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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第八章 
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バンドーお兄様

まだ少し風が冷たい昼前。東大通りから路地を抜けて中央大通りに出ると荷車の列に出会う。恐らく朝市をひけた売り子達が郊外に荷を戻しているところなのだろう。馬車くらいはイルミタニアにもある。


ふと、見た事のあるとんがり帽子を目にして、バンドーは飛足を止めて確認した。濃い緑色の魔法ハットに黄色のリボンを巻いている。カササギのトレードマークだ。薄緑のレザーブラウス。袖先は折り込んで肘で止めている。カササギを街中で見かけるのは珍しい。興味本位についていくと、大通りの冒険者ギルド近くの酒場に入って行く様子。


「飯でも食うのか? 」


そう言えば昼前である。酒場と言っても食事もできるし、冒険者ギルドの近くなので多数の冒険者が利用している。まあ、バンドーはどちらかと言えば自炊派なのでカスミのブロンズランク昇進祝い以来、ご無沙汰なのだが。


蛇足だが、イルミタニアではアイアンより青銅ブロンズの方が価値は高い。前世パーシィではおよそ逆だろうが、ここでは逆転している。理由は、アイアンよりも青銅ブロンズの方が魔力を通すからで、魔法職人たちにとって、加工する事が容易いのだ。なので青銅ブロンズは様々な用途に使われており、アイアンよりも人気があった。そのせいもあるのか、冒険者の最低ランクはアイアンで、その次にブロンズがくる。


ちなみにカササギは15歳にして、ゴールドランクに達していた。


カササギの動向が気になったバンドーは、つい酒場の扉を開けてしまう。


中では、可愛らしい子供たちが走り回っていた。


「すいません、お客さん。今日は貸し切りでして! 」


愛想のいい大将が、バンドーが入って来るなり声を掛ける。よく見ると、貸し切りのプレートが扉に掛かっていた。


「あれ~? バンドーさんじゃないですか! 」


声の方を振り向くとカトルがいた。連隊レジメントになった『紅蓮』のリーダーである。


「カトルさん、すまねえ! ちょっとカササギを見かけちまったもんで…… 」


カトルが手招きをしている。


「皆さ~ん、カササギちゃんのお兄さんが、来てくれましたよ~? 」


「ええ?! 」


何だ、その反応は。だが、子供たち相手では文句も言えない。


(……これが噂に名高い、カトル幼稚園か…… )


可愛いもの大好きのカトルが、可愛い子供たちを集めて魔法を教えているのは有名だが、まさか酒場でそんな事をしているとは思いもよらない。ちなみにメインパーティメンバー5名は全員魔術師。デスパレスでも異色のパーティである。というか、連隊レジメントのほとんどが魔術師だったりする。恐らく、カトルがその気になれば、王国一の魔法中隊を形成する事も可能かもしれない。


「ケイン兄さま、よく来てくれました! 」


あれ? 予想以上にカササギの機嫌は、よいようだ。


カササギとバンドーとの出会いはバンドーが6歳の時、まだジューダスにいた頃に召喚されてきたカササギと出会ったのだ。その時のカササギは5歳だった。その後、間もなくバンドーはレイ教授の紹介でゼノ式の創始者であるエナに連れられて、ゼノ式の総本山である『月下桃華の峰』に登り修行に入ったが、カササギはカトルに引き取られて魔法を叩きこまれた。ティアの見立てによると、カササギには凄い魔法の才能があったらしい。そのせいか、幼少にもかかわらず、わずか5年で位階魔法の習得を終え、10歳の時にバンドーを追いかけるように『月下桃華の峰』の門を叩いている。それから5年、バンドーとカササギは『月下桃華の峰』で同じ修業の時間を共有し、様々な出来事や事件にも遭遇した。デスパレスに出てきたのはバンドーが先だったが、カササギも数か月遅れでお山を降りるとデスパレスに来てバンドーと同じパーティを組む事もあった。


ちなみに、カササギの冒険者ギルド登録名は『月下つきしたカササギ』という。登録名は基本自由なのだが、彼女の場合、どちらが名字でどちらが名前なのか、冒険者達の間でネタにされた事もある。まあ、本人は全く気にしていないようだが。


「バンドーさん、今日はアリアテちゃんとヒューイちゃんの卒業式なのですよ! 」


なるほど、さすがに常時酒場でカトル幼稚園をしている訳ではないらしい。なんでも、アリアテとヒューイが卒業してカトルの連隊レジメントに入る祝いの席であるとか。ちなみに二人とも14歳。14歳と言えば、この世界イルミタニアでは立派に成人である。


「はーい、お料理が来ましたよ~? 皆さん、今日は無礼講です! 飲んで食べて楽しく過ごしましょう! 」


果たして、子供に無礼講の意味が判るのか? まあ、それはともかく飲んで食べてって。


「かんぱ~い! 」


騒ぐ子供たちを、カササギは要領よく面倒をみている。カササギは15歳だが、この中では立派に大人の役目を果たしていて、どちらかと言えば子供たちと一緒にはしゃぎたがるカトルを抑えつつ、空になったお皿やコップを片付けたりしていた。


「そう言えば、バンドーさん聞きましたよ? 」


バンドーも一緒になってカササギの手伝いをしていたところに、カトルが声を掛ける。


「子爵に叙任されたそうですね! 」


そう言えば、カトルはギルド委員もやっていた。昨日の事とは言え情報は早い。


「えええ? お兄様が?! 」


どうやらカササギは知らなかったようだ。


「ええ、バンドーさんはカタリナ王女から子爵に叙任されたそうです。冒険者で子爵、凄いですね! 」


凄いと言われても、実はバンドー自身、子爵叙任の実感が湧いていないので反応に困る。けれどカササギの驚きも束の間、子供たちの喧騒に押し流されて、その相手に忙殺され、結局ふたりは卒業式という名のパーティが終わるまで、ろくに話す事も出来なかった。


「はーい、皆さんお疲れ様でした~! ギルドハウスに帰るまでが卒業式ですからねぇ~? 」


カトル率いる『紅蓮』のギルドハウスは地上4階地下2階。おまけに庭にプールまであると聞いた事がある。デスパレス冒険者ギルドでも古参の彼が趣味に趣味を重ねた豪奢なつくりらしいがバンドーは行った事が無い。まあ、それはともかくカトルの引率で子供たちは列を並べて帰っていく。規則正しい、その隊列から察するに、さすがにお酒は入ってなかったようだ。


カトルがこっちを向いて、片眼を閉じた。


気が付けば、酒場にはカササギとバンドーの二人を残すのみ。


「ケインお兄様、おつかれさまです」


そう言いながら、カササギも少々疲れているようだ。


「お前もおつかれ」


言ってから、お前と言ってまずかったかな? などと思ったバンドーだったが、カササギは気にする風もない。


「お兄様、カササギはずうっと見ていましたよ? 」


カササギは魔法帽をかぶり直し、思い直したように、頭から取ってから、今度は払う仕草をみせて視線をバンドーの方に向ける。


「お兄様は、ずうっと報われませんでした。お山の時も、こちらに来ても」


(そうか? )


と言いかけて止める。決して自分では報われていないなどとは思っていないが、今はカササギの言葉を待とう。


「異端を掛けられ、お山でもなかなか認められず、ついにはティア様をかばってお山を降りて、ここでもひとりでずっと」


傍目に見れば、そうかもしれない。けれどそもそも、お前は自分から離れていったじゃないか、とも思うがミリアマリアの一件は仕様が無いだろう。自分でもショックではあったし。


「お兄様、カササギも『銀翼の華』に入れていただけませんか? 」


どうしたんだろう。否やは無い、けれど。


「しばらく離れて判りました。私は……、カササギはやっぱりお兄様のお手伝いがしたいのです。ティア様は何と言うか、判りませんけど…… 」


バンドーは何も言わずに、ただ頷くだけ。人生、一寸先には何が起こるか判らないな。


「よろしく、お願いしますね? 」


その後、二人は久し振りに色々な事を話した。それから、酒場を出てカササギがゲートを開く。


「本当に、いいのですね? バンドーお兄様 」


「それでいい 」


二人の間に、どんな話があったのか。二人を飲み込んだゲートは、しばらくして消えた。




















































誤字修正 4/24


離れて言った→離れていった

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