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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第八章 
122/134

火炎エリア13階層ラスト

13階層奥に広がる大広間までは石畳が続く単純通路、この階層に罠の類は一切無い。通路側面には一定間隔で先人が残した魔法の灯火が吊るされていて、ボス部屋までの道筋ははっきりしている。


「アン、ボス部屋までは先導してくれ」


「了解! 」


アンはバンドーの少し前を走り、途中ベルトから粉薬を舞わせた。特に効力は無い。ただ、風向きを見ただけ。大広間の手前で二人は一旦泊まり、アンは気配感知スキルを最大にする。大広間を突っ切った奥にボス部屋へと続く扉がある。


「いけるか、アン? 」


「ファイアーエレメンタルが3匹、右に2、左に1」


思ったより少ない。


「アン、俺は右に……っておい? 」


アンは既に右の2匹に向かって走り出している。


「ちっ」


バンドーも躊躇せず、飛足を加速し、左のファイアーエレメンタルに向かうと左肘に装着している双頭蛇ケーリュケイオンからアンカーを引き延ばした。


「アンカーブロウ! 」


左手を上、右左と器用に動かし、ファイアーエレメンタルが伸ばしてきた触手を器用に掻い潜るとやじりを突き込み、魔力分解を発動、相手の最期を確認する間も無くアンカーを戻しながら身体を反転させる。


「アン? 」


ファイアーエレメンタル2匹に向かっていったアンは、ベルトから苦無を3本抜き、ベルトにぶら下げている小袋に刺すとゲル状の液体を塗布し、縦一列に投擲、同時に背中の小刀を抜いて左手に持ち替え、右手を刀の柄に押し当てて突進する。


先に投げた苦無がファイアーエレメンタルに当たると同時に青白い炎が上がる。この炎はファイアーエレメンタルが嫌がる水属性、苦無に塗布した液体の効果である。それと同時に一瞬、アンの姿が消えたように見えた。実際には、苦無が当たると同時に潜伏スキルを発動、ターゲットを逸らしたうえで側面に回り込み小刀で切りかかる。


斬月ざんげつ燕飛えんび角一閃かどいっせん! 」


半円状に切り込んだ小刀を押し込み、横に薙ぐ。高さ3メートルほどの斑な赤色をした巨大イソギンチャクのような形をしたファイアーエレメンタルはくぐもったような声をあげながら震えると、頭部から触手を伸ばしつつ火炎槍ファイアーランスの魔法を撃ってくるが既にアンはそこにはいない。飛足で更に側面に回り、効き足を踏ん張ると低い体勢から飛足で加速しながら思い切り気と魔力の塊を小刀に乗せて撃ち出した。


「『飛足陣風爪破ひそくじんぷうそうは』! 」


薄緑色の衝撃波が、ファイアーエレメンタルに突き刺さっている苦無目がけて飛んでいき、当たると逆十字の亀裂を生み出して、ファイアーエレメンタルを細切れに打ち砕いた。


「へへっと、……あっ、ずるーい! 」


見るともう一匹のファイアーエレメンタルが形を崩すところで、バンドーが無言でアンカーのワイヤーを戻している。


「こっから、俺が前に出る」


再び走り出したバンドーのすぐ後ろにアンが付く。二人は大広間の奥の扉に取り付くと顔を見合わせた。


「いいか? 」


アンはハンドサインで応えながら、腰の円刃エメラテに手をやり確認する。


扉が開いた。先にバンドーが突出する。飛足で加速し、ボス部屋中央でターゲットを引き受けながら敵の総数を把握。


ファイアーデビルが中央に3体、その脇にそれぞれファイアーエレメンタルが1体ずつ、合計2体。左右に3体ずつ合計6体のファイアーウルフ。ファイアーエレメンタルはゆっくりとその巨体を回転させ始め、それを尻目に6体のファイアーウルフが地を蹴ると火炎を吐きながら飛び掛かってくる。


「うおりゃ! 」


バンドーは立ち止まらず、むしろファイアーウルフの群れに飛び掛かると魔力全開、側宙から開脚、周囲を足技で蹴散らす多人数相手限定の型、ゼノ式格闘術の二の型『かわせみ』発動。もちろん魔力も乗った刃をも撒き散らすと、魔力分解も解放した。銀色の明滅が消えると、既にファイアーウルフの姿は無い。


「次ぃ! 」


バンドーの後方にはアンも付いてきている。バンドーは残るファイアーエレメンタルに向かって飛足を発動し突進しながらアンにハンドサイン。


それを見るなり、アンは潜伏スキルを発動すると、バンドーもそのすぐ後に威圧と身代わりスキルを発動、ターゲットを自分に集中した事を確認し、左肘の双頭蛇ケーリュケイオンからアンカーをファイアーエレメンタルに向けて射出する。


アンは潜伏を解くと右側面に回り込み、懐から取り出した複数の苦無を両手に持ち、また腰の袋に突き刺して水属性のエンチャントを施すと中央に位置するファイアーデビルに十字投擲した。苦無は狙いを違わず、ファイアーデビルの翼に当たると一匹を壁に縫い付けた。


「動かないでね! 」


仮にも相手は13階層のボス格である。それが時間稼ぎに過ぎない事はアンにも判っている。アンは腰から円刃エメラテを二つ両手に持ち水属性にエンチャント化、身体を反時計回りに回転させると気と魔力と共に解き放つ。


「エンゲージ! 」


投げられた円刃エメラテは途中で上下に重ね合わされるように対になると不規則に楕円を描きながら青白い炎を上げ、身体の自由を奪われていたファイアーデビルを右下から左上に逆袈裟懸け状に切り裂くと爆発した。


それを見ながらアンは既に左に飛んでいる。バンドーがまたハンドサイン、アンは潜伏スキルを使う。バンドーが威圧と身代わりでターゲットを集める。単純な繰り返しだが、実戦で多数相手に実際にはなかなかできる事ではない。


アンは再び潜伏を解き、今度はファイアーエレメンタルに向けて水属性にエンチャントされた苦無を十字に投げる。ちなみに、アンは何もやみくもにターゲットを決めている訳ではない。敵の挙動を見極め、バンドーへのターゲットを外しそうになった順にきちんと攻撃している。


「ちっ」


ファイアーエレメンタルもウィルオウィスプと同じく、触れただけで火属性攻撃を受けたのと同じ判定が入る。もっとも、ウィルオウィスプの場合は何故か物理ダメージだが。とにかく誤ってかすったファイアーエレメンタルの触手がアンが自らにあらかじめ掛けておいた魔装防御リアクティブアーマーを剥がしてしまった。


「えっ? 」


そこでバンドーのハンドサイン。『下がれ』だった。もうすでに敵はファイアーデビル2体とファイアーエレメンタル1体になっていた。


勝気なアンではあるが、バンドーの言う事は聞く。彼女は頬を一瞬ふくらませたが、指示通りに入り口の扉付近まで後退した。ちなみに入り口の扉は、戦闘開始と共に閉まり、施錠されている。


「あああ、もっと戦いたかったな」


残りの敵をバンドーが消し去っていくのを見ながら、アンは微かに呟くのであった。





























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