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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第八章 
116/134

正体

『星屑の光』の面々が去るのと同時に、フィーネを乗せたアラカンがふわりと軟着陸する。


「バンドー様、もう終わりなのですか? 」


どうやらフィーネには物足りなかったようだ。それよりもカスミだ。アラカンから降りるなり、カスミはぐったりしたようにバンドーに身体を預けた。


こいつが本当にニセモノなのか?


カスミの身体を抱え上げながら、バンドーの頭の中で様々な思考が渦巻くが、取りあえずカスミを邸内に運び込み、部屋のベッドに降ろすと布団をかける。


「お前ら、見世物じゃないぞ? 」


心配そうに集まってきていたフィーネやアメリアさんを追い散らすと、部屋の扉を閉め、カスミの顔を覗き込む。


ショートカットの茶色がかった髪の毛や、小さな耳の裾に生える産毛に至るまであちこちに視線をやるが、何処をどう見てもカスミに見える。小柄な身体は今は布団の下で胸を静かに動悸させている。


「取りあえず、置くか」


とは言ったものの、部屋を出て食堂でヘルミットにお茶を入れてもらいながら、バンドーは様々に考える。

ティアはバンドーに任せると言った。実はあいつらしくないのだが、それは置いておいて一体どうするか。

仮にカスミがニセモノだったとして、いつからだ? 何故そんな事になっている? 一体何が目的で誰がそんな事をするというのだろう。


「お待たせしました」


ヘルミットからティーカップを受け取り、座っている椅子を後ろにやや傾けながら思考を続けるが湧き出してくるのは疑問ばかりであった。




夜、いつものように客間で横になっているとカスミがやってきて、バンドーの寝具に潜り込む。

いつもなら、頭をくしゃくしゃするのだが、今夜は何もしない。


「なあ、カスミ。お前は何で、ここにいるんだ? 」


割とざっくりした質問である。


「バンドーさんが、好き、だからですよ? 」


何を今さら、という風にカスミは答える。ふむ、そういう意味で聞いたんじゃ、なかったんだがな。


バンドーにとって、カスミは最初取るに足らない存在だった。気まぐれにデスパレスで助けたともいえる。その後、危なくて目が離せない存在になって、境遇を聞いて頑張って生きようとしているカスミに共感も抱いた。事実、頑張ってもいたし。そして……


「カスミ、わりい」


バンドーはカスミを押し倒すと、右手を首の後ろに回して彼女の右肩を掴み、左手は腰に回して逃げられないようにする。


「えっ? んんっ?! 」


そのうえで、彼女の唇を奪うと魔力分解を発動させた。


魔力分解スキルに完全に目覚めてしまった今となってはテクニカルなやり方だが、昔フィーネにやったように、カスミの体内の魔力だけを分解吸収してしまう。魔力枯渇まで。


「ん~?! 」


カスミが腕の中で暴れているが、途中で止めるつもりはない。魔力枯渇に陥れば、人間なら極度の眩暈や吐き気に襲われ、ポテンシャルが大幅に落ちはするが、いきなり死ぬことは無い。カスミが本物だったら、後で謝ればよい。


ふと、カスミの身体の輪郭が明滅したような気がする。キスをしているバンドーの視界にはカスミの髪の毛しか映っていないのだが。それが、その色が徐々に変化するのが見て取れる。そればかりか、抱いていたカスミの身体が少し小さくなった事も。


魔力枯渇に至る前に、バンドーのほうから唇を放した。


「嫌ぁ…… 」


今やバンドーの眼前にいるのは、肩までかかるストレートの黒髪に左右の色が違う印象的な瞳の色、以前見た時とはやや違う、黄色と赤の瞳。そんな、年の頃が7~8歳くらいの少女が、頬を紅潮させ、身体を弓なりに膝を抱えるようにして、ベッドに横たわっている。


「お前…… 」


だが、それも束の間、ふと、客間の窓の方に人の気配を感じ、振り向くのと窓が外から開けられるのとが同時であった。


「バンドー、来ちゃった」


冗談とも本気ともつかない台詞を吐きながら、窓から客間に入ってきたのはミリアである。


「ミリアマリア、お前、何しに来た?! 」


「反応が強くなったから来たのよ。私だけじゃないわ、私を含めて5名でこの建物を夜の間、監視してたって訳。だいたい、ティア様が手ぶらで帰る訳ないでしょ? 」


ふふん、といった感じでミリアは腕を組んでいる。


「……まさか『泣き虫アル』がおがめるとは、思ってなかったけれど…… 」


「くっ」


バンドーが視線を戻す、その先には先程と同じように年の頃が7~8歳くらいの少女が、頬を紅潮させ、身体を弓なりに膝を抱えるようにして、ベッドに横たわって震えている。


「こいつは、やっぱりアルシャンドラなのか? 」


「そっ、幼生体や少女体の頃は泣き虫だったのよね~、この娘。その反動で成体になったらクソ生意気になったのかもね」


実は私の半身なんだけど、とさり気なく有り得ない事も付け加えるが、バンドーの意識は既にミリアから離れていた。


「お前、どうしてここにいる?! カスミはどうした?! 答えろよ! 」


「あっ、ああ。知らない、知らない! 」


「なんだと?! 」


幼生体になったからなのか、急激に魔力を抜かれたせいか、アルの答えは要領を得ない。


「無理よ、バンドー。ここまで戻されたら、多分記憶も欠落してるわ」


「くっ! 」


ちなみに、ヴァンパイア・サキュバス種は魔神によって、魔力分解に反応して快感を得るように身体を作り変えられている。彼の支配下から逃れられぬように。


バンドーの右手がぶれ、白銀色に光り輝く。その輝きはミリアも知っていた。


「あ、あなた、ちょっと待ってバンドー! 」


バンドーは感情に任せてアルを分解するところだった。済んでのところでミリアに止められ、右腕を下ろす。


「バンドー、いえご主人様。魔力分解の覚醒に成功していたのね。ねえ、お願いがあるの。この娘を生かして、あなたの配下に加えてくれないかしら」


一体こいつは、何を言い出すんだ? カスミは一体……

駄目だ、何を考えていいかすら思い浮かばない。


「お願い、ご主人様」


ミリアの態度が今までとは明らかに違う。けれど、


「くそっ! 」


言うなり、バンドーはいまだ震えている少女の唇を奪うと、今度こそ最後まで魔力を分解吸収した。

彼女の身体は最後に波打つと消えてなくなり、やがてベッドの上には黒の魔石が残るばかりである。


「感謝するわ、ご主人様」


バンドーの、その行動を見てもミリアは形の良い眉、ひとつ動かさない。頭を下げて丁寧に礼を言うと、窓から飛び立っていった。


「くそ、何なんだよ、お前らぁ! 」



















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