドーは大きく息を吐き、
「何だが・・まだ夢の中にいるような気持ちだぜ・・。」
カンタナ高原のサムニウム族宿営地で暴れまわった記憶が微かにある。あれから、どれくらいたっているのだろうか。ふと、窓の外を見ると、庭でフィーネとアメリアが剣の稽古をしている。フィーネがアメリアに切りかかり、アメリアがそれをさばいていた。
「フィーネ、・・あいつ騎士とか言ってたけど、本当に剣が使えんのか・・。」
よく見ると、剣の形をした杖のようにも見える。何故か先端が小さく丸くなっている。バンドーは知らなかったが、それは騎乗短杖と呼ばれる武器である。魔法使いが馬に乗って詠唱を可能にするためのもの、と言えば判りやすいか。
バンドーは側にあった肌着に手を通し、部屋を出て食堂に向かう。食堂にはユメがいて、バンドーを見るなり手を振った。
「バンドーさん? ちょうどよかったわ。ギルマスがバンドー連れて来いて、うるそうて、かなわんねん。」
「レイ教授か? ほっとけ。」
「えっ? 」
もう充分働いた。そんな気でいっぱいである、今は。
「・・わーかったよ。それより、腹が減ってるんだ。何かねーかな? 食ったら考えるよ・・。」
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サムニウム族の姫、イルミダ・リンデン・サカエは虜になった。カンタナ高原でバンドーに首筋を掴まれ、気を失っていたところをカトルの『紅蓮』が確保したのだ。今はデスパレス冒険者ギルドの地下に幽閉されていた。
本来なら、王国に突き出して処刑されてもおかしくはない。だが、ギルドマスター・レイは躊躇した。
(なんじゃ、これは? )
レイの持つスキル、”深淵を探求するもの”はスキル鑑定にも使える。彼が捕虜となったイルミダを鑑定した結果は驚くべきものだった。
”前世知識”
”戦略眼”
”部隊指揮”
”魔力増大”
”深淵を探求するもの”
”絶対魔法障壁”
”大魔導師の末裔”
”魔力回復強”
”イルミタニアの申し子”
まだまだある。そのくせ、どうやら魔法を一つも覚えていないようだ。
(こやつ、・・魔法の才能の塊じゃの・・。手元に置きたいが、さて・・)
実は、イルミダが所持する魔法系スキルの大部分は、『ゴルツの鏡』が割れた際に、戻る宿主がいなくて行き場を失ったスキルの一部が、鏡の持ち主であるイルミダの身体の中に飛び込んだせいなのだが、この時点ではレイには判断がつかない。
デスパレス冒険者ギルドの地下の、ここは牢獄である。本来は犯罪者を収監するべき所。そこでイルミダは両手を壁に鎖でつながれている。
「よおっ、レイ教授。来たぜ? 」
バンドーが階段を降りてきてレイに声を掛けた。
「何やってんだ? 尋問か? 」
今、この場にはレイとバンドーとカトルの3人がいる。他にいたものは、レイが退出させた。
「バンドー、待っておったぞ。さて、サムニウム族の女よ。経緯を確認するぞい。」
両手を壁に鎖で繋がれてはいるが、イルミダの口は封じられていない。抵抗する様子はない。むしろ、魂が抜けたかのように、ぼぉーっとしている感じだ。
「まずは聞く。お主は誰じゃ? 何者で、サムニウム族で、どのような地位にいた? 」
バンドーとカトルが呼ばれたのは、現場にいた人間だから。尋問して回答を得た場合、それが本当の事なのか、確認したり意見を聞いたりするためである。
「・・私はサムニウム族の姫、名前はイルミダ・リンデン・サカエと言います。歳は18歳。部族を統率する立場にありました・・。」
バンドーにはおよそ、予想された答えであったが、レイはやや驚いた感じだ。芝居かもしれないが。
レイは更に続ける。
「此度のサムニウム族、蜂起は、お主の指揮によるもの、相違ないか? 」
「・・サムニウム族は私の指揮下にありました。それは間違いありません・・。」
「ふむ、目的は何であった? 」
「・・迷宮デスパレスの入り口を破壊し、迷宮を閉じる事にありました・・。」
拍子抜けするほど、あっさりとイルミダは答えた。その後も尋問は続き、戦闘の経過をたどる。冒険者たちの奇襲から、バンドーの特攻、そして陣地の占拠に続き、攻城兵器の投入。そしてバンドーとティアが捉われた辺りまでを確認し、話はバンドーとオンゴロの血闘にまで続く。
「・・お前は! 一体、何ですか?! 魔法に頼るデスパレスの冒険者が、魔法スキルを封じられて、何故強大な魔力を振るえるのです?! 」
サムニウム族の敗走に話が至ったところで、イルミダは突然、繋がれた鎖を揺らしながら、バンドーに食って掛かる。
(ここじゃな・・。)
レイ・クリサリス・バーサクが密やかに微笑んだ。バンドーもカトルもイルミダの様子に気を取られて、気付いてはいない。レイは、ここぞとばかりにイルミダに問い返す。
「お主は! 気付いておったじゃろ? バンドーの特異さに。気付いておった筈じゃ。それ故、血闘などというものを、持ち出したのではないのか? ん? 」
イルミダがバンドーに向けていた視線が、急速に光を失う。彼女は何かを考え込んでいる。
「・・確かに、この者からは魔力を感じられませんでした。まるでサムニウム族のようだと、私は・・」
バンドーも、あの時の会話を思い出していた。
『ふーん、面白いわね。デスパレスの冒険者。お前はまるで、サムニウム族のよう・・。でも残念。』
確かに、この女はそう言っていた。
「この男、バンドーはの。サムニウム族の神の使いなのじゃ! お主は気付いておったのに、それを疑ったのじゃ!! 」
「何ですって?! 」
レイが芝居がかった大声で、バンドーを指し示す。
「はぁぁぁぁぁ?! 」
バンドーが固まっているが、レイは気にしない。
「この男は生まれながらに魔力を持っておらぬ! じゃのに魔法攻撃、吹きすさぶ迷宮デスパレスに挑戦し、50階層まで一人で降りて生還する! まさにサムニウム族を体現したかのような申し子! 」
カトルが、何かを察した様にポンと片手を付いた。
「そうです! バンドーさんこそ古の変態! じ、じゃない保有魔力ゼロの戦士です! 」
一体、何が始まるんですかね? バンドーは口を開けてイルミダとレイを見ている。
「それを! 貴様は疑い、あろう事か『ゴルツの鏡』で魔法系スキルを封じるなどと、サムニウム族の神を冒涜し、汚したのじゃ! 神は怒り! お主達から秘宝を奪い去ったのじゃ!! 」
「あっあっ、・・・・わ、私がサムニウム族の神を・・? まさか、そんな私が・・? 」
「神を疑った罰が下ったのじゃ!! サムニウム族の姫よ、お主にも罰が必要じゃ! 手を出せ!! 」
とは言っても、イルミダの両手は鎖につながれたままである。レイがバンドーに近寄り、イルミダに聞こえぬようにささやく。
「お主が持っとる第1位階の魔法をイルミダに授けるのじゃ。早うせい。」
何が何だか判らぬままに、バンドーは鎖で繋がれたイルミダの右手のひらに自分の手を合わせる。
『イルミダはリアクティブアーマーの呪文を憶えた。』
『イルミダはライトの呪文を憶えた』
「ああああああああ!! やめろ!! やめてぇ・・。あっあっあっ・・・・」
サムニウム族にとって、魔法を憶える事など禁忌。まさにサムニウム族の神の知識を冒涜する所業である。
「もはやお主は、サムニウム族の姫でも何でもない。ただの薄汚れた魔法使いよ! しかも種族の秘宝である『ゴルツの鏡』を割ってしまうなど、言語道断! 許される事ではないわい! サムニウム族の神を冒涜した事を悔いて一生、懺悔するのじゃ!! 」
ちなみに、レイにとっても残念至極。魔法スキルを封じる鏡など、魔法の深淵を探求する者にとっては、喉から手が出るほど欲しい逸品である。
(・・それを割ってしまいおってからに・・。)
もはや、イルミダ・リンデン・サカエには喋る気力も残されていない。うなだれ、涙を流している。
(・・部族の秘宝を失い・・魔法使いに・・私が・・一生・・ううっ・・)
レイが、そこでイルミダを鎖から解き放つ。彼女はがっくりと手を床に付け、泣きじゃくっている。
「罰じゃ! 一生をかけて償うがよい。この男の元での! 」
レイが指差す、その先はもちろんバンドーである。
「なっ? 教授、頭おかしいんじゃねーか? こいつはサムニウム族の姫なんだろ? どう考えたって王国に突き出すのが筋・・て、うぉ?! 」
「バンドー様!!! お許しください! 私が、私が間違っておりました! 」
バンドーの足元にイルミダがすがりついている。これは、この流れは?
「バンドーよ、幸い、今回の戦いに王国は嚙んでおらん。ドッガーズには適当に言っておくが故、頼んだぞい。」
(くっ・・・・、またレイ教授にはめられた!! )
「バンドーさん、お姫様二人目ですね! 尊敬しちゃいます! いやー、すごいなー(棒 」
カトルが笑いを嚙み殺している。
こうして、バンドーの家に又、居候が増えたのであった。
本編より、章と章の間の方が面白いと某に言われた。うるさいやい。




