予兆
一体なにが始まるんですかね?
部屋割りは2階にアメリアさんとフィーネ姫それぞれの個室を用意した。奥の隅の部屋にフィーネ姫。アメリアさんは、その隣りだ。防犯上、侵入経路から最も奥に位置する部屋にフィーネ姫を置いて、隣りにアメリアさんの部屋を設けるのは悪くないだろう。
俺は1階の客間兼寝室に移る。以前、カスミとユメがいたダブルベッドが置いてある部屋だ。カスミの部屋も、その隣りに用意した。もちろん個室だ。他意はない。
「ユメは、どうする? 」
「うちは、その都度でええで。」
その都度って、よく判らないが、
「部屋はまだ空いてるから、欲しかったら言えよ? 」
取りあえず、荷物が落ち着いてから全員に食堂に集まってもらった。
「アメリアさん。」
「アメリアでいい。今は私は一介の冒険者だ。バンドーの家にやっかいになる手前もある。」
「じゃあ、アメリア。いいのか? 仮にも姫様を男の家に預けるんだぞ? 」
「問題ない。バンドーを信じているし、まさか12歳の姫を、どうこうするつもりはバンドーにはないだろう? 」
そうですよね、普通に考えて。
「・・・・フィーネ姫、いいのか? 俺のところにいて、その。」
「バンドー様? 私の事はフィーネとお呼びください! バンドー様は私より強いのですから! 」
ぐっ、そういう問題なのか。こいつ実は案外脳筋なのかもしれない。
とにかくフィーネ姫とアメリアさんがデスパレスでやっていくためには冒険者ギルドで冒険者として登録しなければならない。後はレイ教授にも相談する事がある。だいたい、元々は陛下はフィーネ姫をレイ教授に預けたのだ。カスミの魔法習熟度の面倒もみないといけないし、デスパレスに潜らないといけない。デスパレス冒険者ギルドでゴールドクラスを維持するためには、毎月最低3回は規定の大きさの魔石提出を求められる。ギルド委員やギルド保安隊に入れば、その活動で魔石提出が免除されたりもするが、俺にはそれは似合わない。人には向き不向きがあるのだ。
「取りあえず、アメリアさんとフィーネは明日にでも冒険者ギルドに行って、登録してきてくれ。ついでに魔法ギルドによって、第一位階の魔法を適当に覚えてくればいい。それで一日つぶれるんじゃないかな。」
その方が、面倒くさくないし俺が助かる。
「それと、カスミは明日一日、俺と習熟度上げだな。とっとと上げて・・どした? 」
カスミが何故か、むくれている。
「うー、何でもありません! 」
何だ、一体何を怒っているんだ、こいつは。
「バンドーさんは悪気がないところが、悪いのと違う? 」
とはユメの弁である。
「はあ? 何だ、そりゃ? 」
「ううん、何でもない。カスミちゃん、うちがええようにするさかい、明日は一緒にバンドーさんと習熟度あげよ? なっ? 」
「・・・・はい。」
何だ? 俺が悪いのか? とにかくやる事がいっぱいあって忙しいんだ、できる事から片づけて行かないと身が持たない。ティアからカスミを預かっている以上、魔法習熟度は上げないといけないだろ?
バンドーお前は相変わらず、デリカシーがない。
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朝、アメリアとフィーネは冒険者ギルドに来ていた。建物の中は人でごった返している。
「すごく、人がおおいですねー。」
「盛況ですね、私が前に来た時よりも多く感じます。」
冒険者ギルド1階の右奥に設置されている掲示板には人が大勢、集まっている。
新規登録受付は左奥のカウンターなので、まずはそちらにできている列に並んだ。
「アメリア様! 」
声をかけられた。みると、紫色の髪に長身、ハーフプレートに身を包んだ少女。
「リンダじゃないか! お前もここに来ていたのか? 」
暴風騎士団で一緒だったリンダ・パープルフォートだった。暴風騎士団は解散後、多くは近衛に引き取られたのだが、希望者は除隊している。
「我が兄がここ、デスパレスで冒険者をしているのですよ。頼って、ここにきました。」
そう言えば、聞いた事があるかもしれない。
「そうか! 苦労をかけるな? 」
「いえ、また一緒になる事もあるかもしれませんよ? 」
なかなかに礼儀正しい。初見でバンドーに襲い掛かったとは思えないくらいだ。
「リンダも修行ですか?! 」
「あっ・・。」
アメリアはあわてて、リンダを引き寄せる。耳元で小声でリンダにささやく。
「実は姫様は騎士団解散をまだ知らんのだ。穏便にな・・? 」
「えええ? すぐばれますよ? 」
「・・話す。もう少し待ってくれ・・」
「了解・・。」
フィーネ姫は首を傾げ、銀髪をゆらゆらさせながら、んっ? といった感じで二人を見ている。
「修行です、よ、よく判りましたね、姫様! さすがです! 」
そのようなやり取りはあったものの、アメリアとフィーネの冒険者登録は無事に済んだ。二人とも、騎士団での活躍を評価されて、ブロンズプレートからのスタートである。フィーネなどは、その魔力量や戦場での実績を考えればシルバースタートでもおかしくはなかったのだが、フィーネ自身がブロンズを選んだ。
「アメリアと、お揃いです! 」
そういう問題なのか。
「姫、バンドーから、冒険者登録を終えたらギルドマスター・レイに挨拶して来いと言われています。私も同意見です。行きましょう。」
4階にあるギルドマスター執務室を軽くノックしようとしたら、先に人が飛び出してきた。
「それじゃ、ギルマス。招集依頼が後ほど出ると思いますので、その時はよろしくお願いしますね? 」
出てきた男はそう言うなり、慌ただしく階下に駆けていく。
「よお、お二人さん。登録を済ませたようじゃの? 」
「レイ先生~!! 」
フィーネ姫が満面の笑顔で、レイに飛びついていく。レイが王宮を離れてから3年ぶりくらいの邂逅だ。だが3年とはいえ、フィーネ姫の年頃の3年は、その何倍にも感じられる。
「先生! また魔法制御を教えてください! 」
「フィーネ、よく来たの。ほれ、座れ。アメリアも。」
3人は執務室の机前に置かれた来客用テーブルに席を取る。
「実はのう、ちとあんまり相手をしてやれんでな。」
「どうかされましたか? 何やら階下が騒がしく感じられましたが。」
「うむ、サムニウム族襲来の予兆があってな。何パーティか斥候に出したところじゃ。」
サムニウム族とはデスパレス北西に位置するデッドウィン山脈に住む部族で、長らくヒストニア王国の支配下に入っていない。山岳部族なので滅多に降りてくることはないのだが、精強で知られている。
王国としては攻め入って支配下にするほどの旨味が無いので放置しているのだが、こちらに攻め入ってくると言うのであれば、話は変わってくる。
「それはまた、大事ではありませんか。我々に何かできる事は? 」
「まだじゃ。予兆と言ったじゃろ? 今は情報収集の段階じゃ。お主らはおとなしく、魔法でも習っておればよい。」
「そんな? 」
ブロンズじゃろ? と付け加え、じろりと二人のプレートに目をやり、続ける。
「主なパーティには伝書を飛ばしておる。今は気にするでない。」
サムニウム族の戦い方は、一風変わった事で知られている。バリスタと呼ばれる大きな矢を飛ばす台車を用いたり、トレビュシェットと呼ばれる投石機も持っている。武装は鉄中心で、集団で突撃してくるらしい。
らしいというのは、最後にサムニウム族と戦った記録が30年ほど前で、当時の記録にはそうある。
「と言う訳で、ワシは忙しいのじゃ。おとなしく魔法屋に行っておれ。よろしく頼むぞい。」
追い出された。フィーネ姫もしょんぼりしている。
「アメリア、私達も手伝いましょう! 」
「・・いや、ここは従いましょう。とにかく魔法屋で第1位階の魔法だけでも憶えるべきです。さあ、姫」
階下に降りると1階の掲示板前がまだ騒がしい。サムニウム族関連の依頼がいくつか出ているのだろう。
二人は冒険者ギルドを出ると、大通り向かいにある魔法ギルドに向かうのだった。




