心がもやもやするな
ちょっと短いかなー。時間がない。
サムニウム族が襲来するかもしれないという一報は昼前にはバンドーにも届けられていた。ゴールドクラス以上には、届けられているようだ。
バンドーとカスミとユメは庭で修行中。主にカスミのだが。カスミが新しく覚えた魔法は
第1位階 マジックアロー
魔力による誘導弾。同じく第1位階にファイアーボールがあるが、こちらは直線攻撃で誘導はできない。マジックアローは放てば必ず当たる。まあ、レジストされる場合もあるし、威力はファイアーボールより格段に劣るので、主に牽制に使われたりする。
同じく第1位階 ライト
これは暗い所を照らす魔法だ。迷宮でよく使われるし、生活上でも便利。
第2位階 サンダー
中距離攻撃魔法で、飛距離はファイアーボールより劣るが威力は上。
第3位階 ファイアーフィールド
地面に炎の燃え上がる場を出す。大きさにして1メートル×4メートルくらいだろうか。防御に攻撃に汎用性が高い反面、出せば味方の行動も阻害する可能性があるので、使いどころが難しくもある。
バンドーは、燃え上がるファイアーフィールドの中心に立っている。それに向かってマジックアローをびしびし当てるカスミ。
「シュールやねぇ。」とはユメの弁である。
マジックアローのほとんどは、バンドーの魔力分解が反応するまでもなく、レジストされている。実はティアやカスミに頻繁に魔法を当てられ続けた結果、バンドーの通常の魔法耐性スキルも尋常ではない練度に至っている。
そこへ、上空から巨大な鷲が舞い降りた。ファイヤーフィールドを見て警戒する事しきりだったが、任務に忠実なのだろう。くちばしで、自分の胸に取り付けられた小さな樽をコツコツと叩く。ギルドからの伝書だ。ちなみに鷲は王国の象徴神アラカンの使いでもあり、伝書鷲を落としたら死刑になります。
「ユメ! 」
ユメにお願いして樽から巻かれた伝書を取り出してもらう。鷲は、それを確認すると甲高い声を上げ、又飛び立っていった。
「バンドーさん、これ封がしてあるわ。」
今バンドーに渡すと燃えてしまう。ユメはバンドーが食堂から持ち出して庭に置いてあるテーブルに置く。
バンドーはファイアーフィールドの効果が切れるのを待ってから、封をしてある蜜蝋をはがし、伝書を広げた。
『デスパレス ゴールドクラス以上に通達
サムニウム族襲来の予兆あり。別命あるまで待機せよ。詳細は追って伝書す。』
「サムニウム族ってあれか、デッドウィン山脈に住むとかいう。」
バンドーもそれ以上詳しくは知らない。何せ半年前にデスパレスに来たばかりだし、王宮仕えだったアメリアさんとかの方が詳しいかもしれない。ユメとカスミも横から伝書を覗き込み、不安そうにしている。
「カスミー! 続けるぞ?! 」
「えええ? バンドーさん、続けるんですか? ギルドに行かなくてもいいんですか? 」
「命令は待機せよだろ? 問題ない。それより早くしろ。時間が惜しい。」
再び、ファイアーフィールド風呂に浸かる俺、そんな俺にカスミがびしびしとサンダーの魔法を当てる。カスミの魔力保有量も結構上がってきているようだ。
そんな事を続けていると、
コオオオオオオオオオ
と音がして庭にゲートが開いた。ティアだ。
「バンドー、手伝ってくれないかしら? 」
見るとミリアマリアもいる。こいつは俺の事が嫌いらしい。実は過去にいろいろあった、詳しくは省くがいろいろな。
バンドーがファイアーフィールド風呂に入っているのを見て、庭に持ち出されている椅子に座り言葉を続けた。
「ルーン作成に出るの。貴方の『戦略眼』を貸して? 」
ルーンとは第6位階の魔法であるゲートに使う丸石の事だ。丸石にルーン文字が掘ってあって、魔法使いは便宜上、それをルーンと呼ぶ。ゲートで飛びたい場所を登録しておく石だ。ゲートで飛ぶために登録できる場所の数はゲート魔法習熟度に依存する。魔法習熟度のMAXは10、つまり最大で10か所まで登録できるわけだ。
それとティアの言う『戦略』眼とは、バンドーの持つスキルに由来する。昔、ゼノ式の修行中に得たスキルの一つで、簡単に言えば戦場を俯瞰的に見る事ができるスキル。
「やんなっちゃうわ、私4か所も割り当てられちゃって。」
「ミリアマリアは1か所だよ! 」
「どうしたんだ、一体? 」
バンドーはファイアーフィールドの効果が切れるのを待ってからテーブルの席につき、ティアの話を聞く。
「サムニウム族との戦いに備えて、山脈との間にいくつか奇襲ポイントを設けたいのですって。」
「あー、そういう事か。」
つまり、サムニウム族の侵攻に備えて、あらかじめそのルート上の各所をルーンで登録しておき、有事にはゲートで奇襲をかけるつもりなのだろう。ちなみにゲートを開ける回数も魔法習熟度に依存している。習熟度MAX10で一日に10回ゲートを開く事ができる。回数は、おおよそ1日で回復する。
「山脈に至る道のカンタナ高原出口付近と入り口付近。それに王都へ向かう街道とデスパレスに向かう街道が交差するカンタナジャンクション辺りが望ましいらしいわ。後は任せるって言われちゃって、困ってるの。」
レイ教授もいい加減だな、そんな適当でいいんだろうか。まあ、ギルドは軍隊じゃないし、依頼も金を払えば拒否できる。何より、自分たちの才能で食っている集団だし、軍隊と違ってパーティ単位だから結局、各個人の才能に任される部分はある。第一、ギルドの本分は集団戦闘や戦争じゃない。主役はあくまで王国の軍隊になるだろう。
とはいえ
「サムニウム族って魔法嫌いだよな。あいつら、本当にデスパレスに来るのか? 」
「知らないわ~。」
ティアはテーブルについた肘を基点に手をひらひらさせている。ミリアマリアのほうが真剣なのが笑えるな。小さな体で机の上に浮きながら、地図を広げて熱心にみている。
「バンドー、何処がいいかな? 」
ミリアマリアはヴァンパイア族の亜種で、バンドーはミリアマリア以外、この種族を見た事がない。
小さな身体に小さな赤い羽根。実際に飛ぶ事ができるのだが、浮力ではなく魔力で浮いている。
ちなみにバンドーの事が嫌いなようだ。
昔、いろいろあったからな。
「ここと、ここがいいな。」
バンドーはカンタナ高原を流れる川の向かい側と、山脈側の入り口に位置する小高い丘を指す。
「もしも高原で陣取るとしたら、水辺の側だろう。その川の反対側から遠距離攻撃がいい。どうせ俺らは主力じゃないからな。攻撃しやすく、すぐ逃げやすい方がいいだろう。高原入り口の小高い丘は占拠される可能性があるけど、退路に伏せるにはここだろうなー。」
どうなるか判らないが。
ティアとミリアマリアはしばらくバンドーと話し合い、机上の地図のあちこちに×印を入れる。
「ありがと、バンドー。じゃあ、ルーンに場所を記録してくるわ。邪魔したわね・・。」
「気をつけろよ! 向こうも斥候を出してる可能性があるからな? 」
コオオオオオオオオオ という音と共に再びゲートが展開され、ティアとミリアマリアの姿が消える。近くに飛び、そこから徒歩で目標地点まで行き、ルーンに記録してくるのだろう。考えてみれば、危ない仕事だな。
何かバンドーの心の中は、もやもやしてきた。やる事があるような、ないような、そんな感じだ。
「カスミ、昼飯、食おうぜ? 何か、腹減ってきやがった。」




