レイの疑問
第3章の始まり
フィーネ姫が当たり前のように居ついてしまった。
ギルドハウス4Fでレイ教授に抗議したのだが、
「王様からの手紙見たぞ? 詳細はレイ教授に聞けって書いてあったじゃねーか。面倒を・・」
「見たぞい。長いキスじゃったのう。舌も・・」
「俺が悪かった! レイ教授、すまねぇ! 」
「それより、魔法ギルドで今月の検査は受けたのか? ワシとの約束じゃろ? 」
話の矛先を、するりと躱されてしまった。ちなみに魔法ギルドの検査とは、一か月に一度魔法ギルドに行って魔力検診を受ける事を指す。
知力
保有魔力値
魔力上限値
魔力回復力
などを調べ、毎月1回、レイ教授に報告しているのだ。
「行ってくるよ。」
魔法ギルドは、大通りを挟んで冒険者ギルドの真向かいにある3階建ての建物で、主に魔法使いの育成を引き受けている職業ギルド。お金を払えば位階魔法を習得できたりする。位階魔法習得の条件は、魔法習熟度がMAXに達すると、その上の位階の魔法をひとつ覚える事ができる。ちなみに位階は第1位階から第8位階まである。一般的に第6位階まで習得するといっぱしの魔法使いと言われるが、第8位階まで魔法を覚えてからが真の魔法使いの始まり、という人もいる。位階魔法とは、実は魔法ギルドがイルミタニアに存在する魔法を体系化して人が覚えやすいようにまとめたものなのだ。熟練の魔術師になると、それに飽き足らずに自分でスペルを編み出したりもする。
ちなみにバンドーは第1位階の魔法は習得した。習得しただけだが。
魔法を使えないので習熟度は上がらない。故に上の位階の魔法を覚える事が出来ない。まあ、魔力0なので当然なのだが。
「よお、来たねバンドー。また無駄な検診を受けに来たのかい? 」
出迎えたのはデスパレス魔法ギルドのギルドマスター、リーインシャ・コーネリアス。薄緑色の髪を持つ長身の女性。『グリーン・レクイエム』の別名を持つ凄腕の魔女で、28歳の若さでデスパレス魔法ギルドを差配している。
「約束だからな。」
魔法ギルドの2階の一室で、バンドーは『選別の水晶』に手を添える。本来は新人の実力値を測るために1度くらいしか使わないものなのだが、バンドーがこれを掴むのは何回目だろうか。
ヴヴヴヴュ・・。
反応が鈍い。初めて使った時は、壊れているのかと思ったくらいだ。
「お前が使った後は、調子が悪くなるんだよねー、こいつ。」
リーインシャが『選別の水晶』に杖を押し付けながら、そう言った。水晶の台座には魔石が嵌め込まれていて、測定結果は紙で吐き出される。
冒険者バンドー クラス戦士
知力 A⁻
保有魔力値 0
魔力上限値 計測不能
魔力回復力 計測不能
「いつ見ても、見事なまでに才能がないな、お前は。」
返す言葉もない。それにしても、レイ教授は何だって毎月、こんな事をやらせるのか。
「それに、魔力0は『魔力枯渇』に当たる筈なのだが、何故お前は普通に動けるの? まあそれがレイ先生の研究対象になっているんだろうけど・・。」
帰っていいよ、測定結果の紙をバンドーに渡すとリーインシャは言った。ひどい扱いである。バンドーは素直に魔法ギルドを出ると、そのまま冒険者ギルドに赴き、レイ教授に測定結果を報告する。
「ふむ、変わらずか。」
「当たり前だろ? 俺は何も変わってないからな。」
「普通はイルミタニアで生まれた人間は、量の大小はあれど魔力を持っているものじゃ。それが無いという事は、お主が特別なのか、それとも本当は魔力があるのか。あるいはあったものが無くなったのか。そのどれかじゃろ。お主自身は、どう思っとるのじゃ? 」
「そんなの判んねーよ。とにかく今まで魔力を感じた事はない。『魔力分解』で自分の魔力も分解しちゃったんじゃねーの? 」
「ふむ・・・・。」
「それじゃ、バンドー帰りまーす。」
扉の外に出ていくバンドーの姿を気にする風もなく、測定結果の紙を見てレイは考え込んでいる。
(なるほどのう・・。魔力分解が自分に作用するとすれば、この測定結果は違った意味をもってくるかもしれん。じゃが、そうなるとあやつは膨大な魔力の器を持っている可能性があるのう。・・今のところあっても意味はないが・・。じゃが、もし・・。)
自分自身の魔力を分解してしまうという事は、常時魔力を消費し続けているという事になる。魔力は使えば使うほど、その容量が大きくなる傾向になる。フィーネ姫の魔力暴走の拡大と同じ理屈だ。
魔力上限値 計測不能
魔力回復力 計測不能
この結果を今まで魔力値0のためだと思っていたのだが、実は逆で計測不能なまでに高いのではないか? とレイは考えたのである。もっとも、例え本当に高くても空の状態では意味がない。
(それに、魔力0で枯渇しているにもかかわらず、普通に動けるという疑問の答えにはならんしのう。)
計測不能の意味を確かめる術もない。何故なら、魔力値0の人間がバンドー以外にいないため、比べる事が出来ないのだ。
「・・まあ、気長にやるとするわい・・。」
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バンドーが飛足を使って家に戻ると、何やら騒がしい。
門の勝手口をくぐり、玄関前にたどり着くと何故か玄関前に木箱が山のように積みあがっている。
「バンドーさん、バンドーさん! 」
カスミがバンドーを発見して走り寄ってくる。
「王国からフィーネ様の荷物がたくさん届いて大変なんですよ。」
なんだって? これ全部そうなのだろうか。フィーネ姫はどこだろう。木箱のとなりにタンスまで置いてある。
「バンドー、久しぶりだな。いや数日しかたっていないか。いろいろあって、何やら久しく感じる。」
声のした方をみると、暴風騎士団副官のアメリアさんが立っていた。
「アメリアさん、どうしたんだ、これ? 」
あきれた感じでバンドーも声をかけると、不意にアメリアさんが近寄ってきてバンドーの耳にささやいた。
「姫様には内緒だが、実は暴風騎士団が解散になってな。まあ、姫様が3~4年デスパレスに修行に出るというのだから、是非もない。それに伴い、陛下から姫のお目付け役を頼まれた。よろしく頼む! 」
ぽんと肩を叩かれました。ってまじですか?
「って、ひょっとしてアメリアさんもここに?! 」
「陛下のご命令だからな! 致し方あるまい! 何やら激しく怒っておられたが、バンドー貴殿に何か心当たりはあるか? バンドーにくれぐれも、よろしくと言っておられたぞ? よろしく頼む! 」
・・・っくっ、心当たりが有りすぎて胸が痛い。
「なに、デスパレスの駐屯所から荷物運びの応援を呼んであるので今日中に片づく! 」
問題は無い! とアメリアは笑顔で頷いているが。
「バンドー様~! 」
フィーネ姫も気付いて外に出てきた。何やら服装がすっきりしている。届いた荷物から早速着替えたのか?
ビードロのような形をした青いラインが腰から太ももにかけて入っている白い服。首筋から胸にかけてV字型に青いライン。機能的だが身体にぴったりフィットするこの服は、恐らく鎧の下に着る肌着を普段着に直したものだろう。肩の下あたりまである白銀色の髪が服によく似合っている。
「バンドー様? 私、デスパレスで修行する事になりましたので、ここに置いてくださいね?! 」
私、頑張りますから! 今度は負けませんから! と気にする風もなく、のたまう。こいつは、うちの壁を壊した事に気が付いているのだろうか、というかそもそも、キスされて怒ってるんじゃなかったのか?何故懐く。
「バンドー様? 私に位階魔法を教えてください! 聞きましたよ? 『絶対魔法防御』をお持ちなんですってね? あれは、すっごく魔力を消費するんですよね? 」
私、楽しみです! と天使の笑顔で言われても。
無理です、バンドーは位階魔法が使えません。使えないどころか魔力0です。
「・・頭が痛くなってきた。俺、ちょっと休むわ。」
「風が出てきましたね・・。」
バンドー邸の屋根の上ではユメが相変わらず、脚をぶらぶらさせながら周囲をうかがっていた。
悩んでます。




