虜
ちょっとだけ、カット
バンドー達が菱形陣地のひとつを占拠し、その周りにストーンウォールの魔法で石壁を立てて封鎖して4時間ばかりが過ぎた。時折り、散発的に銃弾が撃ち込まれるが、こちらは石壁の中だ。魔法攻撃用に壁にいくつかの穴は開けてある。被害は有るには有るが、
「負傷者出たわ、回復魔法頂戴! 」
これで、事足りた。万が一、重傷を負ったとしても、ヘッドショットでもされない限り、ゲートでデスパレスに後送すればよいのだ。
「まあ、特別任務の自由戦闘は今日までだし、楽勝じゃないかしら? 」
敵の銃兵が撃ちかけてきたら、こちらも魔法で応射する。向こうは壁無し、こちらは壁有りでは撃ち負ける事も無い。何人かの敵兵を魔法で片付けながら、ティアがそう言ったのも無理のない事だった。
この時点までは。
「バンドーさん、敵陣地に何か立ちましたよ? 」
『紅蓮』のカトルが声を掛けてくる。見ると確かに、木の櫓のようなものが見える。でかい岩を吊り上げている。
「何だ、ありゃ? 」
その岩が徐々に上がっていき、その後、急速に下に落とされる。瞬間、背後からしなるように腕が持ち上がり、何かが上空高くに放り投げられる。
「まじか?! 」
7~8個の、人間の頭ほどの石がバンドー達が籠っている菱形陣地の上空にばらまかれた。予想もしなかった攻撃に、数人が負傷する。
「あっちにもある! 」
誰かが壁の穴を覗いて、指差している。見ると3基ほどの投石機が立てられているようだ。
2射、3射と続けざまに、バンドー達が籠る菱形陣地上空に複数の石がばらまかれ、内部に着弾した。あちこちで悲鳴が上がる。
「石が飛んでくる方の壁に寄れ! 」
作業中だった者も悲鳴を上げて壁際による。そこへ、今度は全方位から矢の雨が降ってくる。
「きゃああ! 」
見ると長盾を持っていた者たちがいつの間にか弓矢を装備し、周囲から高角度で矢を撃ち上げている。山岳育ちのサムニウム族にとって、弓はお手の物。戦士は全員、狩りの経験がある。
「くっ! 逃げ場が無ぇ! 」
周囲を壁で囲まれているために、外に出る事も出来ない。
「撤退です! 『紅蓮』メンバー集合! カササギちゃん? 高地へのゲートをお願い! 」
カトルが杖を振っている。反応が早い。戦闘はパーティ単位であり、行動は基本自由。こういう時の判断が冒険者の運命を分ける。
ズン!!
壁が揺れた。いつの間に近づいたのか、バリスタが丸太を射出して壁にぶつけている。普通はごつい弓を放つものだが、攻城戦時はこういう使い方もできるのだ。
『紅蓮』のゲートが開く頃には、参集していたパーティのほとんどが撤退を決めていた。
「 『星屑の光』も撤退するわ! ヒミカ? ゲートお願い。」
集まってきたメンバーを優先し、メンバーの一人であるヒミカ・カツラギがゲートを開ける。
「フィーネ! お前もゲートで離脱しろ! アラカンを忘れるなよ?! 」
「判りました、バンドー様! 」
ズン!!
また、壁が揺らされる。だがその時には、バンドーとティア以外のメンバーは全員陣地内からの離脱に成功していた。
「逃げ足も速いのよね、うちのギルドは。さ、バンドー私達も消えましょ? ゲート開けるわよ・・。」
ティアが、そう言った時の事だった。
「ティア・?! 」
ゲートが開かれる事はなかった。崩れ落ちるティア。肩のあたりに2本の矢が刺さっている。
「ティア! 」
その瞬間、壁の一部が轟音を立てて崩れ落ちた。サムニウム族の兵士達がなだれ込んでくる。二人はあっという間に囲まれた。
「お前らぁ、ティアに近づくんじゃねぇ!! 」
硬化スキルを発動させ、全身に気を巡らせてバンドーが吠える。
「 『飛足月華』! 」
飛足を発動させ、わずかに宙に浮きながら身体を半回転させて下方掃脚。さらに身体をひねって旋風のように周囲の敵をなぎ倒す。
「俺のティアに触るなぁ!!! 」
ゼノ式格闘術の二の型『かわせみ』発動。ほとんど逆立ちしながら周囲を足技で蹴散らす。多人数相手限定の型。
「ガァァァァァァァァ! 」
バンドーがまた吠える。だが、そこまでだった。ティアの首に剣が付きつけられていた。
「止まれ! デスパレスの冒険者! こいつの命が惜しければな! 」
二人は陣地の外に引きずり出される。サムニウム族の兵士達が円形に並んで二人を囲む。
ティアの肩から矢が引き抜かれ、治癒魔法が唱えられた。治癒魔法だけはサムニウム族も使うのだ。そして腕を後ろ手にしばられ、詠唱封じの為か口には布を嚙まされる。
バンドーの、腕の下に棒が通され、それは首の後ろを通って又腕の下に抜けると、腕を棒に固定されて紐で縛られる。立つ事を許されず、膝を付かされた。
男が進み出てくる。その背後には、金の腕輪をしダークブラウンの髪をなびかせた少女。
「勘違いするな。女には儀式を受けてもらう。ゆっくりとな・・。」
布を噛まされたティアがうめいている。
少女が、銀色の鏡を胸に持ちティアに近寄ると言い放つ。
「魔法使いは忌むべき者。そなたを解放します。悪しき風習から。」
少女は頭上に銀色の鏡を掲げる。
「この鏡は我らがサムニウム族の秘宝、スキル封じ『ゴルツの鏡』。我ら一族は産まれると等しく、この鏡の洗礼を受けるわ。特別に、あなたにも洗礼を与えてあげます。」
やがて鏡が光り、きらめく光がティアを襲う。一瞬、ティアが痙攣したかのように見える。
「んっ・・! ん・・! 」
「ティア? ティア!! 何をした?! 」
「安心して、命に別状はないわ。ただし、魔法系スキルは全て、この鏡に奪われたのだけど・・。」
「なんだと?」
「この女は、もう魔法を使えないわ。また一から修業のやり直し。問題は、そんな時間があるのかどうかだけど? 」
『ゴルツの鏡』、別名『スキル封じの鏡』。彼らは産まれると、代々部族に伝わるこのアイテムを使い、自らが持つ魔法系スキルを封じてしまう。スキルに頼らずに『神の知識』を活用せよというのが、彼らの言い分なのだが、時には、忌み嫌う魔法使いを捕えては、こうして無理矢理、魔法系スキルを奪う。
少女の傍らにいた男が、兵士から渡された木箱を開ける。中から芋虫のようなものが姿を現す。口はイソギンチャクのようになっている。大きさは親指2本分程度。
「魔精虫、魔力を糧とする虫、こいつは一度吸い付くとなかなか取れんぞ。」
男はティアの足に虫を這わせた。たちまち魔精虫はティアの足に吸い付く。
「んんっ?!」
「魔精虫は魔力を吸い尽くしても取れん。魔力枯渇を起こしても、貪欲に吸い続ける。それが続けば・・」
魔力枯渇を起こすと重度の眩暈と吐き気をもよおす。尚も枯渇した状態が続くとティアは死ぬ。イルミタニア生まれの人間にとって、魔力は体内に無くてはならないものなのだ。
「・・てめぇら!!! 」
「オンゴロ、もういいわ。血闘を行いましょう。兵士の士気も下がっている事ですし。」
「はっ! 」
腕を封じられ、膝をつかされているバンドーの前に、鏡を持った少女が、ゆっくりと近寄ってくる。そしてバンドーの瞳を覗き込むかのように顔を近づける。
「ふーん、面白いわね。デスパレスの冒険者。お前はまるで、サムニウム族のよう・・。でも残念。」
周囲のサムニウム族が歓声をあげ始める。少女はバンドーから少し離れ、『ゴルツの鏡』をバンドーにかざす。
「お前の魔法スキルもこれで奪うわ。デスパレスの冒険者が魔法スキルを奪われて、一体どうやって戦うのか、私に見せて・・・・。」
鏡が、光った。
勘のいい人は嫌いです。なんて




