カスミ
書いてから、このまま投稿していいのか10分くらい悩んでました。でも投稿しました。
今回、暴力的描写があります。苦手な方はバックをお勧めします。
カスミは14歳にしては小柄で、身長は150センチに満たない。少し茶色がかったショートカットにダブダブの見習い魔法服。華奢な身体。加えて杖にぶら下がる見習い冒険者を示すアイアンプレートを見れば、余程余裕のあるパーティでない限り、パーティに入れようとは思わない。
ネクストステージ・イルミタニアに召喚されると、冒険者ギルドで職業選定の後、職業ギルドに預けられ、基本スキルと知識を身に付けた後、見習い寄宿舎に放り込まれる。
そこで身の丈に合った見習い者同士のパーティからスタートするのが普通なのだが、カスミは誰にも相手にされなかった。それを見かねたパーティ”希望の光”が自分のところに引き入れたのだ。パーティ名が示す通り、初心者に優しいパーティを目指すという、当時のリーダーであるカズヒロの方針だった。
だが、今やその庇護の傘はない。
バンドーの家を飛び出したカスミは当てもなくさまよい、結局冒険者のたまり場である酒場「冒険者の雨傘」に来ていた。以前、”希望の光”のメンバーと来た事があり、そこでは、いつもいくつかの冒険者パーティが憩ってる事を思い出したのだ。
「はあ?パーティに入りたい? 」
昼間から酒を飲む、男3人が座るテーブルの前に立ち、カスミは頭を下げる。
「お願いします! ファイアーボールの習熟度はMAXありますから、お役に立ちます! 」
「聞いたか。リーダー? ファイアーボールだってよ。」
「・・ジャック、好きにしていいぞ?ここではあれだけどな。」
「聞いたかい? お嬢ちゃん。うちのリーダーはお優しいねぇ? ただ、ひとつ確認するけどよぉ。うちのパーティは男5人パーティだぜ? 」
「お願いします! 何でもします、私頑張らないといけないんです! 」
ああ、カスミちゃん。それ以上はいけない。
「それじゃ、行くか。」
男たちは一斉に立ち上がる。
「あの、何処へ? 」
「俺たちのゲストハウスだよ。スラムの方にあるんだ。そこでゆっくりと親交を深めないとな。」
リーダーにジャックと呼ばれた男はニヤニヤしている。
カスミを真ん中に男たちは移動を開始した。15分ほど歩き、目当ての建物に入る段になって、カスミは気が付く、
「こ、ここは? ゲストハウスじゃ、ありません! 」
カスミは知らないが、そこは売春宿だった。化粧の厚い女達がたむろしているのを見て、カスミは何となく気付いたのだ。
「いやっ、私ここには入りません! 」
カスミは逃げ出すが、3人の男に追いかけられ、すぐにスラムのゴミ捨て場のような行き止まりに追いつめられる。
雨が、降り始めていた。
「わたしは! パーティに入りたいんです! 」
「ジャック! 雨が降ってきたぞ、さっさとやっちまえ。俺はこういうガキは趣味じゃねえ。やっちまって、さっさと金に換えるんだ。」
リーダーの声にジャックがカスミに飛び掛かる。
「なんで! 」
「へっ、男5人のパーティにアイアンの小娘ができる事っていやあ、普通はわかんだろうがよ?! 」
ジャックは馬乗りになり、カスミの顔面を平手打ちすると、両腕を押さえつける。
「やだ、お母さん! お母さん! 」
前世でただひとり優しかった人の顔を思い浮かべてカスミは叫んだ。
「聞いたかリーダー? お母さんだってよ! お母さんなんて、呼んで来る訳ないだろうが! それより俺が、今からお前をお母さんにしてやるよ! 」
「へっ? 」
一瞬、カスミは判らないといった感じでジャックを見る。
「ジャック! すべってるぞ! ガキを相手にするからだ。」
「くっそ、このガキが~! 」
「う、ひっく、『原初の理に感謝して・・・・』 」
「街中で魔法は禁止だぜぇ? 」
「! 」
「なんてな~、」
ジャックの背後からシャドゥウィップの呪文が詠唱され、カスミに飛んでくる。汚い、テンプレすぎる。
だが、連れの男が放ったシャドゥウィップはカスミの纏う魔法障壁に当たり霧散した。
「な? なんだと~? 」
「ひゃひゃ、お前、アイアンにレジストされてやがる。」
それもそのはず、カスミのシャドゥウィップ魔法習熟度はMAXレベル。個々の魔法の習熟度レベルが上がれば、同じ呪文に対する抵抗値も跳ね上がるのだ。
「こんの、ガキ~、舐めんじゃねぇ!」
又、ジャックの平手打ちが飛ぶ。
「やだ! バンドーさん! 助けて! バンドーさん! 」
雨音だけがする。男たちはしばらく何も言わない。
「・・・・こいつ今、何て言った? 」
「女? お前、バンドーの身内か? 答えろ、おい! 」
ひっく、カスミは男たちをにらみつけたまま、黙って答えない。
「バンドーって、『素潜りバンドー』だろ? 50階層まで皮装備で潜る変態の? 」
「あいつの身内に手を出すと、もれなく『星屑』の魔女達まで付いてくるって話だぜ? 」
「あっ、そう言や、ちょっと前にバンドーがアイアンの女魔法使い助けたって話があったよな・・。」
「お前か? そうだガンツが言いふらしていたダメパーティ『希望の光』」
カスミに馬乗りになっていたジャックもいつの間にか立ち上がっている。カスミは右腕を両目に当てて、動かない。いや、泣きながらしゃくりあげている。
涙が、止まらない。
ひっく
「危険に近づかないのは冒険者の鉄則だ、お前ら、行くぞ! 」
リーダーが言うが、ジャックだけが惜し気にカスミを見ている。
「リーダー、売っちまったら足がつくかもしれねぇけどよ、埋めちまったら判んねえよ! 」
「駄目だ、『星屑の光』メンバーの魔法探知能力を舐めんじゃねぇ。あいつら、もうここを特定してるかもしれねぇ。」
「賢明な判断ね・・。」
リーダーの背後に、いつの間にかティアが立っていた。
「早く行きなさい。今すぐ立ち去るなら、見逃してあげる。」
ひいいい、とか言い放ちながら、あっという間に男たち3人は消えた。
カスミはまだ、仰向けに倒れたまま。ティアが近くにいる事にも気付いていない。
ひっく、ううう。
(・・私は、またバンドーさんに助けられちゃった・・・・・・。ひとりでやっていこうと思ったのにまた・・。)
雨音が耳につく。男にぶたれた頬が痛い。無理矢理つかまれた手首が痛い。膝や背中も痛い。
でも、何より心が痛い。
(ダメパーティ・・か・・。)
また涙があふれてくる。私はダメな子。・・・・ここでも。
(バンドーさん、私もう、このままここで・・。)
雨に濡れて、そのまま沈んでいきたい・・。
「立ちなさい! 」
ぱしゃっと水音がして、近くに誰かがいるのに気が付く。
「立ちなさい。さっさと立って、そしてここまで来なさい。」
両目を覆っていた右腕を取り払い、わずかに上半身を起こす。
(ティアさん? )
「人間はね、いえ女の子は、これくらいで壊れたりはしないわ。今すぐ立って、ここまで来たらあなたを『星屑の光』に入れてあげる。」
「うう、ば、莫迦にして・・・・・・ち・・くしょう・・。」
怒りが、さっきまでの悲しみを打ち消す。そう、怒りは時に立ち上がるエネルギーになる。
だが、もちろんカスミは、そんな事を考えていた訳ではない。
「わ、たしは・・強く、・・今度こ・・そ、・・強く・・。」
立ち上がり、ティアに向けて一歩一歩、歩いていく。そうだ、カスミがんばれ。
ティアに抱き留められたところで、カスミは気を失った。
「ごめんなさい・・。あなたはこんなにかわいいのに、さっきはひどい事を言ってしまったわ。本当にごめんなさい。・・でもね、周りに祝福され、本人達も望んで。心も身体もつながっていても一緒になれないって事が、世の中には、あるのよ? 」
あなたには、まだ早いでしょうけど、とティアは付け加えると、無詠唱でゲートを開く。
「私達のゲストハウスに案内するわ。そこで取りあえず、着替えましょう。」
二人を飲み込むと、やがてゲートの円環は消える。雨音だけを残して。
11/5 あとがきを付け足しました。というのも、章割りを実行して、ここまでを第一章としたからです。本当はもう1話差し込むつもりだったのですが、閑話で済ませてしまいました。
ところで、ここまで読んでいただいた人、本当にありがとうございます。話はまだ続きますが、正直、こんなに連続して書くとは自分でも思っていませんでした。
さて第一章のコンセプトなんですが、
ひとつは説明くさくなく説明を満遍なく散りばめて、徐々にイルミタニアとバンドーの事を判ってもらう事。
そしてもう一つは、如何にカスミちゃんを崩すか?にありました。カスミちゃんは僕の中では現代日本そのものなんです。そんな、何も知らないカスミちゃんを、一体どこまで崩そうか、非常に悩みました。本編ではカスミちゃんの危機は回避されましたが、本当をいうともっと無茶苦茶にしてやろーかとも思ってました。
でもまあ、あるがままになるようになったので、いいんじゃないでしょうか。