夜襲降下
さあ、素敵な夜のパーティを始めようか
サムニウム族は前衛2隊を引き上げ、本隊と合流させてひとつにまとまるとカンタナ高原で宿営地を築いた。
柵を2重に張り、今はその周りに壕を掘っている最中だ。柵の中に菱形の陣地が3つ。
「まとまったほうが、やりやすくはある。だが、選り取り見取りと言う訳にはいかんな。」
ゲートによる奇襲は一日に行える回数が制限されるし、出現位置が固定されているから対処もされやすい。
「止まってくれたのはいいのですが、ちょっと悩んじゃいますね。」
自由戦闘許可以降、カンタナ高原で出会ったパーティ『音速』のリーダー、ナカジマと、パーティ『ワーズワース』のリーダー、バーシーが話しあっている。
「近づくと銃とやらを撃ちかけてくるし、柵を張られては遠距離から魔法を撃ち込んでも効果は薄い。」
「あの銃は、何と言いますか。ボクが知っている銃とはちょっと違いますね。相当旧式な感じがします。」
「だが、なかなか痛かったぞ。防御魔法や硬化スキルで防げなくはないが、恐らく王国の兵には相当に効くだろうな。」
バーシーが右腕に手を当てる。
「困りましたね。」
デスパレス冒険者側のパーティ単位の攻撃では、まとまった数の敵は宿営地の外に出てこないだろう。
「となると、あとは川を利用して宿営地に近付くか、夜襲をかけるかだな。」
自然、選択肢は限られてくる。
「待つという手もありますよ? 」とはナカジマの弁だ。それを聞いてバーシーは目を細める。
「そうだな、だが面白くない。」
待つ意味はある。何故なら、王国から5000の兵が出ているのだ。それが到着するまでの時間稼ぎという意味からすれば、敵が動かないのは、むしろ迷宮都市デスパレス防衛には都合がいい。いいのだが、特別任務として自由戦闘二日を与えられた冒険者としては、稼ぎにならない事を意味する。
「やっほー! 」
黒い鎖帷子に身を包んだ少女がいつのまにか二人の近くに現れた。
「・・君は確か、最近バンドーのところにいる娘だね。」
バンドーと面識のあるナカジマが声を掛ける。
「バンドーさんから伝言でーす。今夜、ど真ん中に夜襲掛けるから、援護よろしゅー。適当に声掛けてる途中なんで、ほなー。」
あっという間にいなくなる。暗殺者の持つ移動スキル『飛燕脚』だろう。
「ふん、ど真ん中とは大きく出たものだな。陽が落ちるまで、まだ間がある。陽動で適当に魔力を消費したら、デスパレスに戻って少し休むか。お前達も来るんだろ? 」
どのみち、バーシーも夜襲しかないと思っていたところだ。例えバンドーのど真ん中に夜襲を掛けるというのが、はったりだとしても、無駄にはならない。
「 『音速』も出ますよ。今夜はいい夜になりそうだ。」
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夜、複数のデスパレス冒険者パーティがカンタナ高原のサムニウム族宿営地に近づきつつある。今夜は紅い月が上空に灯っていて、月影も濃い。
そしてバンドーは、と言えば、その上空にいた。
「バンドー様? しっかり掴まってくださいね? 」
神盾アラカンの上に立って持ち手を握るフィーネ、その腰を掴むようにバンドー。バンドーの肩に半ば浮き上がった形でミリアマリアが掴まっている。
「ミ、ミリアマリアは飛べるから、こんなのいいのにー。」
ミリアマリアは涙目である。彼女はティアから言われて、今回の自由戦闘に限り、バンドーの下に入る事になっていた。
「ううー、私はバンドーに近づきたくないのに、どうして?」
過去、まだバンドーが魔力分解スキルを完全に制御できなかった頃、ミリアマリアに触れるだけで、彼女を昏倒させた事が、何回かある。彼女の種族はパッシブで魔法障壁を展開していて、魔法攻撃に滅法強い。強いのだが、パッシブなだけにバンドーが魔法障壁に触れて分解すると、際限なく体内の魔力まで漏れ出て分解してしまうという事故が、・・・そう、あれは事故なのだ。まあ、それ以外にも過去いろいろあったのだが。
「事故だよ、事故。わりぃなー。今は大丈夫だって! 」
「私は飛べるんだから、もうどうしてー?! 」
「お前の速度は遅えだろーが、しっかり肩に掴まっとけよ? 」
眼下に、サムニウム族宿営地の野営の光が見えてきた。
「バンドー様? 間も無く上空ですよ? 降下開始します! 」
三つ造られた菱形陣地の一つ目がけて、一直線に高度を下げていく。
「フィーネ、ミリアマリアがゲートで離脱後に援護をくれ。ミリアマリア、行くぞ?! 」
バンドーは片手をミリアマリアの腰に回すと、神盾アラカンから飛び降りる。
「いやぁぁぁぁぁ!! 」と叫ぶミリアマリアの口に手を回し、封じる。ミリアマリアは必死に自らの羽根に魔力を送り、バンドー達二人は菱形陣地のどまんなかに軟着陸を果たした。敵が幕舎から飛び出してくる。
「ミリアマリア、手筈通りにやれ! いくぞぉぉぉぉ! 」
スキル『硬化』発動、周りは敵だらけだ。
「 『旋風月下』! 『飛足雷心』! 」
バンドーの両脚が気を含んで光り、地を這うように周囲を薙ぎ払ったかと思うと、最も敵影が濃い所目がけて飛び込んでいく。
陣地内では飛び道具は使えない。月明りはあるものの、顔がわずかに見える程度だ。そして、ミリアマリア以外、周りは全て、敵敵敵一色。
「全部敵だからなぁ! 遠慮する必要ねぇ! 」
無秩序に戦っているように見えて、その軌跡はしっかり円を描いている。ミリアマリアを守るように中心に据え、その周囲の敵兵を打ち倒していく。
「 『地の理に感謝して精霊の吐息を我に与えたまえ』 刻印! 」
ミリアマリアの詠唱する声が聞こえる。彼女が詠唱しているのは第6位階のゲートとセットになっている呪文。今、彼女は丸石に自分の居場所を刻んでいるのだ。
「よっしゃー! ミリアマリア行け! 離脱しろ! 」
叫びながらも右手は敵の槍をいなし、左手で敵の首筋に手を突っ込んでいる。
「 『地の理に感謝して精霊の道を開かん』 ゲート! 」
コォォォォォォォ! と音をたてて、青い円環が菱形陣地内に立つ。ミリアマリアはその中に消えた、バンドーを残して。
ミリアマリアが立てた青い円環は夜の闇の中で目立つ。フィーネが滞空している夜空からも丸見えだ。
「ミリアマリアさん、やりましたね! バンドーさん、援護します! 」
フィーネはそう言うなり、覚えたてのファイアーボールを宿営地入り口や柵目がけて五月雨式に見舞っていく。あちこちで火が付き、宿営地を照らし出す。それを確認してから、今度はバンドーを目印に上空から王族魔法の『疾風迅雷』を放ちだす。バンドーを中心に、雷と暴風が突如吹き荒れ、敵兵がなぎ倒される。もちろん、バンドーには効かない。
「一体、何人いるんだ? 切りがねぇ。」
まだ、周囲の幕舎から続々と兵が繰り出されてくる。3000人の敵兵が3か所に別れて宿営しているとして、単純計算で1000人程度か。
「ばっちこーい!! 」
上空のフィーネからの援護を敵兵の多い方向に誘導するかのように、バンドーは休む事無く、敵影が濃い方向に突っ込む。
一方、ゲートで離脱したミリアマリアは、サムニウム族宿営地近くの高地に移動していた。高地からは宿営地の様子が見える。上空からファイアーボールの着弾する様子も。
「すごーい。」
「ミリアマリア、こっちよ? 」
ティアと『星屑の光』の面々、そしてパーティ『鉄騎』もいる。カトルの『紅蓮』も。
「バンドーが借りを返すというから来てみりゃあ、こりゃ地獄のパーティじゃねーか! 」
ガンツが嬉しそうに叫んでいる。基本、『鉄騎』は脳筋の集まりなのだ。
「ミリアマリアは少し休んでてもいいわよ、刻印してきた丸石を頂戴? 」
「はーい! 」
ミリアマリア、うれしそうだな。
「あら。」
ティアが視線を宿営地の方にやる。いくつかのパーティが混乱に乗じて、外側から攻撃を開始したようだ。
「こういう、無言の連携ができるところが、うちのギルドの、いいところ・・ふふ。」
ミリアマリアから丸石を受け取り、近くに集まってきたパーティ『鉄騎』とカトルの『紅蓮』に声をかける。
「はーい傾聴! 今から宿営地の真ん中に特攻しまーす。『鉄騎』の皆さん、『紅蓮』の皆さん、『星屑』のみんな? 準備はいいですか? 」
「OK! 」
「コピー! 」
「いつでも! 」
コォォォォォォォォォ!! 宿営地を望む高地にティアが立てた青い円環、それと同じものが宿営地の菱形陣地にも現れる。
「GO! 」
飛び込んでいく面々。更に上空でも、フィーネが再び宿営地に立った青い円環を確認していた。
「再突入ですね! 援護はここまでです! 」
もちろん、周囲には誰もいないのだが、フィーネは王族魔法『疾風迅雷』の撃ち出しを止める。これ以上は、突入するギルメンを巻き込んでしまう。
コォォォォォォォォォ!
バンドーは振り返らない。音で判る、ゲートだ。ゲートが来た。
「待ってたぜぇぇぇ! 」
まだ実はバンドーがここに降り立ってから、恐らく10分も立っていない。
(そろそろやべぇ。他の陣地からも、応援が来てもおかしくねぇ! )
周囲が騒がしくなる。突入してきた面々が思い思いの方向に呪文やスキルを放っている。
「ここの陣地を確保する。ティア、ストーンウォールで陣地を強化してくれ、入り口も封鎖。敵の援軍が入れないように。まずはここの中の兵士を潰して・・何だ? 」
ピィィィィィィィィ! ピィィィィィィィ!
甲高い音が夜空に響く。それと共に、陣地内の兵士が引いていく。陣地を放棄して離脱するのか?
バンドーは陣地を囲む木の杭の連なる囲いから外に視線をやる。ファイアーボールで燃える宿営地外周の柵の側に、トカゲに乗る一人の少女の姿を認めた。右手に松明を持っている。
「何だ? 誘導してんのか? けど、好都合だ。ティア! ストーンウォールを使える連中を指揮して、陣地を囲め。」
バンドーは、もう一度、陣地の外に視線をやる。だが少女は、もういなかった。
朝を迎える前に、バンドー達は宿営地内の陣地の一つを完全に手中にしていた。木の杭で作られた塀の更に外側を魔法で作った石壁で覆い、しかも入り口も出口もない。完全籠城である。石壁のところどころには、一応、魔法射撃用の穴を開けてある。
「最初聞いた時は、冗談みたいな作戦だと思ったけど、案外うまくいくものなのね。」とティア。
「まあな、宿営地のど真ん中だ。絶対無視する事は出来ねぇ。しかも俺達は、その気になればいつでもゲートでさよならできる。あいつらの足止めには絶好だろ? 」
もうすぐ夜明けだ。時折り、ゲートの青い円環が立っているのは、食料や水を運び込んでいる魔法使い達だ。
「バンドー様ぁ? 」
フィーネも側に降りてきている。
「姫さん、よくやったな? 全部、姫さんのおかげだぜ! 」
バンドーはフィーネの銀髪を丁寧になでる。フィーネが首を震わせた。
「さーて、奴らどうするかねぇ? 」
今回、近接戦闘のバンドーは出番がないのでは? と最初、思っていました。けど結果的に大活躍ですね。
よかったな、バンドー。こんな展開になるなんて。




