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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第一章 ユメとカスミ編
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ブートキャンプ

この回、バンドー君はすごく傲慢なように見えますが、実は彼はかなりリスクを冒しています。

本当なら秘密にしなければならない事も明かしてるんですね。

彼は本当に面倒見がいいですね。

翌朝、バンドー・カスミ・ユメの三人はバンドー家の庭にいた。

バンドー家の庭は割と広い。プロレスごっこを数人でできるくらいには。

庭と道の境目には人の背丈の倍くらいの塀が張り巡らされており、周囲の目を気にする必要もない。


「いいか、お前ら。これからバンドー式ブートキャンプを始める! 」


「おー。」

「ひゃいっ 」


カスミが既に涙目なのは、気のせいだろう。今朝、あれだけ言い含めたのだ。


「カスミ、お前が他のギルメンから相手にされなかったのは何故か判るか? それはお前が弱いからだ! この俺が鍛えて強くしてやろう。俺が鍛えれば確実に強くなる! 」


そう散々言い含めたからな。そう、カスミが他のギルメンから相手にされなかったのは、カスミが弱いからなのだ。


「カスミ、ファイアーボールを撃ってみろ。」


言われた通り、呪文を詠唱してカスミはファイアーボールを撃つ。

呪文詠唱・魔法陣展開・杖が光り、ファイアーボールが発射される。


「よくできたな。実はこの呪文だけで何種類もの技術を鍛えることができるんだ。それを今からお前に教えようと思う。」


カスミは、何を言われたのか判らない感じだ。


「カスミ? お前4階層で戦闘してる時に、ファイアーボールの詠唱途中、キャンセル食らってたよな? あれは魔法陣展開中にお前が移動しちまったからだ。魔法陣の中心には必ず術者がいなければいけない。これは判るよな? 」


コクコクとカスミが頷く。


「魔法ギルドではこう教わったよな? 『魔法が発動するまでは動いてはいけません。』実はアレ、正確には正しくない。」


これは実は初心者限定の基礎で、実戦では移動しながら魔法を撃つ術者も多い。


一体、どうやっているのかというと、『詠唱・魔法陣展開・杖が光る』段階で魔法の名前を言わなければ魔法は杖にチャージ状態になる。その時間は術者の魔法習熟度や詠唱スキルや使っている杖の性能にもよるが、おおよそ20秒~40秒。この間だけ、術者は移動可能になり、移動して魔法名を言えば発射される訳だ。ただし、チャージ時間が一定以上過ぎるとキャンセル扱いになり、魔力を消費する。


「理解したか?この理屈を覚えれば、味方が危ない時に後ろから近寄って魔法を放つこともできるし、待ち伏せ中の敵がいる事が判っていれば、あらかじめ詠唱・魔法陣展開・チャージ・待ち伏せ近くに移動して魔法で先制攻撃ってのも可能になる。」


カスミは途中から真剣に聞いている。まさか、バンドーから魔法技術の講義を受けるとは思わなかったせいもあるだろうが、今バンドーが言った技術が、どうやら戦闘中に凄く役に立つだろう事は理解したようだ。


「まあ、こればかりは実際にやってみるしかない。カスミ、取りあえず詠唱・魔法陣展開・杖に魔力が移るところで止めてみろ。」


「原初の理に感謝して火の精に命ず・・・・」

カスミが詠唱を開始する。魔法陣展開、そして杖が光る。


「動け! 」


バンドーが声をかけた瞬間、カスミは走る。杖はまだ光っている。


「ファイアーボールだ! 」


バンドーが叫ぶ。カスミも叫んだ。


「ファイアーボール! 」


カスミの杖から小さな火球が飛び出し、庭先の木を揺らした。


「上出来じゃねーか! カスミ! 」


カスミは凄くうれしそうだ。久しぶりに笑顔が見れたな。


「今やった一連の理屈は、魔法を使って戦う中で無茶苦茶バリエーションが広がる。何度も試して、確実に自分の物にしろ! 」


「はい! バンドー先生! 」


先生か、いい響きだな。


「でも、バンドーさん、何でこんなに魔法の事に詳しいんですか? 」


バンドーの顔が引きつる。それは昔、魔力のないバンドーが何とかして魔法を使おうと、四苦八苦して修行勉強したからで、理論だけはゴールド級、とレイ教授に揶揄された事もある。


「い、いいから次だ! 次は逆に魔法キャンセルについてだ。魔法発動までのどこで止めるかで魔力を使うか魔力が返ってくるか、判るか? 」


正解は、詠唱・魔法陣展開中にキャンセルした場合、魔力は身体に戻ってくる。杖までいってからキャンセルすると魔力は消費される。何故、この知識が必要になってくるのか? これも移動魔法攻撃と関係してくる。敵の襲撃を予測してあらかじめ詠唱していても、杖に行くまでならキャンセルすれば魔力が戻ってくる。これを知っていれば、詠唱中にわざと移動してキャンセル、別の魔法を再詠唱、という一連の流れがスムーズにできるようになる。逆にこれらの理屈を知らなければ、意味のない魔法を詠唱発動まで待って、魔力を消費して、もう一度最初から詠唱などということになる。


「理解しました! つまりこの技術の必要性は、魔力と時間を節約する事にあるんですね?! 」


「その通りだ! 」


驚いた事に、カスミは一度聞いただけで魔法発動の理屈を理解した。莫迦だと思っていたが、魔法のセンスは人一倍あるんじゃないか? やるじゃないか。


「やるじゃねーか、見直した。褒美に俺の身体にファイアーボールを撃たせてやろう! 」


「ひゃい? バンドーさんはやっぱり、おかしいです! 」


「まあ聞け! 」


カスミに魔法センスがある事は判った。説明すれば理解するだろう。


「俺が持つ魔力分解というスキルは普通、人間には持てない。持ってるとすれば上位悪魔とか魔神クラスなんだ。そして、魔法習熟度は、強い奴に当てれば当てるほど上がりが早い! ここまで言えば、判るよな? 」


つまりファイアーボールをバンドーに当て続けるだけで、ファイアーボールの魔法習熟度は急速に上がる。

上がれば、それだけで威力が増すし、消費魔力も減る。

正直、バンドーに魔法を当て続ければ個々の魔法の魔法習熟度の上がり方は通常の5倍以上に跳ね上がる。


更に、個人差はあれど、魔力は使えば使うほど、その絶対量が増える傾向にあるから、こんなに効率のいい修行方法はない。


「り、理解しました。・・けど! やっぱり何か嫌ぁ! 」


そんな事を言いながらも、しっかりとファイアーボールの詠唱を始めるカスミ。やっぱりこいつはnoobだ!


「さて、ユメ。今度はお前の相手をする。お前はシルバーだし、俺と模擬格闘しても問題ないだろう。」


バンドーの背後には、ファイアーボールをバンドーに当て続けるカスミがいる。この構図はシュールだ。


「うちは別にやっても、ええんやけどな。うちのメインは短剣術やで? 」


ユメは片手に短剣をゆらゆら持ちながら、舌を出す。こいつはなかなかやる。だが、


「ユメが格闘術を鍛える意味はある。それをこれから見せる。見ればお前なら判るだろう。」


バンドーは腰を落とし、呼吸を整えるとユメに踏み込む。右腕拳を伸ばしユメの顎あたりで止め、そのまま肘を軽く当て、今度は右手のひらを返し首筋へ。当てずにユメを引き込むと身体を回転させ、背後へ。そしてバックブローから更に回転して背後からユメの右首筋に手を当てる。


「ほえ~? 」


ユメは、わずかに反応しただけで動かない。いや、バンドーから殺気が感じられなかったので、わざと動かなかったのかもしれない。


「今のはゼノ式格闘術の一の型”ひよどり”だ。ユメ、もしも今の一連の動作を、短剣を持ってやったらどうなると思う? 」


「あっ。」


ユメは理解したようだ。こいつはやっぱり判っている。


バンドーが言いたい事、それは、短剣術は刃が短いので突く動作が多い。だが、それに格闘術が混じればどうか? もう一度言うが、短剣は刃が短い。故に短剣は拳の延長と考えればいい。ならば短剣術は格闘術の応用に成り得るのではないか?


「俺が知っている盗賊は、靴にもナイフを仕込んで蹴っている。聞いた事ないか? 」


一体どうしたのか、ユメの目がキラキラ輝いている。こいつはひょっとして・・、


「うちな~、もっと強くなりたかってん。バンドーさん、最高やわ! 」


こいつはひょっとしてやばい何かを呼び覚ましてしまったかもしれん。


「バンドーさん! 動いちゃ、駄目です! 」


「黙れ、敵がじっとしてくれると思っているのか? これは修行だ! 」


こうして、バンドーブートキャンプの初日は過ぎていくのであった。











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