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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第八章 
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アルが来た理由

どんな夜にも朝はくる。


朝陽が差し、鳥の鳴き声がする日常通りの事象でも、心の持ちようによってはがらりと変わる。今のバンドーがそれであった。


昨晩ミリアが帰った後、少し迷いはあったがバンドーは黒の魔石に魔力を込めた。魔石を手に取り、気を込める要領である。魔石はたちまち反応し、起動したのを確認するとその場に放り投げる。


やがてそれは陽炎が湧きたつようにゆらゆらと周囲の空間を揺らしたかと思うと、たゆとう白煙のようなものを吐き出して人の形を取り、輪郭を形作ると間もなく以前のミリアマリア程の幼い少女を現出させた。


何故か涙目である。


舌打ちしながら、バンドーが指を差し出すと食らいつき、それに合わせるようにバンドーも魔力を指から放出する。


「終わりだ」


際限なく続くその気配に、バンドーは手を振ると、魔力の供給を打ち切った。再生されたアルシャンドラ、通称アルは既に年の頃、11~12歳、既に少女の手前まで育っている。だが記憶はまだあやふやなようで、周囲を見回しては不安そうにしている。


(これが、あのアルシャンドラなのか? )


確かにあの特徴的な、左の瞳と右の瞳の色が違うさまや美しい黒髪は同じなのだが。背中にあったはずの灰褐色の羽根は今はなく、いや注意してよく見ると黒い突起のようなものが背中にあるのだが、見た限りでは羽根に見えない。歳に似合わぬ漆黒の肌着を着ているが、これもミリアマリアのように伸び縮みするのだろうか。


ミリアは『泣き虫アル』とか言っていたが、その名に違わぬ怯えっぷりで、取りあえずベッドに押し込んで眠らせようとしても、バンドーの袖をつかんで離さない。仕方なく、バンドーも寝床に潜り込んで、ようよう朝を迎えた訳である。


というか、元々俺のベッドなんだがさて。


バンドーがベッドから起き出して着替えなどをしている音に気が付いたのか、アルも半身を起こしているが何処か虚ろだ。どうも、昔ミリアマリアを再起動した時より反応が鈍いというか、あいつは最初からうるさかったものだが、そう言えばまだ声も聞いていない。


「アル、」


名前を呼ばれて、肩を上下するアルである。そこでようやく、昔ミリアマリアを再起動した時にレイ教授に言われた事を思い出す。


「アル、俺が命じるまで自由にしていいぞ」


そこでようやく、アルの色違いの瞳が瞬いた。


「ただし、俺の目が届く範囲にいろ。判ったな? 」


「はい、ご主人様! 名前をうかがってもよろしいですか? 」


思ったより元気に返事をされて、バンドーは一瞬引く。くそっ、可愛いと思ってしまった自分が憎い。

こいつは敵、場合によっては無理矢理情報を引き出す必要もある敵なのだから。というか素直過ぎる。反応がまるで真っさらではないか。かつての記憶が全然ないのか? もう少し、年齢を引き上げる必要があるかもしれない。


「バンドーでいい。ちょっと飯、食ってくる。お前も来るか? 」


そう言ったのは失敗だったかもしれない。食堂に降りて、フィーネやアメリアさんと食事を始めたのだが、皆一様に無言である。というか、給仕に立ったヘルミットの両腕が震えている。


ちなみにユメは何処かに出かけて、今朝はいない。多分盗賊ギルドだろう。


「ご主人様? 」


「なんだ? 」


「その、生き物は何かご説明頂きたいのですが? 」


さすがヘルミット、見た目が違っても勘づいたか。


「場合によっては、立ちどころに始末してご覧に――― 」


そう言いながら既にヘルミットの片手には彼女の愛槍である『ブリオナ』が逆手に握られていた。殺気を感じ取ったアルはバンドーの背後に隠れて、彼の肌着を握りしめている。アルの震えが背中越しに伝わってきた。


「待てヘルミット、こいつの名前はアルと言う」


「アルシャンドラですね?! 」


「いや、アルだ」


「くっ、その特徴的なまなこ、紛う事なく我が一族の仇ではありませんか! いくらご主人様とは言え、お戯れが過ぎます! 」


すまん、ヘルミット。それを計算に入れてなかった。


「こいつは昨晩まで、カスミに化けていた。ヘルミット、お前カスミと親しかったよな? 一体どうして気付かなかった? 」


「なっ? 」


バンドーの思いもよらなかった返しに、ヘルミットは全身を屈辱で震わせる。


「カスミにずっと、香やメイド仕事を教えて仲良くしてたよな。それが、こいつだ。お前、気付かなかったのか? 」


ひどい、正にブーメラン。だが実直なヘルミットにはショックだったようで、というか予想外の事実を突きつけられて混乱している。それと共にバンドーは、自問してもいた。


(ヘルミットが気付かなかったという事は、カスミが入れ替わったのはヘルミットが来る以前かヘルミットとカスミが仲良くなるちょっと前あたりなのか? それとも本当に気付かなかったのか…… )


「まあ、とにかくだ。ヘルミット、こいつの所有権は、こいつの正体を暴いた俺にある。手出しするな」


「くっ」


実のところ、バンドーとしても本意ではないのだが、説明が面倒くさいというか、まだ考えがまとまらないというか……。


いや、それでは駄目だ。やはりちゃんと説明しよう。ヘルミットが可哀想だ。


「悪かったヘルミット。ちゃんと説明する。こいつは確かにアルシャンドラで、昨晩までカスミに化けていた。それに気づいて魔力分解でリセットしたので、今は害意が無い。多分無い筈だ。お前には悪いが、俺はカスミが何処に行ったのか、まずそれをはっきりさせたいんだ。だから、今は槍を収めてくれ」


まあ、ミリアとの約束は取りあえず置く。そこまで説明していたらというか、ミリアが何故そう言う事を言い出したのか、昔の仲間だからなのか、それとも他に理由があるからなのか俺自身も把握していないし、説明しきれないから今は言うつもりはない。


何とか感情を抑えたヘルミットを見て取ると、バンドーはさらに言葉を続けた。


「今日中に、こいつを連れてレイ教授に会ってくる。一体何がどうなっているのか、実は俺にも理解できてないんだ。まずはカスミがどうなったのかを確認したい。いいな? 」


「……ご主人様の、よろしいように。確かにカスミ様がさらわれたのであれば、それを優先するのは当たり前の事です。私の復讐など過去の恩讐にすぎません」


そう言いながら、ヘルミットは槍を何処かに仕舞うと片手を胸に当てて礼をした。

ヘルミットの仕草がいつもの優雅さを取り戻している。うっかりしていたが、何とかしのいだか。


後は困った時のレイ教授頼み、取りあえず今まで起こった出来事を教授に全て話して意見を聞く。場合によっては、アルをもう少し育てて、一体何が目的だったのかも確認しなければ……


「アル? 」


スープの皿に顔を突っ込んで舐めていたアルがバンドーの方を見た。うーむ、見た目11~12歳くらいまで育てたのだが、どう見ても仕草や行動が幼児に見える。時間の経過や学習が必要なのだろうか?


「アル、お前何でカスミに化けていたんだ? 」


バンドーは駄目元で聞いてみた。アルは何かを思い出すように中空を見ていたがやがて笑顔で言葉を返す。


「バンドー、ご主人様の恋人になる為ですよ? 」


なんだと? 


「ずるいです、許しません! 」


音を立ててスプーンを置きながら、フィーネが何か叫んでいる。


口を半開きにしながら、左手を額に当てるバンドーである。こいつは一体、本気で言っているのか? いや冗談や追従の類は、再起動したばかりのこいつにはハードルが高すぎる筈。いやしかし……


謎が謎を呼ぶ展開に文字通り、バンドーは頭を抱えるのであった。








くっ、進まねえ。ちなみに今日(5/1)も出勤でした。

あ、それと昨日のPVが何故か過去最高でした。

こんな好き勝手に書いてるお話にお付き合いいただき、ありがとうございます。

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