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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第八章 
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リッチロード・リッチロード

昨日、投下できなかったので、お詫びも込めて、もう一話書きました。

昨夜は、何故か20:00頃に横になったらそのまま寝てしまいまして、起きたら2:00でした;

何事も起きず、夜は明けた。もっとも、ここでは陽の高さを確認しようもないが。あまり眠る事は出来なかったが、バンドーはアンの顔色を窺う。昨日よりは血色がいいようだ。土オコジョの肉の燻製をかじりながら、今日する事を考える。


「あいつらは何処まで来てるんだ? 」


あいつらとは、後方から来ている筈のティア達である。アンがまだ眠っているから、確認のしようがない。少し不安だったが、今は皮鎧を脱いでいる。まあ、その気になれば魔力分解全開で全裸でもデスパレスを駆け抜ける事が出来る気はするのだが、それはともかく装備の確認をする。双頭蛇ケーリュケイオンのアンカーを引き出し、ワイヤーを交換する。あとは皮鎧の手入れと糧食の残りを数え、湯を沸かしたところでアンが目を覚ました。


「よお、調子はどうだ? 」


アンは横になった状態で右腕を上げ、手の指を握ったり開いたりする。そして気だるそうに半身を起こした。


「いけるわ、まだ魔力が不足してるようだけど…… 」


「そうか」


バンドーは黙って、沸かした湯に土オコジョの燻製を放り込む。アンも何もしゃべらない。うつむいて膝を抱え、何か考え込んでいるのだろうか。


「ねえ…… 」


「なあ…… 」


二人は同時に声を掛け、そしてまた押し黙った。ややあって、アンから先に口を開いた。


「あのね、私はここに残るから。その……約束だし、先に進んで欲しいの」


バンドーの悩みも同じようなものだった。先に進むか、ここでアンの様子を見るか。ただその場合、確認する事がある。


「後続のティア達は、何処まで来てるんだ? 」


「……すぐそこまで来てるわ。1日~2日以内には合流できる」


実に微妙な回答だった。2日という日程は、すぐそこなのだろうか。それはまた、彼女の微妙な心境を現わしているのかもしれない。バンドーにいて欲しい、けれど足手まといにはなりたくない、と言ったところか。


「飲めよ」


土オコジョの燻製から即席に取ったスープを差し出し、考える。アンが息を拭きかけながら飲んでいる間、バンドーは立ち上がると周囲を窺うふりをした。


「バンドー、行って! あたしのせいで、これ以上迷惑を掛けたくないから」


「アン、アン・ラスティ。俺はお前の事を迷惑だなんて、一度も思っちゃいない。お前はいつも一生懸命だし、そんなお前に、いつも助けられていた」


アンは黙ってスープを飲んでいる。


「その上で、俺は行くよ。元々、お前はここまでの予定だった。ここまでありがとう、助かったよ」


護身用に、泥団子をふたつ残していく。危ないとか言っている場合でもないだろう。皮鎧を装着し、左腕に双頭蛇ケーリュケイオンも付ける。少し身体を動かしてみて、鎧が身体に馴染むのを確認した。


「行って来る! 」


片手を上げ、階段を降りる。31階層へ、アンは見えなくなるまで手を上げていた。


「さて…… 」


ここからは今までとは違う。何を気にする事もない。守るべき者もない。バンドーの表情が変わる、アンに言った、例え親が死のうが、大事な人間が攫われようが冷静でいなければいけない場所、あれは嘘だ。今のバンドーは、例えデスパレス中の魔物が束になって掛かっても敵わない。イルミタニアの全てのものを分解できるのだから。


「あああああああ! 」


魔力全開、飛足の出力最大。何人も自分の前に立ちふさがる事を許さない勢いでバンドーは前に進む。事実、敵意を持って現れ、彼に触れたものは触れた瞬間に消し飛ぶ。自分で追い求めはしない。目標である75階層を目指し、ただ前に、より前に進むだけ。


およそ半日で、彼はデスパレス神域である40階層までを駆け抜けた。41階層からは、また迷宮の色が変わる。誰が名付けたか、『リッチロード・リッチロード』。道中にリッチロードが湧き、それが道標のように続く。


”誰が名付けたか、リッチロード・リッチロード 何てリッチなハイウェイ” などと謳う吟遊詩人もいる程で、初めて聴いた時は、それは何処の英語だ、とバンドーは思ったものだ。多分、召喚されし者の誰かがつくったのだろうけれど。


「へっ」


そんなくだらない事を思い出し、バンドーは速度を緩める。彼のすぐ側でリッチロードが湧き、両手を上げながらリッチを呼び出す。リッチロードが放つ爆炎エクスプロージョンとリッチが放つエナジーボルトが数限りなく、バンドーの身体に向けられるが全て無意味だ。


歩き続ける彼の後ろをぞろりぞろりとリッチロードとリッチが付いてくる。彼が止まるとリッチロードとリッチも止まり、魔法詠唱を開始する。


「リッチロード・リッチロードか、くだらねえ」


取りあえず次のキャンプ予定地は46階層から47階層に至る通路の裂け目にある洞窟を考えている。46階層を抜けるとリッチロードも追っては来ない。……多分。


「おし」


序盤の飛ばし過ぎで少々消耗していたのだが、再び足に気と魔力を纏い、飛足に点火すると前進するスピードを最大限にする。これでリッチロードも撒けるはず、……だよな? もはや全てを倒すのが億劫なくらい、周囲にはリッチロードとリッチがいるのだ。彼らは一定距離から魔法を撃ってくるので、放っておけば際限なく増えるのかもしれない。


(あっ、ひょっとしてやばかったか? )


46階層までを一気に抜け、階段を降りながら気付く。何をかと言えば、放置してきたリッチロードとリッチの集団である。あれらは残り続けるのだろうか、ここまで降りてくる冒険者は滅多にいないとはいえ、皆無ではない。


「うーむ、……帰りに考えよう」


体力と気力と魔力の消耗が激しいと、人間は考える事をしなくなる。さすがのバンドーも深層を16階層もスキル全開で駆け抜けると、ひどい疲労感が襲ってくる。


「駄目だ…… 」


46階層を抜け、47階層までの途中にある裂け目の洞窟に潜り込むと、そうつぶやく。ここは膝を折って前かがみにならないと進めない程の低さの裂け目で、それを越えると地下に流れる滝がある。デスパレスでも高位の冒険者しか知らない、秘密のキャンプ地である。


「くううううう! 」


滝の水を手ですくい、顔を洗う。皮鎧を外し、頭からかぶる。疲れた、疲れたのだ。


「あ~、ああ、あーあ。……寝るか」


数分後には、彼は双頭蛇ケーリュケイオンを枕に、いびきをかいていた。












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