レイからの贈り物は
いよいよですね。
ヒストニア王国第3王女フィーネ・エレイラ・バルヴィオーネ。
14年前、フィーネの母親は当時、和平を結んだばかりの隣国レニオール大公国から嫁いできた。和平の、その証として。
ヒストニア王国の国王、ドッガーズ・バルヴィオーネは隣国、レニオール大公国から嫁いできたエレイラを愛し、産まれた娘がフィーネである。
美しい白銀ブロンドの髪、ヒストニア王国の王族を象徴する薄赤い瞳、そして何よりドッガーズを喜ばせたのはフィーネが4歳の時に発現した王族魔法だった。ヒストニア王国の王族限定で時に発現する固有魔法は風魔法。暴風・竜雷・疾風迅雷の名で知られていたが、ひとつ発現するだけでも珍しいところ、フィーネは暴風・疾風迅雷の二つを発現させていた。風と稲妻を操る強大な魔法で、時折り王族に使用可能な者が現れるのだが、ここ最近の王族ではフィーネが発現させたのが8年ぶりの出来事であった事からヒストニア王国の国王ドッガーズは驚喜し、フィーネ姫の後見人に当時宮廷魔術師筆頭であったレイ・クリサリス・バーサクを起用して、姫の教育に当たらせることにした。
フィーネ姫の才能は、後見役であり教育係のレイを驚かすに余りあった。保有魔力の伸び、王族魔法を操る術、そして魔力回復量。どれをとっても常人以上。いや、明らかに常人を超えている。
ある日、フィーネ姫を伴ってレイ・クリサリス・バーサクは国王ドッガーズに謁見を求め、そして人払いを求めた後に静かに切り出した。
「国王陛下、これはそれがしが作り出した魔法のアイテムでございます。」
レイ・クリサリス・バーサクがおもむろに国王ドッガーズに差し出したのは、円形の平べったい水晶に取っ手が付いたもの。取っ手の裏にはいくつかの魔石が組み込まれている。
「『真眼鏡』と申しまして、人が持つ術をあばきだすアイテムでございます。これにて、姫様をご覧ください。」
『真眼鏡』とは、有体に言って人の保有スキルを鑑定する。ドッガーズがレイにいわれるがままにフィーネ姫を『真眼鏡』で覗き込み、そして知った。王族固有魔法である『暴風』と『疾風迅雷』と共に、マイナススキルである『魔力過多』を愛娘フィーネが保有する事を。
「レイよ、貴様の思うがままに申せ。フィーネはどうなる? 何が問題だ? 」
「左様、それがしが知るところでは恐らくフィーネ様は魔力保有限界量の魔力を保持した時、暴走を起こすでありましょうな。暴走は姫様のご意志に関わらず、魔力枯渇に至るまで続くでしょう。後は、通常の婚姻は難しいかと。」
ドッガーズは絶句した。王族の姫にとって、婚姻による血のつながりは王国にとって不可欠のものであり、既定でもある。それが容易にできないうえ、魔力暴走?
「どうすればよい?」
「姫様の魔力が最大値に達した時に魔力暴走が起こる可能性が生じるでしょう。まずは姫様の魔力が限界に達しないよう、適度な放出が必要でしょうな。・・・・ただ、そもそも人の魔力の保有量は、繰り返し使用する事によって増える傾向にあります。姫様の魔術師としての才能は常人を超えます故、使えば使うほど、魔力保有量が増えましょうな。陛下のお叱りを覚悟の上で申し上げますが、魔力暴走を防ぐために使えば使うほど姫様の魔力保有量は増え、ひとたび魔力暴走が起きた時の魔力放出時間も増え続ける事でしょう。」
ジレンマである。魔力暴走を防ぐ為には魔力を放出させなければならない。だが、魔力量は使えば使うほど増えるのだ。本来は個人差があり、個人の器の限界を迎えると成長が止まるのだが。
「まあ、『魔力過多』のスキル自体、魔術の才能あふれる者に発現する可能性が高いマイナススキルですからな。とにかくそれがしが眼の黒いうちは姫の暴走を止めてみせまするが・・」
「むう。・・・よく判った、善処せよ! 」
ドッガーズとしては、宮廷魔術師筆頭であるレイがそう言う以上、他に手の尽くしようがない。
だが、時の流れは更に混乱に拍車をかける。フィーネが何事もなく9歳を迎えた頃、王妃エレイラの実家であるレニオール大公国の支配者であり、エレイラの兄でもあったカザフィ・アストレーア・ヴァン・バルナック大公が後継者がおらぬままに死去。享年29歳、早すぎる死であった。大公の死去に伴い元老院の合議制に移行したものの、公国を継げる血筋の者はエレイラしかいない。だが、エレイラは既にヒストニア王国に嫁いでおり、エレイラが公国を継ぐ事、すなわちドッガーズが公国の支配権を握る事になる。レニオール大公国元老院は紛糾した。挙句、6代前にまで遡り市井に落ちていた公国血筋の者を無理矢理公族として迎え、大公に立てたのである。
収まらないのがドッガーズであった。6代前の血筋など、真実かどうか判らぬ。レニオール大公国の正当な支配権は王妃エレイラにあると布告し、正当な支配権を要求してレニオール大公国に宣戦布告、両国は戦争状態に突入した。だが。
王妃エレイラは自分のせいで両国が戦争状態に突入する事をよしとせず、王宮にある嘆きの塔に籠り、自らを幽閉した。誰も手出しができぬ牢獄に、自ら入ったのであった。
ドッガーズは激怒した。挙句、フィーネ姫を戦場に立てたのである。
何よりエレイラがおらぬ今、正当な血筋、後継候補はヒストニア王国にはフィーネしかいない。後見人であり、教育係も兼ねていたレイ・クリサリス・バーサクは強硬に反対したのであるが、ドッガーズの意志は固かった。
「フィーネよ。公国の者どもに思い知らせてやるのだ。きっと母上も喜ぶであろう! 」
その日、戦場に立ったヒストニア王国第3王女フィーネは初めて自らの意志で、暴風魔法を操り人を倒した。
暴風姫の誕生である。
レニオール大公国の前衛は壊滅。だがそれ以上に、公国の血筋を引くフィーネ姫が戦場に立った衝撃は公国兵士にとっては暴風魔法以上に衝撃だったらしい。その日の午後には勝敗は決していた。戦後行われた和平交渉でレニオール大公国は独立こそ保ったものの、ヒストニア王国の属国として組み込まれたのである。
そして、自分の意を入れられなかった宮廷筆頭魔術師レイ・クリサリス・バーサクは下野した。
だが混乱はそれで収まりはしなかった。両国の戦争状態は解除されたものの、フィーネ姫の教育係として新たに起用された宮廷魔術師はレイ・クリサリス・バーサクより魔力の腕が数段劣っていた。もとより、レイと比べるのがコクではあったのだが、フィーネ姫は自らより劣る、はっきり言って自分より弱い後継宮廷魔術師の言う事を聞かず、魔力放出を怠った。何より当時まだ10歳、遊びたい盛りである。お目付け役の騎士の目をかいくぐり、市街に出ようとしたところで姫の身体は意思を失う。
レイ・クリサリス・バーサクがかつて国王に忠告した魔力暴走が姫の身体を蝕む。
「あああっあっ?! 」
城壁を越えようとしたところでフィーネ姫が叫び、瞬時に辺りを暴風が吹き荒れる。ただの暴風ではなかった。人を切り裂き、所かまわず建造物をなぎ倒す嵐。それは突如発現し、宮廷魔術師の努力もむなしく一昼夜続いた。王宮の城壁の一部は破壊され、数多の死傷者を残して。
フィーネ姫は初めて魔力枯渇を経験する事になる。
『・・・・と、言う訳でじゃな、バンドー。陛下はわしが進呈した『真眼鏡』でお主の『魔力分解』を察知するかもしれん。お主にはまだまだ聞きたい事があるので、もしも陛下に謁見する機会があるのなら、これを身に付けておくがよい。』
バンドーがハイナスケイン冒険者ギルドで受け取った着払い便を開けると、透明な水晶のようなものをはめ込んだ首飾りが入っていた。
『陛下にも書面を送ったぞい。最後はワシ、逃げちゃったけどワシからの書面なら、陛下は見るくらいするはずじゃ。健闘を祈る! いじょ! 』
一緒に入っていたレイ教授からの書面は、そこで終わっている。
「レイ教授、陛下に一体何て書いて送ったんだ?! 」
猛烈に不安になるが、どうしようもない。
夜、アメリアさんが訪れて告げた。
「バンドー! 明日の朝一番に近衛のガイナス殿と陛下にお会いする事が決まったぞ! 」
アメリアさんが言うには、王宮にあがれるのは結局、バンドー一人らしい。
まあ、なるようになるしかない。
ないよな?




