兵舎にて
バンドー気合入れて!
翌朝早くに、アメリアさんと共にバンドーは宿を出た。ヒストニア王国首都、ハイナスケイン。その台地の裾野に半円状に形作られた城壁とその内部の市街地、市街地の中を台地の根元に向けて真っすぐ伸びる中央大通りを歩き、切り立つように立ち上がる台地を見上げる所まで移動する。台地の上は王宮と、主要貴族の住居や豪奢な建物が立ち並ぶ高級住宅街が存在する。
台地の上に昇るには王宮指定の金属プレートが必要で、王宮管理の巨大な円形の魔法陣が描かれた台地の根元から台地の上につながる同じ形の円形の魔法陣まで移動する事ができる官製ゲートが存在し、許されたプレートを持つものにしか、そのゲートを使用する事はできない。
バンドーはアメリアにもらった台地の上に昇るためのプレートを身に付け、魔法陣に入る。程なく、身体が青白い炎のようなものに包まれ、台地の上に転送される。
「・・もうすぐだ。」
ちなみにティアは宿に残してきている。王宮に昇る事を許されなかった彼女は何やら、王都ハイナスケインにあるらしいゼノ式格闘術の道場を訪ねてみるとか、言っていた。
王宮の側にある、赤いレンガで建てられた兵舎とおぼしき建物にバンドーは案内された。
「ここが、我らが暴風騎士団の詰め所だ。バンドー、ここで近衛騎士団団長のガイナス殿と会う手筈になっている。」
アメリアはそう言うと、バンドーを兵舎内に案内する。客人を歓待する広間に通されてすぐに目につくのは部屋に飾られた、クロスに交差された二つの旗、アメリアの説明では暴風騎士団団旗と王国の紋章入りの旗、そしてその隣には、長大な盾が飾られている。
「この盾はフィーネ姫専用でな・・」
「まじかよ? 」
壁に立てかけられた盾の全長はバンドーの身長くらいか、160センチ以上はある。先が尖っており幅は50~60センチというところか。黄色で縁取りされ、内面は紫。盾中央には羽ばたく鷲が描かれている。
「神盾、『ゴッドブレス アラカン』。先の戦で姫様が使われたものだ。」
「フィーネ姫って、ひょっとして、でかいのか? 」
そう聞かざるを得ないほど盾はでかい。この盾を片手で装備する12歳の少女など、バンドーには想像する事が出来ない。
「ふっ、姫様がこの盾をどうやって使うのかは、ご想像にお任せする。」
ちなみに、『アラカン』というのはヒストニア王国の象徴神である鳥の姿をした神様の名前だ。千里を行き千里を戻ると言われ、四方を見渡す天駆ける神鳥とも言われる。
「冒険者バンドーはいるかぁ?! 」
不意に怒鳴り声がし、現れたのは紫色の髪をし、ハーフプレートを着込んだ10代とおぼしき女性だった。広間に入ってきた、その女性はバンドーを見るなり髪の毛を逆立たせる。
「お前がデスパレスの冒険者、バンドーか? 私は暴風騎士団リンダ・パープルフォート。デスパレスでは兄が世話になってるらしいじゃないか! 外で私と勝負しな! 」
なんだ、こいつは? パープルフォート? ・・あっ
「お前、ガンツの身内か? 」
「・・妹だ! 」
言いながら、既に剣を抜き放ってバンドーに切りかかっている。バンドーは座っていたソファの背を掴んで足を浮かせて剣をかわすと、後転してイスの背後に降り立つ。
「兄妹そろって脳筋かよ? 」
「い~い反応してるじゃねーか、さすがデスパレスのゴールドクラス。」
さらにバンドーに切りかかろうとしたところで、アメリアが割って入った。
「やめんか! 」
素手、片手でリンダの剣をかちあげ、胸元に手を当てると左から払い腰。ゼノ式格闘術免許皆伝のバンドーも見とれるほどにアメリアさんの動作は素早く華麗だ。リンダ・パープルフォートと名乗った少女の身体が半回転する。
「アメリアさん、すげぇ。」
リンダは反対側のソファに落とされ、うずくまった。
「リンダ・パープルフォート! フィーネ様を救うためにわざわざデスパレスから来ていただいたバンドー殿に、いきなり切りかかるとはお前は一体何を考えている?! 」
「痛っっつ・・。」
「ウハハハハハハ! 姫様が不在じゃと言うに、相変わらず、ここは騒がしいのう! お初にお目にかかる、我が名はガイナス! バンドー、貴様には期待しちょるぞ~! 」
いつの間に来たのか、アメリアに投げ飛ばされてソファの上でうずくまるリンダの頭を乱暴に撫でまわすと、ソファの背をまたぎ、椅子に腰かける男、
「まあ、座らんか! 」
赤い髪に赤い髭、長身180センチ以上はある偉丈夫。頭には2本の角が生えた兜をかぶり、体にスケイルプレートと呼ばれる、うろこ状の板金を寄せ集めた鎧を着込んでいる。腰には両手持ちらしい分厚い剣。海賊のお頭といった風情だ。とても近衛騎士団の団長には見えない。近衛騎士と言えばフルプレートのイメージがあるが、どうやらそれはバンドーの思い込みだったようだ。
「バンドーよ! アメリアから聞いちょるぞ? 絶対魔法防御持ちだそうじゃな! 姫様をよろしく頼む! 」
何はともあれ、やる事は決まっている。リンダはガイナスに肩をつかまれ、身動き取れずに目を白黒させている。ガイナスはもう一方の片腕で懐から、やおら瓶に入った液体を取り出すと机に置いた。
「流行り病に効く薬は今朝一番に宮廷医師に届けさせた! 受け取るがよい! なーに、リンダの相手は後でよいぞ? 陛下には話を通してある。さっそく陛下に会いに行こうではないか! 」
何でも、陛下はガイナスさんから話を聞くなり即答で謁見を許可されたとか。レイ教授の手紙の効果か?とにかく話が早くて助かる。バンドーは薬を受け取り、アメリアさんに向き直ると確認する。
「行けるのか? 」
「むっ、ガイナス殿がそう言うなら、私に否やは無い。行くか! 」
ガイナスさんが勢いよく立ち上がるなりリンダを弾き飛ばしているが問題ないだろう。ガンツの妹だしな。時間があれば、後で相手をしてやってもいい。まずはヒストニア王国国王、ドッガーズ・バルヴィオーネ陛下に謁見して、フィーネ姫が閉じ込められている金剛の間に入る許可を得なければならない。俺のスキル魔力分解があれば、問題なくフィーネ姫に薬を飲ませる事ができるはずだ。
「フィーネ姫は今、どうなっているんだ? 」
「昨日から金剛の間に置かれて、それ以降は判らないが恐らく魔力暴走が始まっていると思う。」
アメリアさんのその言葉を聞いて、ガイナスさんも頷いている。見た感じ、フィーネ姫の事をもの凄く気にかけているようだ。デスパレスでアメリアさんが物騒な事を言っていたけど、今のところフィーネ姫を本当に心配しているように見える。後は俺が何とかするだけだ。薬も受け取ったしな。後は陛下との謁見を乗り切るだけだ。
「バンドー! お主ならできる! わしが保証する! 」
会ったばかりだというのに気安いおっさんだな。いや、上に立つ人間は、こうでなくてはならないのかもしれない。誰とでもすぐ仲良くなり、褒め殺して任務を全うさせるタイプか?いいじゃないか、悪くない。首につけたレイ教授からの贈り物であるペンダントを確認、問題ない、やってやろうじゃないか!
リアルで会社の慰安旅行に出るので、期間空くかもしれませぬ。




