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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第三章 サムニウム族襲来編
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サムニウムの姫

イルミダ、彼女に祝福を

迷宮都市デスパレスの北西にそびえるデッドウィン山脈に本拠をおくサムニウム族が、ヒストニア王国と交わろうとしなかったのは彼らの特殊性にある。


彼らは魔法を嫌う。治癒魔法の類は行使するものの、それ以外の魔法を生活や狩猟で使おうとしない。何故か? 彼らによると『神の知識』に反するからだという。


『神の知識』とは? 実はサムニウム族には生まれながらにして、前世の知識が備わっている。


記憶ではない。ぼんやりとした知識。


それは例えば、鉄の作り出し方であったり太陽の事であったり。判然としないのは、『神の知識』には個人差があって、妙に星の事に詳しかったり、武器の作り方に精通していたりと。それらを部族で寄せ集め、中途半端に活用している。まるでバンドーが元いた現代世界の魂のかけらが彼らに入り込んでいるかの如く。


彼らは思う訳だ。この世界はおかしい、魔法に頼るより、神から授けられた知識を活用すべきだと。だがそう、うまくはいかない。そもそも、ネクストステージ・イルミタニアでは地球と同じ物理法則は働かない。人の意志が魔法となって作用する世界である。持てない筈の物が意志の力で持てたり、ガンツのように身長が3メートルにまでなったりする、そんな世界だ。


銃が強いとおぼろげに知っていても、作り方が判らない。火薬を使うと知っていても、硝石とは何か? どんなものなのか判らない。仮にそれらの知識が現代日本由来だったとしても、中途半端な知識など、何の役にも立たないのだ。この世界では。


更に特筆される事の一つに、”スキル封じの鏡”の存在が挙げられる。彼らは産まれると、代々部族に伝わるこのアイテムを使い、自らが持つ魔法系スキルを封じてしまうのだ。魔法系スキルに頼らずに『神の知識』を活用せよというのが、彼らの言い分だった。


そんな、イルミタニアに背を向けたような生活を続ける彼らに転機が訪れる。部族をまとめる血筋に産まれた娘が、銃と黒色火薬の製法の知識を憶えていたのだ。黒色火薬は木炭と硝石と硫黄からつくられるが、木炭はいうまでもなく森から手に入れ、硫黄は山脈の岩肌を削り、そして硝石は蝙蝠の大群が住まう洞窟に堆積した糞がうず高く積もった層から手に入れた。


間違いは、正されなければならない。この世界をあるべき姿に戻す。『神の知識』こそが、正しい理であると信じ、彼らは山脈を降りた。



「本当に、デスパレスまで行くつもりなのかしら? ねえ、オンゴロ。」


彼女の名前はイルミダ・リンデン・サカエ。サムニウム族の姫である。年のころは17~8といったところであろうか。ダークブラウンの髪をかき上げながら、憂鬱そうに唇を尖らせる。彼女が、部族に銃をもたらした。彼女の知識が、火薬を作り出した。


「前衛が、敵と接触したようです。本隊も出しますか? 」


イルミダにオンゴロと呼ばれたのは鉄の鎧に身を固めた長身の男。姫の守護役として部族中から選りすぐられた彼は、サムニウム族でも屈指の武勇を誇る。


「好きにしていいわ。私は結構、どうでもいいの。」


「姫、我らの悲願成就の時ですぞ。そのような事を言ってはなりませぬ。」


「だって、私は興味が無いもの。第一、デスパレスを落とす理由が魔石が許せないって、馬鹿じゃないのかしら? 」


「姫、魔石は魔法文化の源。それを絶つ事は神の御望みに沿うものですぞ? 」


「それで? その後一体どうするの? もういいわ。私は幕舎で寝るから好きにして。」


彼女はそう言うと、巨大なアルマジロのような動物につながれた車付きの幕舎に消えた。


(馬鹿ばっかり、みんな何も考えていないわ。戦う事と、魔法を毛嫌いする事しか頭にないのね。)


彼女の言う通り、サムニウム族は単純に過ぎる。もしくは、本当に神に望まれて道化を演じているかのように。彼女が幕舎の中に用意されている寝床に横になると同時に、揺れを感じる。どうやら動き始めたようだ。


(本当に一体、夢の中にいるようだわ。)


自分だけが聡明で、他の部族の者は濁った水のようだと、彼女は本気でそう考えていた。


タンタンタン、遠くの方で音がする。


(あれは銃の音ね。本当に始まっちゃったのね。)


仕方がない、彼女は寝床から飛び出すと、幕舎から顔を出す。


「オンゴロ! 私のコモドを用意して! 」


程なく連れてこられたのは鞍のついた2足歩行のトカゲ。基本、サムニウム族には騎乗兵はいないのだが、彼女だけがこの生き物を連れてきていた。子供の頃からの付き合いなのだ。


「行くわ。」


イルミダがコモドに騎乗した瞬間、オンゴロが指笛を鳴らす。甲高い音がすると、視界前面に展開していたサムニウム族の歩兵が道を開く。


今度はイルミダが口に指をくわえ、笛を鳴らした。


槍を持った長盾兵と銃兵の混編成が形作られていく。横一列の長盾兵の後に横一列の銃兵。それが交互に重なり、イルミダの左右に展開する。


「装填済みの4列と盾4列だけついてきて、残りはいいわ。」


本隊の一部だけが前進するイルミダを守るように動き出し、更に彼女は指笛を鳴らす。それに呼応するかのように、前方離れたところに、左と右にばらばらに展開していた前衛の2部隊が隊列を組みなおすべく動き出した。伝令役の兵士がこちらに向かってくる。


どうやら敵の攻撃は散発的で、規模も小さいようだ。まとまった相手ではない。イルミダは瞬時に判断した。


「前衛に下がるように伝えて、本隊と合流させるわ! 8列は停止、命令を待たずに青い円環が見え次第撃ちなさい。」


タンタンタンタン!


イルミダが言い終わるや否や、長盾一列に隠れた銃隊から発砲煙が上がる。そして逆に、魔法攻撃のエネルギー弾が長盾兵に着弾し、土煙が舞い上がる。


「思ったより速い。エナジーボルトとかいう呪文かしら・・。」


知識としては知っているが、見たのは初めて。


彼女の目が細まる。視界には倒れたサムニウム族の兵士達。傍らを、本隊の方に下がっていく前衛の兵士達が通り過ぎていく。


「2列弾込め。3列長盾前へ、4列、青い円環が立った場所を記憶して! 照準固定して待機、見えたら即座に撃って。」


だが、次の攻撃はない。しばらく待っても現れる気配はない。イルミダは小さく息を吐く。


「下がるわ・・。お疲れ様。編成に戻って頂戴。」


そう言うとコモドの頭を巡らし、本隊の方に向かう。


(一体、私は何をやってるのかしら? )


戦う気はなくとも身体が動いてしまう。そういう意味においては、彼女も生粋のサムニウム族なのかもしれない。


「宿営地を敷くわ! 陣立ては菱3つ、柵は2重。3交代、2時間以内に仕上げて! オンゴロ? 」


「はっ! 」


「2時間たったら呼びに来て、幕舎にいるから。」


「承知しました。その間、急がせます。」


イルミダは、そう言い放つとコモドから降りて頬をなでてやり、幕舎に消えた。


















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