謁見
いよいよとか言いながら、なかなか話が進まなくてすいません。
ガイナスさんの先導で王宮の中を行く。海賊のお頭チックな人が近衛の団長のわりには豪奢な造りだ。通路が思ったより狭いのは戦闘を想定しているためだろうか? 窓は小さく、これは開くのか? 柱ごとに嵌め込まれた大きな魔石。飾りじゃなく、何らかの機能を有しているんだろうな。
やがて3人は天井まで届く大きな扉の前で立ち止まる。扉の前には二人の衛兵が立っていて、入室者を管理しているようだ。
「ここが王との謁見の間じゃ! 」
俺達3人が入る前に、先に扉が開いた。出てきたのは身長170センチくらいの流麗な顔立ちをした男で、薄紫のブラウス、白くて横にふくらんだパンツをはいている。服装からして貴族だろう。扉から出てきてガイナスさんを見るなり声をかけた。
「これはガイナス団長! いつもお世話になっております。」
「エイリー伯か、久しいの。貴公も謁見から? 」
エイリー・ハーフポート伯爵、34歳。ヒストニア王国、内務卿で内政を預かるひとり。もちろん、バンドーにとっては初見である。……たぶん
「はい。陛下にフィーネ姫との結婚承諾を頂きに参った次第。」
「なんと?! 明日をも知れぬ姫様との結婚を望むとは驚きじゃわい。お主、何を考えておる? そもそも陛下が許可を出すとも思えんが。」
「聞いておりますぞ! 何でも、姫様の治療の為にデスパレスから冒険者をお呼びになったとか。そちらの方ですかな? 」
さすが内務卿、王宮内の噂には精通しているようだ。
視線を向けられ、バンドーは軽く礼をする。
「バンドーです。」
「お~、やはりお主がバンドー殿であったか。貴殿には期待しておりますぞ! 何せ、姫様との結婚を叶えるにあたり、かけた費用も馬鹿になりませんのでな。」
ばんばんと両肩を叩かれた。しかし、俺が聞いていた話とずいぶん違うな。フィーネ姫は『魔力過多』のマイナススキル持ちなので、普通の結婚は難しいとか言ってた気がするが、こいつは一体、どうするつもりだろう。横を見るとガイナスさんやアメリアさんも同じ気持ちなのか胡乱な目でエイリー伯をみている。
「お主、どうやら本気で姫様との結婚を考えているようじゃが、アレをどうするつもりじゃ? 」
アレとはもちろん、『魔力過多』の事だろう。
「問題、ありませんぞ。姫様を迎えるにあたり、我が屋敷の敷地内に『金剛の間』を設けましてな。」
少々小さいですがと付け加える。
「なんじゃと?! 」
「なんと?! 」
ガイナスさんとアメリアさんが同時に声をあげた。
「『金剛の間』を独力で設けるとはずいぶんと思い切ったものじゃな! あれは個人の財力では身に余るじゃろう? 」とガイナスさん。そういう問題なのか?
「なるほど・・・・貴公のせいか。どうりで市場からめぼしい魔石が消えるはずだ。」とはアメリアさんの弁だ。
フィーネ姫を封じる『金剛の間』には数多の魔石を使うらしい。壁のあちこちに魔石が埋め込まれていて、その埋め込まれる位置が幾何学模様を描いている。魔石で魔法陣を編み、フィーネ姫の風魔法を防ぐ。理論的には可能なのだが、実際に造るとなると膨大な費用がかかる。
(・・気に入らねえ。)
バンドーは心の中でエイリー伯の評価を急降下させていた。そもそも『金剛の間』を一体、どうやって使うつもりなのか? もちろんフィーネ姫の魔力暴走対策なのだろうが、
(姫を閉じ込める事、前提で結婚するってのが気に入らねぇな。)
王族の血は貴重、王族との婚姻は王の一族に列する事を意味する。エイリー伯は、普通には結婚できないだろうと思われていたフィーネ姫を、『金剛の間』を設ける事によって自分なら結婚できると、陛下に奏上したのだろう。
「・・それで? 陛下は何と申されたのだ? 」
「今はまだ早いとの仰せでした。」
「ふむ。」
だが私はあきらめませんぞー、そう言いながらエイリー伯は通路を歩いて行った。まあ、そうだろうな。『金剛の間』ってすごく高いらしいからな。
扉を守る二人の衛兵によって謁見の間が開かれる。途端にプオーと角笛が鳴った。入場の合図だろうか? 中に入ると天井が高い大広間になっていて、国王ドッガーズが座る玉座までかなりの距離がある。国王の右隣りには何人かの人が並んで立っている。護衛か、それともヒストニア王国の重鎮か? ひとり魔法使い姿の者もいる。杖を持っているが武装していいのだろうか。バンドー達3人の武器は王宮に入った時点で衛士に預けている。まあ、バンドーはもともと持っていないのだが。
「ガイナス! 待っておったぞ! そしてお前がバンドーか?! お前だけ、前に出るがよい! 」
金髪ライオン。ドッガーズ陛下を見た感じの印象だ。
ドッガーズ国王陛下のご命令にバンドーが5歩ほど前に出たところで、改めて止まるよう命じられた。
「さてバンドーよ! お主はフィーネに薬を飲ませたいそうだな。だが、王宮内をむやみに血で汚したくはない。きさまにその資格があるのかどうか、見極めさせてもらうぞ? 」
言うなり、ドッガーズ陛下は左手をあげ、用意させていたアイテムを持ってこさせる。円形の平べったい水晶のようなものに取っ手が付いている。握るところもあるようだ。あれがレイ教授が造って王に献上したとかいうアイテム『真眼鏡』だろう。ドッガーズはそれを握るなり、水晶のような平べったいものをバンドーにかざす。
「何だと?! 」
ドッガーズが叫んだのも無理はない。彼がバンドーの持つスキルを鑑定した結果は
『稀代の道化師』
『深淵を探求するもの』
『悠久の時を生きるもの』
それはドッガーズが過去に見た事があるスキルでもあった。それはレイ・クリサリス・バーサクのステータスの一部。ちなみに、どうでもいい話だがバンドーが首にかけているネックレスの正式名称は『偽りの屈辱』という。
「ここまで手の込んだ悪ふざけをするとはレイか! きさま、王に偽りを見せるとは許せぬ! マルヴンク! 」
ドッガーズが立ち上がり右手を左右に振るなり、王の右手に控えていた魔術師が杖を差し出し、バンドーに向かって無詠唱で魔法が放たれる。指向性をもつ稲妻、第6位階の『サンダーブラスト』のマキシマムか。バンドーは思わず右手を差し出して呪文を分解した。
(おいおいおいおい、王宮の中で放つ呪文か? にしてもどうなる? やばいか? )
呪文がバンドーの手によって分解された瞬間、誰も動く者はいない。喋る者も。ややあって、豪快な笑い声が謁見の間に響いた。
「クク、ウァッハッハッハッハッハッハ!! 」
ドッガーズである。立ち上がりかけていた玉座に腰を下ろし、笑っている。やがて大きく息を吐くと、バンドーに視線をやった。
「よかろう! 『金剛の間』に入る事を許す。フィーネに近づく事もだ! 大儀であったな! 」
こうして俺、ガイナスさんとアメリアさんのドッガーズ王との謁見は無事終わった。本当に無事に終わったんだろうか? 終わったよな?
無事に終わった事にしておこう、何やらいろいろ不安はあるが、ここまできたら前に進むしかない。いよいよ『金剛の間』だ。待ってろ、フィーネ姫。
マルヴンク! とか言った時に剣が飛んでくると思った人、ごめん。魔法を放った魔術師の名前なんです。




