王都からの使者
第2章はじまりました
「バンドーさん、ギルドマスターから呼び出しがかかっていますよ? 」
受け付けのエルフのお姉さんが、そうバンドーに告げたのはバンドーが迷宮から還って魔石を換金している時の事だった。6日ぶりの地上。実はバンドー、疲労困憊である。
「悪い、風呂 入りてぇーんだ。帰ってもいいか? 」
「あなたがそれでいいのなら、私は止めません。」
伝えましたからね、と念を押したように付け加える。
「ちっ。」
ギルド員に起こる事は自己責任で処理することが尊ばれる。バンドーは重い身体を引きずって4階に上がった。
「バンドー、入りまーす! 」
中にいたのはギルドマスターレイと白銀の髪をもつ女。恐らく純血エルフだろう。バンドーが二人の前に席に着くや否や、レイ教授に紹介される。
「バンドー、彼女はヒストニア王国 暴風騎士団 副官のアメリア・タリスマンさんじゃ。失礼の無いようにの? 」
「バンドーです。」
バンドーは右手を瞬速であげる。
ヒストニア王国とは迷宮都市デスパレスを含む版図を持つ王国で、近隣では中堅クラスの国。
国王のドッガーズは勇猛で知られている。つい3年ほど前までは隣国と戦争をしていたが、今は和平が保たれている。確か、アメリアが所属する暴風騎士団は最後の戦いで敵前衛に大打撃を与えたとか、聞いたことがある。
「若いのですね。本当にこの子がデスパレスの50階層に? 」
レイ教授は鷹揚にうなづいた。
「バンドー殿、実は貴殿の力をお借りしたい。拳大の魔石を取ってきてほしい。それもすぐに。」
「バンドーでいいよ、アメリアさん。それに・・その大きさの魔石なら、最近いくつか取ってきただろ? レイ教授。ねぇーのかよ。」
「研究で使ったわい。」
「ギルドの資産をギルドマスターが私的研究に使っていいのかよ? 」
「冗談じゃ。しかし、おぬしは16歳のくせに相変わらず、ジジくさい事を言うのう。」
くっ、300歳越えのジジイに言われたくはないセリフだ。
「バンドー殿、いやバンドー。実は私が今回ここに来たのは王国の使者としてではない。あくまで私的な依頼としてお願いしにきたのだ。だから、王立ギルドの財産は当てにできぬ。」
アメリアさんは更に続ける。
「さる、お方が流行り病にかかられてな。どうしても薬を飲ませるか回復魔法をかけたいのだが、それが簡単にできぬのだ。そこで魔道具を使う事になったのだが・・」
魔道具を使うために、拳大の魔石がいくつか必要になるらしい。
「資産をかき集めて調達したのだが、店売りの物はもはや見当たらん。」
それで現地である迷宮都市デスパレスまで調達に来たと言う訳だ。
「ふーん。・・で? 俺はどうすればいいんだ? 」
「さっき言った通りの大きさの魔石がほしい。それも高純度の。それを見分けるために、私も迷宮に一緒に入ろうと思っている。」
「はあ?! 」
バンドーは思わずレイ教授の方をみるが、鼻で笑われた。くっ、俺にいったいどうしろと。
「アメリアさん、あんたがどれだけ強いのか判らねーけど、それほどの魔石を得ようと思ったら、多分30階層以上には降りねーといけねえ。下手すりゃ50階層だ。しかも俺が最速で行って往復で5日ってところだろう。アメリアさんが付いてくるなら、それも保証できねぇ。そもそもだ、それで病人に間に合うのか? 」
アメリアが言葉を詰まらせた。どうやら、その様子だと間に合わないようだな。
「・・と、言う訳だ。無駄足とらせちまったようだな。」
話は終わった。さあ、これでようやく家に帰って風呂に入る事ができる。
「バンドーよ。」
今まで、割り込まずに話を聞いていたレイ教授が、髭をさすりながら初めて口を開いた。
「おぬし、ギルドに黙って家にいくつか魔石を持っておるそうじゃの? 」
な・んだと? このジジイ。
「子供らしいコレクションじゃのう・・。記念に取っておるのか?だが魔石はギルドに売り払うのがルールじゃぞい。」
くっ・・・・、一体誰から聞きやがった?
「まあワシとしても、悪用目的ではなく、子供が愛でているコレクションまで売り払えというのは非常に心苦しいのじゃが、ルールはルール。ワシギルマスじゃし、困ったのう~。のうバンドー。」
ティアか? まさかカスミか?
カスミなら、「バンドーさんのおうちには、凄い魔石があるんですよ~。」とか言ってそうな気がする。情景が目に浮かぶ。普通のギルメンならともかく・・。まあ、それ以前に凄い魔石の価値があいつに判るのか疑問だが。
「まあ、ワシとしては特例で、アメリア殿に全部売り払った事にして、無かった事にしてもいいんじゃが、どうかの? ん? アメリア殿が本当に全部持っていくわけないと思うぞい? 」
「あるのか? ありがたい! では今からぜひ貴殿のうちに、行こうではないか! 」
はめられた! くっそ、ジジイ!