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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第八章 
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アルあるある

レイ・クリサリス・バーサク、年齢不詳。かつては王国宮廷魔術師筆頭を務め、数々のオリジナルを極めて弟子を持ち、3代に渡って王国に貢献した事もある。だが、3年前の王国と公国の戦争をきっかけにして、第3王女フィーネの後見人から自ら外れ、下野した。


しばらく放浪の末、旧知のエナ・アーハイト・ゼノアの元にいた所を、是非にと再三、王国に請われて王国に籍を戻すが、戻る条件として要求したのが何故かデスパレス冒険者ギルドのギルドマスターのイスであった。


それ以外はやる気にもならん、と。本心は王国の政争にほとほと疲れ果て、後の余生は自らがかねてより行いたかった事に没頭したかっただけなのだが。


致し方なし、レイほどの人材が他国に流れる可能性を考えると、国王ドッガーズはレイの希望を叶える他なかった。そうした紆余曲折を経て、今に至る。



レイとエナはかつて若い頃、迷宮デスパレス奥深くに潜り、魔神ヴァルケラススと対峙した事があった。いや、対峙などという言葉は恐らく相応しくは無く、まさに一蹴されたと置き換えるべきだろう。それ程に、魔神の能力ちからは強大であった。同じパーティにあった双子の巫女アルミリアとアーハイトは一瞬で分解された。どころか……


かかわるなと、全ての感覚が知恵が経験が彼ら戻った二人、エナとレイに告げていた。事実、彼らは魔神との遭遇を口にはしたものの、傍目から見れば別々の人生を歩んでいるように見えていた。


一体何ができるのであろうか? 相手は触れるだけで全てを覆す魔神である。それどころか産み出し、分割する事さえ自由自在。恐らく、それ以上の事もできるのであろう。


だが、それでも、魔神の能力をヒントにエナはゼノ式を創始したし、レイは密かに、迷宮内に直接転移できるオリジナルの開発をも手掛けていたのである。その成果が彼のオリジナルである空間転移ワープであった。それからもちろん、卒業リンカースキルの研究も行った。元より卒業リンカースキルの存在は知っている。文献にも載っているし、イルミタニア卒業の鍵であることから、そう言われている事も。だが、長年研究しても、そのスキル発現の条件解析は一向に進みはしなかった。


【魔力分解】・【魔力組成】・【魔力融合】からなる卒業リンカースキルを揃えれば、叡智の導きによりイルミタニアより高次元の世界に行けるらしい、その世界の名はシャンドラという。世間の人並みに言えば、それは御伽噺の類である。


だが10年前、レイとエナはひとりの少年に出会う。わずか6歳にして【魔力分解】スキルを持つ少年に。彼のそのスキルは、二人が見た事があるそれとは異なり、極めて不完全ではあったものの、おおいなるヒントには違いない。


そして10年を経て今、レイは無言であった。目を細めて、彼の前に座る少女に視線をやる。


「教授、どうしたんだよ。聞いてんのか? 」


レイは聞いていなかった。バンドーが連れてきた少女に、かつての許嫁の面影を見たからである。


アルミリア・プリム・アーハイト。彼のかつてのパーティを支えた双子の巫女の一人であり、レイの許嫁でもあったその女性は、彼の目の前で二人に分割されたのだ。それからどうなったのか知らぬ。彼とエナは魔神の能力によって強制的に地上に戻されたのだ。


似ている、似てはいるが、どこか違うかもしれぬ。


「レイ教授? 」


バンドーが、また何か叫んでいる。それを聞いた黒髪の少女は初めて言葉を発した。


「レイ? 」


涼やかな、それでいて優しみのある声であった。レイは思わず手を伸ばし、少女の頬に手を触れた。少女は片眼をつぶり、しかし嫌がる素振りをみせない。


「レイ、どーしたの? 」


判っている、判っている。恐らく、この娘に記憶はないだろう。魔神にいいように作り変えられてもいるのだろう。それでも尚、レイは手を伸ばさずにはいられなかった。長い間、心残りであったものが、今目の前にあるのだから。


手に触れて、そこでようやくレイは気持ちを取り戻す。無理矢理にだが。


「バンドーよ、この娘をわしにくれんか? 」


「はああ?! 」


バンドーの視線は、この欲ボケジジイ、と言った感じである。もとよりレイも本気ではない。

本気では……


「冗談じゃ。それで? 」


「だから、こいつがカスミに化けてたんだよ」


バンドーの方もようやくであった。昨日の事から話し始め、今朝のアルの言葉も含めてレイ教授に伝える。


「なるほどのう」


レイは理解した。イルミダの時にそうだったように、恐らくこれも魔神の仕業であろうと。かつて彼がデスパレス深層75階層に潜り、魔神に出会った時に、彼はこうも言っていた。


『ふむ、君は”深淵を探求する者”持ちなんだね、なるほど。ではチャンスを与えよう、なに簡単な質問だ。判らなければヒントを与えてもいい…… 』


そしてこうも


『答えられんか? 最愛のものを失ってもスキルの発現もないようだしな…… 』


それらを総合するに、魔神は高位魔力スキル持ちであるから自分を見逃し、そしてイルミダの時には卒業リンカースキル発現をうながすような行動をしている。


「教授、とにかく俺はカスミが何処に行って、どうなっちまったかを知りたいんだ。俺が、どうすればいいのかも」


「バンドーよ、よく聞け」


レイは、バンドーにも判るように説明を始めた。


恐らく、このアルというヴァンパイア・サキュバスがカスミに化けていた理由は、お主に愛され、殺されるためであろうと。そうする事によって、バンドーに卒業リンカースキルを発現させることが目的であろうと。


「まあ、どの卒業リンカースキルが発現するかまでは判らんがのう」


バンドーの口は既に半開きである。そうすると、今朝アルが言っていた


『バンドー、ご主人様の恋人になる為ですよ? 』という言葉は半ば本気だったことになる。そしてカスミがさらわれた理由は、自分が愛したからなのか?


「教授、判らねえ、判らねえよ…… 」


レイ教授の言っている事は理解できる。だが、目の前で起こっている出来事が何のために引き起こされているのかが理解できない。


「バンドーよ、聞くがよい。恐らく、そのカスミという娘とは二度と会えん」


それどころか、魔神の事を考えれば人間以外の何かに作り変えられているか、分解されている可能性の方が高い。そもそも魔神の目的が、本当に卒業リンカースキルの発現にあるのだとすれば、ついでに手に入れた人間の娘など恐らく歯牙にもかけないだろう。レイはそうも思ったが、さすがにそこまで口に出してバンドーに言う気にはなれなかった。


「納得できねぇ。……納得できねぇよ!! 」


感情の激発と共に、バンドーの身体が白銀色に輝いた。そうしておいて、しばらく吠え続け、やがて彼が手を付くと収まる。


「……バンドー、お主」


レイは知った。バンドーが【魔力分解】を完全覚醒している事を。


「おれは、行くよ。行くしかないだろ? 」


「バンドー、待て待つがよい 」


「止めんのかよ? 」


「いや、お主は魔神の能力を知らんじゃろ。詳しく教える故、それから判断するがよい」


止めるべきであろうし、恐らく魔神を打ち倒す事は不可能であろう。だが、少なくとも何もできぬよりはましかもしれぬ。その程度の認識ではあるが。


(それに何より、恐らく魔神は卒業リンカースキルに異常な執着があるとみた。常人であればステージが違い過ぎて話にもならぬが、ひとつとはいえ卒業リンカースキルを完全覚醒したこやつなら、魔神もまともに話くらい、聞くやもしれぬ)


そもそも、その為に打った布石ではないか。


「ただし、行くならお主ひとりにせよ」


「バンドー、ご主人様? レイ レイ 危ないよ? 」


真剣に話し込み始めた、バンドーとレイ教授を尻目に、アルは片手を振り回しながら何やら鼻歌を歌っている。


やがて彼女は窓際によると、外を眺めながら、やおら呟くのであった。


「……危ないよ? 危ないったら。ご主人様、行っては駄目…… 」
















































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