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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第八章 
128/134

小柄なワルキューレ

20階層の空が裂けている。その先に見えるのは、あれは多分、


「デスパレス神域…… 」


階層で言うと、30階層から40階層。見た感じでは32階層くらいか。


「くっ! 」


エンジェル”リドワン”にエンジェル”ブブレ”が多数。セラフィムやケルヴィムの姿も少数見える。率天使”アシャンドラ”がワルキューレ装備の小柄な少女の両横にそれぞれ控えている。


それらは裂けた空間の手前の空中に浮かびながら、こちらを窺っていた。


「誰かと思えば、バンドーさんでしたか」


額には銀色の額冠がっかんをし、中央には真っ赤なルビーが光る。銀色のフルプレートに漆黒の槍、少女は槍をこちらに向けながら言葉を続ける。


「私達は『可愛い女の子捕まえ隊』」


何か、エンジェルと一緒にポーズを取ってやがる。こいつら、大丈夫か?


「最近減った、お父様の親衛隊を補充しようと思って来てみれば…… 」


小柄な女の子は槍を持った右手を横に薙いだ。エンジェル”リドワン”と”ブブレ”達が一斉に光の槍を投げる。バンドーはアンをかばい、その正面に立つ。魔力分解発動。


「ワルキューレの逆十字! 」


光の槍はバンドーに向かって一斉に放たれ、そしてバンドーに当たると無効化された。続けて少女が放った金色の逆十字型の形をした柱が中空で光り輝く。


「ワルキューレのいざない! 」


「アン? 」


悲鳴がした。アンの身体が勝手に動くと空を飛ぶ。そして逆十字型の柱に上下逆さまに張り付いた。


「穿て! 」


「ああああああ?! 」


逆十字が明滅し、太い針が飛び出すとアンの手の平と両足を貫いた。


「痛っ…… 」


「お前ら、何しやがる! 」


アンは必死に抵抗しているが、思うように身体が動かせないようだ。


「バンドー、駄目だあたし、今…… 」


彼女が何を言いたいのか判る。あれは多分光属性の十字架なのだろう。だとすれば、直前に闇属性を塗布したアンの身体は抵抗できない。


「お前ら~! 」


バンドーの身体が、彼の魔力を受けて光り輝く。


「あなたの、中途半端に覚醒した卒業リンカースキルの弱点は判っています。あなたが分解できるのは体内由来の魔力だけなのでしょう? 」


小柄な少女が手を上げると率天使”アシャンドラ”が槍を構える。


「突撃! 」


率天使”アシャンドラ”に率いられたセラフィムとケルヴィムが槍を一斉に突き出しながら、バンドーに殺到する。


「なめるな! 」


逆にバンドーは突出していた。こいつらは、俺が真に魔力分解に目覚めている事をまだ知らない。


「何? 」


無視だ、向かってくる何もかもは無視。ただあの小柄なワルキューレのみを補足すればいい。


双頭蛇ケーリュケイオンアンカー! 」


殺到してくる率天使”アシャンドラ”に率いられたセラフィムとケルヴィムのことごとくは、バンドーの身体に接触するなり分解される。それすら意に介せず、バンドーの左腕から放たれたアンカーが小柄な少女の左足に絡む。


「ば、馬鹿な、お前! 」


ラケシスは悟った。バンドーの卒業リンカースキルが開花している事を。


「くっ! くっそう! 」


バンドーは一瞬ためらい、スキルを発動させるか悩んだ末、アンカーを引き寄せ飛び上がる。


「か、帰る! お前ら、帰るよ?! 」


ラケシスの悲鳴にも似た声を聞き、残った天使達がラケシスを抱えるようにしながら、空間の裂け目に撤退していく。もちろん、逆十字に張り付いたアンも手の内である。


「切って、私の左足を! 」


「させねえ! 」


すぐ近くに来ていたバンドーは空間の裂け目に手を掛けると、中に飛び込んだ。


デスパレス30階層から40階層までは、俗にデスパレス神域と呼ばれている。32階層になると迷宮の様相ががらりと変わり、神殿を思わせる楕円の柱に支えられたデスパレス大聖堂が姿を現し、その神殿は延々と40階層まで続く。バンドーが降り立った場所は既に神殿の中、すなわちここは最低でも32階層以上の筈であった。


「があああああああ! 」


バンドーが止まらない。叫びながら、荒れ狂う。アンカーの先は既に自由になっていて、戻すなり飛足を加速させながらゼノ式の中距離技を連発し、アンが捕らわれている逆十字を目指す。


「お前らぁ、俺の目の前でよくもアンを! 」


触れるもの全てを分解消去。率天使だろうが権天使だろうが関係が無かった。


「無理、無理よー! こうなってしまっては、お父様しか…… 」


片足を失い、率いる天使達も役に立たない。彼女は泣きはらしながら唇を噛んでいる。


『ラケシス、戻れ。構わん』


「! ……はい、お父様」


反転すると、ラケシスは粒子となって消える。それと共に、アンを捕えていた金の逆十字も消える。


「アン! 大丈夫か? 」


ようやくアンの側まで来たバンドーは、肩で息をしている。銀色の明滅はもうない。アンの両手両足には穴が穿たれ、出血していた。バンドーはすぐさま魔力と気を込め、ゼノ式手当てをする。


「バンドー、失敗しちゃった…… 」


「いい、しゃべるな」


周りに敵影は無い。バンドーは止血を澄ますとアンを抱え上げ、周囲を見回す。ここは多分、32階層だ。


「一旦、戻る。30階層まで戻ればキャンプ地がある」


アンは何も言わない。バンドーの腕の中でおとなしくしている。落ち込んでいるのかもしれない。何より彼女は今、闇属性に特化しているので、デスパレス神域は相性が最悪であった。バンドーはアンを抱っこして飛足を発動し、加速する。


「痛いか? 」


アンは首を振るう。幸い、敵影は無い。静かだ。こんな事は今までにない。ひょっとしてわざとなのか? どちらにせよ、今は助かる。32階層から31階層へ。そして31階層から30階層の間に存在するキャンプ地に向かう。そこは階段を降りる途上の踊り場が広く、泉が存在していてデスパレス遠征を行う者にとっては、よくキャンプ地として使用されている。


「ここなら、安心だ」


言いながらも不安はある。本当に大丈夫なのだろうか? また空間が裂けて敵がなだれ込んでくるというような事が起きないと言えるのか? だが、少なくともここには魔物はスパンしない。考えるな。


バンドーはアンを床に降ろすと綿布をちぎり、泉から水をくんでアンの顔や手足を拭く。


「バンドー、バックパックに傷薬がある」


言われて取り出し、止血が終わった傷に塗り込んでやった。アンの顔色が悪い。


「傷はたいしたことがねぇ。どっか痛いのか? 大丈夫か? 」


「……多分、魔力が足りない…… 」


どうやら、さっきの十字架に掛けられた影響のようで、身体中の気だるさから察するに多量の魔力を失っているようだとアンは言う。イルミタニアの人間は大なり小なり魔力を身体の中に持っている。そしてそれが枯渇に近付くと、急速にポテンシャルを落とす。


「そうか」


取りあえず、今日はここまでだ。今からデスパレス神域を抜けるには時間が足りないし、この状態のアンを置いてもいけない。バンドーは、誰かが使ったであろう竈跡をみつけると、取りあえず火を起こす。


「バンドー、取りあえずアリに言っておいた。今、30階層のキャンプ地だって…… 」


以心伝心テレメトリメッセージか、まだ通じるのか。


「……嘘? とか言ってたよ…… 」


「もういい、寝ろ。俺が見てるから」


「……そうする…… 」























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