決着
ちょいカット
カンタナ高原を望む高地にカトル達『紅蓮』は撤退していた。出撃前にティア達がいた場所。
「どうやら、バンドーさんとティアさんが拘束されたようですね・・。」
スキル『千里眼』持ちのカトルには見える。例え2キロ離れていても見える。
「リーダー、再突入するの?」
傍らから月下カササギが声を掛けるが、カトルは首を振った。
「パーティリーダーとして最優先されるのは、メンバーの安全です。例えバンドーさんの身が危なくても、勝てる見込みが少ない戦いにあなた達を巻き込む訳にはいきません。」
そう言いながらも、メンバーに待機を命じる。
「ここでしばらく様子を見ます。あなた達は休んでいてください。」
「リーダー! 」
「カササギちゃん、判ってますよ。チャンスはきっとありますから。」
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身体から何かが抜けた。
「あ、あっ?! 」
バンドーは拘束を解かれた。
サムニウム族の秘宝『ゴルツの鏡』の照射を浴び、足元に錆びた剣を投げられる。
「慈悲をやろう。立て、デスパレスの冒険者。」
バンドーは答えない。左手を額に、そして右手を軽く握ったり開いたりする。
(・・なんだ、これは? )
「どうした、立て? 」
跪かされていたいた状態からは解放されている。足元がふらつく。
(・・奴ら、一体何をしやがった? )
言うまでもない。『魔力分解』が発動しない。『魔力吸収』も。
バンドーは足元に落ちる錆びた剣を蹴り、遠くにやる。
「・・痛ぅ、・・・いらねぇ。」
「ふん、慈悲はいらぬか。ならば始めるぞ、血闘を! 」
男が両手剣を構える。
「どうした? 何を呆けている? 女が苦しんでいるぞ? 」
そうだ、ティア? ティアは口に布を噛まされて詠唱を封じられ、両手を後ろ手に縛られている。そしてティアの細長く傷ひとつなかった太ももには今、魔力を吸い尽くすべく魔精虫が蠢いている。
「・・くっ! 」
男との距離は4メートルばかり、だがバンドーはまだ動かない。周りを囲むサムニウム族の兵士達が鬨の声を上げる。それに突き動かされるように、男は武技を放った。
「 『強振地斬』! 」
大上段から振りかぶって、振り下ろされた両手剣から、バンドーに向かって一直線に衝撃波が走る。強大だが、直線的な攻撃故に、バンドーは左周りの円の動きで躱すと軽くバックブローを放つ。そう、文字通り放った。右手の弧の動きに気が乗り、さらにそれに魔力を上乗せされると半円状に射出された。
「なっ・?! 」
半月状のその攻撃は男の右頬をかすめると、後方のサムニウム兵にまで到達し、爆散した。
(やはり・・、こいつは魔力だ・・。身体の中から魔力が湧いてきてやがる・・。)
男を驚愕させる攻撃を放ったにもかかわらず、バンドーは自分の右手を見ている。
(こいつは、・・・・師匠並みだぜ・・。どうなってんだ? )
本来のゼノ式格闘術は、身体に気を纏い、攻撃に気と魔力を込めて撃ち出す。バンドーのそれは、今まで気だけを乗せて戦っていた。乗せる魔力が無かったからなのだが、使い方は知っている。山で嫌というほど訓練したのだ。血反吐を吐く程度には。
「何処を見ている?! 」
男が突っかかってきた。バンドーは引くどころか逆に飛足を発動する。
(・・ゼノ式のスキルは残ってやがる、何でだ? )
そう考えるのも一瞬の事、今までの3倍以上のスピードで加速すると敵の脇を抜け、右肩を押して回転させると、攻撃もせず背中を押し出した。
「うぉぉぉ?! 」
男はバンドーの動きに反応できず、バランスを崩されて前のめりに飛ばされ、手を付く。
(面白れぇ! こいつは今までで最高だ! 誰にも負ける気がしねぇ! )
「はぁぁぁっ!! 」
立ち上がった男を見るなり、右回し蹴りから右下方掃脚の連続技、更に身体を半回転させ破邪の掌底を繰り出した。その全ての攻撃が気の力に魔力を乗せて実体化し、遠距離攻撃と化して男に襲い掛かる。
「まだだぁ! 」
そこから飛足で加速、さらに今度こそ至近距離からの破邪の掌底を男の胸元にぶち込んだ。
「ぐぁぁああ?!! 」
男は硬化系スキルで防御はしたものの、そのまま後方へ数メートル負っ飛ばされた。
「な、何なの、あいつは? 」
負っ飛ばされたオンゴロをイルミダの視線が追いかける。
「・・馬鹿な、デスパレスの冒険者が魔法スキルを封じられているのにそんな何故? しかもあれは魔力攻撃? 」
イルミダは驚愕し、右手を上げる。銃兵2列が近寄ってくる。バンドーを指し示そうとして、動きが止まる。
バンドーの様子がおかしかった。両手を頭に当てて、身体をゆらゆら揺らしている。
(ぐぅぅぅ? ・・何だこりゃ? )
頭が割れるように痛い、視界がゆがむ。バンドーには判らなかったが、それは魔力酔いだった。ただでさえ慣れない魔力が、それも止めどなく身体の中からあふれてきている事に、身体が順応しきれていないのだ。
「あああっ!! 何だ、こりゃぁぁぁぁぁぁ!! 」
彼は叫んで、手を横にないだ。途端、それに魔力が乗り攻撃と化す。無意識にゼノ式を放ってしまったのだ。
辺りを砂煙が覆う。
「がぁぁぁぁぁぁ!!! 」
バンドーは叫ぶなり、敵兵の中に飛び込んでいく。まるで台風が人間の群れに飛び込んでいくかの如く、荒れ狂う。宿営地内まさに阿鼻叫喚である。
「くっ! 正気を失っている?! 銃兵、彼を撃ちなさい! 撃って! 」
タンタンタンタン! 周囲にサムニウム兵がいるのにもかかわらず、いくつかの銃弾がバンドーに向けて放たれた。だが、バンドーには全く効いていない。魔力による無意識の魔法障壁と、極限にまで効果を現わしている硬化スキルが銃弾を跳ね返す。
「何? 何なのこれは? 構わないわ! もう一度、撃って!! 」
再度放たれる銃弾。だが、バンドーには全く効かない。
「くっ! 止まりなさい! デスパレスの冒険者! 止まらなければ仲間を殺します! 」
バンドーの動きが止まり、サムニウムの姫、イルミダ・リンデン・サカエの方を見る。右手で頭を押さえ、左手を伸ばす。その瞬間だった、いつの間にか至近距離にバンドーが達している。スキル飛足を使ったのだろう。そしてバンドーの左手がイルミダの首を掴んだ。
「きゃっ! あっあああっ・・・・!!! 」
イルミダが胸に抱えていたサムニウム族の秘宝、『ゴルツの鏡』別名、『スキル封じの鏡』がその手を離れて落下し、地面に達して音を立てて砕け散った。
その瞬間、数えられない程の幾筋もの光の帯が上空に舞い飛ぶ。それを見たサムニウム族たちが悲鳴を上げている。
光の帯は上空に達し、渦巻くように回転してからあちこちに飛んでいく。封じられていたスキルが、元の宿主達に戻ろうとしているのだ。バンドーの身体にも、二つの光の帯が飛び込む。瞬間、バンドーは痙攣を起こして左手を姫の首筋から放す。
「がぁぁぁぁ、あ?! 」
『ゴルツの鏡』に一旦封じられたバンドーのスキルが元に戻る。
魔力を帯びて光を放っていたバンドーの身体は震え、光が弾け飛ぶ。他の多くのサムニウム族の身体にも、光の帯が戻っていく。ティアにも。
「おおおおおおおおお?! 」
「神がお怒りだぁぁぁ!! 」
「うぁぁぁぁあ?! 」
ただでさえ混乱していたサムニウム族達に、魔法系スキルが戻ってしまった者達の絶望の声が拍車をかけた。彼らは、何と武器を放り出してデッドウィン山脈方面に雪崩を打って逃走し始めた。その後を追う者の流れが止まらない。
「ぐっ、うう・・・あっ? 」
わずかに正気を取り戻したバンドーは、だが今まで感じた事がないほどの虚脱感を感じていた。
「・・・くっそ、ティアは? 」
まだ方向感覚がおかしい。
「ティア・・? 」
ようやく視界内に認め、足を引きずるようにして近付くと、吸い付いている魔精虫を気を込めて握りつぶす。
「くっ・・、ティア大丈夫か? 」
噛まされていた布を外すと、頬に手を当てて、はたく。
「ティア、ティア? 」
「・・ケイン君、し、信じてた・・。」
何だか目が虚ろだ。顔を真っ赤に紅潮させ、息が荒い。魔精虫に魔力を吸われていた影響かもしれない。吸われた者は、一種の興奮状態に陥る。
取りあえず縛られていた両手を解放し、抱き寄せる。
「ティア? 魔力はまだ残ってるか・・? くそっ、駄目か。」
ティアは陶然とした顔をバンドーの胸にうずめている。
「・・ここで、死んじゃえばよかったわ、あたし・・。」
何を言ってるんだ、こいつは。
「おい、ティアしっかりしろ! ティア?! 」
ティアが手を伸ばし、バンドーのあごに手を当てると自分から顔を近づけていく。
コォォォォォォォ!
ゲートの音が聞こえ、『紅蓮』の面子が走り寄ってきた。こいつら、見ていたな? 多分カトルの千里眼だろう。
「はーい、そこまでですよー!! 」
何がそこまでなのかは判らない。
プォォォォォォォォ!
あれは? 遠く聞こえるのは王国の角笛の響きだ。カトルが音のする方に視線をやり、スキルを発動させるとつぶやく。
「王国の近衛騎士隊ですね。恐らく、少数の騎兵が輜重を切り離して先行していたのでしょう。」
「・・・そうか。」
「サムニウム族の部隊は崩壊、遁走しています。追撃に最適のタイミングですね。」
不意に甲高い音が上空から聞こえる。見上げると、アラカンだ。フィーネ姫も来たようだ。
「バンドー様ぁ?! 」
フィーネの声が風魔法に乗せて降ってくる。もう大丈夫だろう、そう確信すると、バンドーは意識を手放した。
サムニウム族襲来 編 おわり




