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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第八章 
126/134

お前はどうしてそうなんだ

頭が痛い、特に眼の奥の辺りが。寝返りをうつ、硬いベットだ。硬くてもふもふした……。


そこでやや覚醒する。


鼻につく、この匂いは? アンは勢いよく、半身を起こした。


「よっ、起こしちまったか? 」


「バンドー? 」


煙い。何かを燻す匂い。思わず目を見張るが、それも一瞬だった。理解したのだ。


「そっか、土オコジョの肉、燻製にしてるんだね」


「あんま時間かけないから、数日しか持たないけどな」


本格的につくる訳ではない。デスパレスにいる間だけ、持てばいいのだ。


「…… 」


アンはまだ、ぼーっとしている。昨晩はバンドーにある事ない事、言った気がする。何故、自分は憶えているのだろうか。


「はぁー…… 」


「何処いくんだよ? 」


「おしっこ」


「外でやれよ? 」


「判ってる」


この程度のやり取りはパーティ間では頻繁に行われる。羞恥心が無い事もないが、ここはデスパレス。命のやり取りの前では公共良俗は風化するのだ。


言い過ぎた。


戻ったアンは、黙々と装備の手入れに励む。苦無の刃の確認、数の把握。敵を倒した後になるべく回収するようにしてはいるが、戦闘が続くと自然に数は減っていく。有体に言うと、投擲武器はコストパフォーマンスが悪いのだ。まあ、使い慣れているので今更ではあるが。


円刃エメラテの刃にも若干の油を塗り、綿布でこする。あとは腰に下げている様々な薬品類の確認、腰に付けている小さめのバックパックの中も確認する。傷薬や剥ぎ取り用のナイフ、綿布の予備もみる。


「これ、持っとけ」


出来上がった土オコジョの肉の燻製をアシタバで包み、バンドーはアンに投げる。


「それから、水飲んどけよ」


飲酒の翌日は、身体から水分が失われている事が多い。バンドーは、一応中身を確認してからアンに水入れを投げる。


さて、今日は何処まで行けるだろうか。


「準備できたか? 」


後ろ髪を止めている赤色の布を結びなおし、アンはハンドサインで了解する。二人は洞窟を出ると、19階層に続く階段目指して、飛足を発動させて飛び出した。


幸い、敵は見えない。


そのまま19階層まで降り、周囲をうかがう。


19階層は土のボス部屋があり、階層の作り自体は今まで抜けてきたボス階層と同じだ。

奥に広がる大広間までは石畳が続く単純通路、この階層に罠の類は一切無い。通路側面には一定間隔で先人が残した魔法の灯火が吊るされていて、ボス部屋までの道筋ははっきりしている。


アンはバンドーにハンドサインを送ると、先行した。今までと同じように、大広間手前まで行くと立ち止まり、自身の気配感知を最大にして周辺の敵を窺う。


この階層に出る魔物は、砂悪魔サンドデーモンに土ハニービー、そしてアースエレメンタル。いずれも土系魔法を撃ってくる。特に砂悪魔サンドデーモンとアースエレメンタルの体力が高く、長期戦になる事が多い。まあ、バンドーの魔力分解に掛かれば一瞬だが。


「ねえバンドー」


「どした? 」


「バンドーは何で焦ってないの? カスミちゃんだっけ、攫われたんだよね。心配じゃないの? 」


こいつはいきなり、何を言い出すんだ。


「それとも、そんなに大事じゃないのかな? 」


こいつは、まさかまだ酔ってるのか? と思い顔を見るが、その瞳はどうやら真剣で。


「ふむ」


バンドーは何も言わず、走り出した。敵影は五つ。左肘に装着した双頭蛇ケーリュケイオンからアンカーを射出すると、アースエレメンタルを一匹、分解する。


アンも後ろから、来ている。


「身体に染み付いているんだよ」


アンが抜刀し、ゼノ式と組み合わせた中距離攻撃を放つ。その先にはハニービーが数匹。歪な形をした蜂。そもそも、植物がほとんどないここで、一体どうやって生きているのか。


「身体に? 」


砂嵐サンドストームの魔法が飛んできて、バンドーはアンをかばうと魔力分解を発動させて、身体で受ける。


「デスパレスのルールがさ。ここは命のやり取りをする場所だ。感情に任せて突っ込んでいい訳ないし、余裕かまして突破できる訳でもない」


事実、デスパレスで何人もの死人を見てきたし、組んだパーティメンバーが死んでしまった事もある。


「慎重に、確実に、無理をせず前に進む。そうだろ? 」


そう言いながら、魔物の相手をするのはどうかと、アンは思ったが、口に出すのは止めた。聞いたのは自分だし、バンドーの言いたい事は判る。


「例え親が死のうが、大事な人間が攫われようが冷静でいなければいけない場所なんだよ、ここは」


「ありがとう、バンドー」


「はっ? 」


言うなり、アンは飛足を加速している。低い姿勢からの苦無、3連射。そして半回転してからのゼノ式


「横一閃・逆薙ぎ月下! 」


空中で両足を絡めて薙ぎ、片手を付いて側転から片足で立つとさらに身体を半回転させて飛び、脚を入れ替えて繰り返す。


魔力と気力の乗った薄緑色の衝撃波が発生すると螺旋状に絡まりながら、アースエレメンタルを直撃し、吹き飛ばす。アースエレメンタルは壁に叩きつけられると半壊した。


蛇足だが、今までのエレメンタル系は皆、例外なく巨大イソギンチャクだったが、アースエレメンタルだけは何故かゴーレムチックな人型をしている。


「おかげで気合が入った」


バンドーと二人きりでここまで戦ってきて、自分は少々浮かれていたのかもしれないとアンは思う。そうだ、ここはデスパレス。例え親が死のうが、大事な人間が攫われようが冷静でいなければいけない場所。


「あれ? 」


気が付くと、大広間の掃討は終わっていた。残りはボス部屋のみ。


「行くぞ? 」


バンドーは、先に行くとハンドサインを送る。ボス部屋の扉を開け、バンドー・アンの順に飛び込むと、扉は音を立てて閉まった。


いつもの手順である。


バンドーがボス部屋中央まで先行し、アンにハンドサインを送る。威圧と身代わりスキル発動、ターゲットを自分に寄せる。襲い掛かってきた土ハニービーの群れを引き受けつつ、魔力全開、側宙から開脚、周囲を足技で蹴散らす多人数相手限定の型、ゼノ式格闘術の二の型『かわせみ』、その後ろではアンが潜伏から横に飛んでいる。


アンの低い前傾姿勢からの飛足陣風爪破ひそくじんぷうそうはが飛び、砂悪魔サンドデーモンが爆裂する。それを見るまでもなく、また潜伏。そして背中の小刀を抜刀しながら、それを縦横に振るう。


身体が温まってきた。


「無上・浮舟! 」


本来はゼノ式の技なのだが、それを小刀をもって行う。斬撃しながらのゼノ式発動は難しい。本来、ゼノ式は金属との相性が悪いのだ。だからバンドーも皮鎧を愛用している。


アンの小刀は実は特別製で、刀身が黒、黒曜石から削り出した特別製の刃が付けられている。


「飛足! 」


アンは気を脚に込め、わずかに宙に浮きながら壁面を走る。宙に浮いてるからこそできる。そこから切りつけると、最後の砂悪魔サンドデーモンは断末魔の悲鳴を上げた。


「あっ、やん! 」


砂悪魔サンドデーモンの最後の腕の一振りで、無理な体勢から攻撃したアンはバランスを崩し、空中に放り投げられる。すかさず、バンドーがフォローに入った。アンの身体を抱き留めると、地面に立たせた。


「なんだ、抱っこして欲しいのか? 」


「あっ…… 」


甦る昨夜の記憶はアンの頬を瞬時に紅潮させ、だが瞳は笑っていない。


チン


短い金切り音と共に、小刀を背中に納めると、アンは動いた。


腰を低く落とし、呼吸を整えるとバンドーの懐に踏み込む。右腕拳を伸ばしバンドーの顎あたりに向かうと見せかけて、肘を鳩尾に叩き込むつもりだ。


ひよどりの変形。恐らく鳩尾に当てた後、半回転して後ろを取るつもりなのだろう。


バンドーは、瞬時に悟るとアンの畳まれた肘の内側に左腕を差し込み極め、アンの踵に軽く蹴りを入れて、それと同時に右手の平を、アンの額に当てて軽く押す。


「きゃん! 」


アンの身体は半回転して、地面に落ちた。


「……ひよどり返しかぁ」


バンドーにとっては、散々エナに受けた技である。


「悪い、つい反射的に返しちまった」


差し出されたバンドーの腕を掴み、アンは身体を起こすと言葉を吐き出した、文字通り。


「ううん、逆にすっきりした」


ここにはバンドーと自分の二人しかいない。自分は常々、バンドーに言いたい事を言うのが苦手だった。何もかも吐き出して、すっきりした。むしろこれで向き合える気がする。


「今、思ったんだけどよ。お前が俺の事をケインにいって言ってたのってさ、ひょっとしてカササギの影響…… 」


「お前は、どうしてそうなんだ! 」


まあ、取りあえず19階層突破。

























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