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君はあるがままに なるように  作者: 風神RED
第一章 ユメとカスミ編
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後始末のツケ

よかったなー、バンドー。作者をなめんなよw

「王都から依頼がくるそうじゃよ。」


バンドーはさっさとスキル「飛足」で帰る気になれず、さっきのレイ教授との会話を思い出しながら大通りを歩いていた。


実はバンドーは幼い頃、ある事情で神殿から異端認定されている。ぶっちゃけて言えば、神殿魔法が効かない魔物の子扱いされ、騎士候補の資格も剥奪され、危うく処刑されるところだった。


6歳の時、バンドーと父、ガウガメラ・ジューダス・コモロは流行り病にかかった。その頃のコモロの家は貧しく、神殿の神官を呼んで治癒魔法をお願いするお金にも事欠くありさまだった。


やっとお金をかき集めたものの、用意できたのは一人分。父のガウガメラは母親のマユミに言ったのだった。


「俺はもういい。ケインにかけてやってくれ。ケインの方が大事だ。こいつはいい騎士になる。俺には判る。」


ガウガメラは治癒魔法が間に合わずに息を引き取った。

だがようやくやってきた神殿の治癒魔法使いが自信満々にかけたグレーターヒールはバンドーのスキルに阻まれ、霧散したのである。


「なんでぇ?! なんでよ! 」


母上であるマユミの悲鳴が、今もバンドーの耳に残っている。



「まあ、これ以上、考えても仕方ないよな。」


王都からバンドーを訪ねて誰か来る以上の情報はないのだ。レイ教授は場合によっては身辺整理が必要と言っていたが、それはバンドー、イコール ケインとばれた時。それに例えケインの名前がばれたとしても、今から処刑されるだろうか?もう10年たっているし、その間、いろいろとあったし。


「ああああ、また考えちまってる。」


止めだ、止め。そうだ、この際、早く帰ろう。自分の事で悩むより、他人の悩みを解決する方がましな気がする。バンドーは思いなおすと、スキル「飛足」を使った。



家に戻ると、カスミがわずかに復活していた。ユメか? ユメ! よくやった!ナイスだ!


「その、バンドーさん。いろいろとお世話になりました・・。」


ユメとカスミは頭を下げる。


「行くのか? よし、これを持ってけ。」


金貨5枚と銀貨20枚入った袋を渡す。

そう言えば、言い忘れていたが、この世界の通貨の価値はこうなっている。

金貨1枚が銀貨20枚になり、銀貨1枚が銅貨20枚になる。


宿屋で一泊すると銀貨2~4枚程度だろうか。ユメが大切そうに袋を受け取った。

さすがだ、こいつはカスミの100倍、物事が判っている。遠慮して受け取りそうにないカスミとは違う。

ここでは日本人の感覚は必要ない。むしろ邪魔だ。


「ところで、お前ら。どうする気だ? 新メンバー募るのか? それとも、どこかのパーティに入るつもりか? 」


「出たとこ勝負やなぁ。」


ユメは答えるが、カスミはどこかぼーっとしている。まだ傷は癒えないようだ。むう、大丈夫だろうか?

だが、これ以上、世話を焼いてやる義理はない。たぶん。


「カスミ、ユメ。もし何か困った事になったら、遠慮なく、ここに来い。俺を頼れ。まあ、普段はどっぷりデスパレスに浸かってるんで、いないかもしれないけどな? 」


取りあえず、そう言っておこう。今夜はゆっくりできそうだ。


「じゃあな! 」


カスミとユメが去っていった。これでいい、これでいいんだ。

何故か、胸のあたりがモンモンとするが、これでいいのだ。


「さて、と。」


取りあえず庭に出たバンドーは装備を置いてある納屋に向かう。今からデスパレスだと遅すぎる気がするし、いい機会だから装備を整備しておくべきだろう。極太の針を取り出し、皮装備の繕いにかかる。


”バンドーの裁縫スキルが上がった”というのは冗談ではない。裁縫スキルが無いと皮装備は整備できない。服も繕えるし髪の毛も結える。使いどころはともかくとして、意外と家庭的なんだな、バンドー。


夜、久しぶりに風呂を沸かす。タイルを貼った本格的な風呂。だが、魔法の使えないバンドーは沸いたお湯を汗だくになりながら浴槽に流し込む。風呂を沸かしたから汗だくになって風呂に入る感じがしないでもないが、思い切り足を伸ばして入れる浴槽がバンドーにとっては必要なのだ。たまには。


「く~、いい湯だった! 」


満足したバンドーは、上半身裸で庭先にいた。もはや女の子などいない。ここは自由空間。だが、彼のスキルは近くに人を検知する。


「誰だ~? こんな時間に~? 」


門のところまで行くと、誰かいる。来訪者か?背丈以上ある門の、右手にある小さな勝手口を開けて外に出る。ゼノ式なら、例え上半身裸でも戦えるからOKなのだ。


途端、抱きつかれた!


「バンドーさん! バンドーさん! 」


泣きながら抱きついてきたのはカスミだった。

何だ、おいどうした? 帰ってくるのが早すぎないか? ユメはどうした?

ユメもいた。おい、てへペロしてんじゃねぇ。


「あ~、その何だ、入るか? 」


そう言うのが精いっぱいのバンドー。


取りあえず肌着を羽織り、カスミとユメを食堂に案内する。

一体、何があった? 取りあえず、話を聞こうじゃないか。


ユメの話によると、こうだった。

取りあえず、冒険者ギルドに行き、新規メンバーを募集しているパーティと連絡を取り、会ったらしい。

ところが、ことごとく拒否された。


曰く、


パーティメンバー死亡の後始末もできないような人間をパーティに入れる訳にはいかない。


死人が出たばかりのパーティメンを入れたら縁起が悪い。


アイアン? うちは間に合ってます。


ユメちゃんだけならいいよ?

 


くっ、ひどいひどすぎる。音に聞こえたデスパレス冒険者ギルドの看板が泣くじゃないか。


仕方がないので、新規メンバー募集の張り紙を出したらしいのだが、早々に


「ここに入ると死にます、注意! 」


と落書きされたらしい。ここまでくると、カスミのダメージがMAXになって、もう新メンバー探しどころではなくなったとか。


「ひどいんです! バンドーさん! 聞いてくだしゃい! 」


カスミのセリフの最後の方は声が裏返っている。


「鉄鬼の人がぁ! 私たちの事を悪く言いふらしているらしいんですぅ! 」


それきり、カスミは大泣きである。


「あっ・・! 」


それはひょっとして俺のせいかもしれない。ひょっとしなくても俺のせい?ガンツ締め落としたし、わびもなく逃げたし、


「あいつぅぅぅぅぅ! 」


と言ったものの、バンドーの顔は引きつっている。やばい、これはギルド義務を怠ったカスミも悪いんだが、ギルメンに広めた俺の罪はもっと重い、・・・・かもしれない。


「・・・・・くっ! カスミぃぃ! 」


「・・ひゃい? 」


「取りあえず、風呂沸いてるから風呂入れ! なっ? 風呂で涙を洗い流してこい。ユメも一緒にどうだ? 」


「ええ? お風呂あんの? うちものごっつう、うれしいわ! カスミちゃん、行こ行こ! なっ? 」


「・・・・・ひゃい。」


嵐は去った・・・・、取りあえず。


「がぁぁぁぁぁ! 」


頭を抱えるバンドーを残して。







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