初撃
短い?
最初の一撃は選りすぐりの魔術師に任された。本来はパーティ単位が基本である冒険者ギルドではあるが、緊急事態、故に打撃力が優先される。本人確認の上、第4位階のエナジーボルトを詠唱可能な魔術師が集められた。
斥候として先行して単独でいくつかの盗賊あるいは暗殺者がばらまかれる。フリーの魔術師もそこには参加している。基点は、サムニウム族が野営に入りつつあるカンタナ高原の南およそ2キロに位置する小高い丘の上に設けられた。
そこに3班に分けられ、待機する魔術師達。ティアもいるし、最初の指揮を任されたパーティ『紅蓮』のリーダーであるカトルもいる。魔法使い以外の者達も見送りに来ている。その中にはバンドーもいた。
「ティア、無理すんなよ? 」
ティアは笑って手を振っている。彼女は2班のリーダーであり、行き帰りのゲート詠唱を担当していて、攻撃役の他の4人を統率している。
「確認、ファイアーボール3つ。」
先行していた斥候から上空に向かって放たれたファイアーボール3つ。それは、ゲートの移動先である三か所の地点が敵の脅威にさらされていない事を示す。
「詠唱開始ゲート。」
ゲートの詠唱が開始される。参加している魔法使いの中には無詠唱でゲートを開く事が出来るものもいるが、カトルはあえて詠唱を要求する。
「詠唱開始エナジーボルト。時間合わせ。」
それは、あえて詠唱から始める事で、3か所同時攻撃開始のタイミングを容易に取るためだった。
待機している魔法使いたちのエナジーボルト詠唱が終わり、杖にチャージされたところでゲートが開く。その中に、エナジーボルトチャージ状態を維持したまま、待機していた魔法使いたちが次々に飛び込む。
サムニウム族の野営するカンタナ高原を囲むように、青い円環が3か所同時に開く。瞬時に現れた魔法使い達が、チャージ状態のエナジーボルトを起動。野営地の複数個所が轟音に包まれた。第2射詠唱開始と同時に帰還のゲート詠唱も始まる。この時点で、先行していた斥候から再びファイアーボールが上空に向けて3発放たれる。
3か所とも奇襲成功の合図。
エナジーボルト詠唱完了、第2射。終わると同時に帰還のゲートが開く。瞬時に撤退するカトル達。この間、わずか10秒。反撃を受ける暇もない。
速い。
迷宮デスパレスで鍛えられたデスパレス冒険者ギルド所属の魔法使いの練度は王国でも屈指と言ってもいいだろう。
「点呼確認? 第2次攻撃いいですかぁ? 」
欠員無し。
「行きますよ? 次は反撃の可能性がありますが、これで自由戦闘に移行するので頑張ってくださいね? 」
『紅蓮』のリーダー、カトルは面倒見がいい事で知られている。常に誰に対しても敬語で接し、彼が感情を爆発させるところを誰も見た事がない。
「ゲート詠唱お願いします! 」
「エナジーボルト詠唱開始です。」
再び繰り返されるルーチン。無詠唱で唱える事が出来る者も、タイミング合わせの為に詠唱している。
「GOです! 」
カトルの合図と共に、第2次攻撃に出る面々。ゲートが開き、エナジーボルトをチャージ状態にしたまま飛び込んでいく魔術師達。
カンタナ高原に野営するサムニウム族の3方でゲートが開き、エナジーボルトが放たれる。あちこちで着弾の轟音、そしてサムニウム族の兵士達が宙に舞う。
タンタンタン!
散発的な反撃が試みられたようだ。エナジーボルトが詠唱された場所はいずれも野営地から80メートルほど離れている。そこに対して、発砲煙が上がる。
第1射エナジーボルトに続いて第2射エナジーボルト着弾。そして開く帰還用ゲート。
今回の攻撃に参加した魔術師は15名。いずれも名うての魔術師である。
「第2次攻撃終了、点呼お願いします。被害はありますか?」
15名全員、帰還を果たしていた。だが、2班のリーダーを務めていたティアが手を上げる。
「負傷者3名。回復魔法をくれるかしら? 」
命に別状はないが、負傷している。腕や足から血が流れていた。
「ティア? 敵の反撃はどんなだった? 」
「正直、よく判らなかったわ。変な筒を向けられたらメンバーが負傷した感じ。」
ゲートを利用した攻撃は奇襲に向くが、反面待ち伏せに弱い。ゲート魔法による移動はイルミタニアでは知れ渡っている。ルーンによる移動は固定であり、決まった場所にしかゲートは開かない事は周知。何度も同じルーンを使って攻撃を繰り返すと、出現位置が特定される。
「皆さん、お疲れ様です。これより自由戦闘に移行します。お疲れ様でした。」
今回の奇襲で、おおよそ70~80人の敵を葬った感じだろうか。負傷3名に値する戦果としては上々なのだろうが、まだまだ敵は多い。
「自由戦闘です! 今日を含め、これより2日間は各パーティの任意に任されます。各員の健闘に期待します! 」
今回の奇襲は、対サムニウム族戦闘の始まりに過ぎない。各パーティには10個程度のルーンが配られている。いずれも、デスパレスへの道程に位置する箇所が記録されている。それを自由に使ってサムニウム族に損害を与える。それが、今回のギルド特別任務だ。パーティ同士の共闘やメンバーの貸し借りも任意。
「フィーネにも出てもらうか。」
正直いうと、バンドーには葛藤がある。フィーネには戦場で戦わせたくない、けれど彼女の力が欲しい。
いつの間にかティアが側にいる。唇が耳元に近づく。
「ケイン君、ミリアマリアを貸すわ。好きに使って。本当は私が側に居たいのだけど、無理なの。」
何かあったら、すぐに言ってね? 絶対よ? そう言い残して、ティアが離れていく。
取りあえず、家に戻ろう。カスミやフィーネと話をしよう。
バンドーは飛足を使った。
無理だ!




